第72話 どういうご関係ですか?
「なるほど。えっちねえ……」
帝都で一番大きな書店で宮姫と並んで本を物色しながら。
俺の話を聞いた宮姫が、隣でくすくすと小さく笑い声を漏らした。
「笑い事じゃないですよ。どこでそんな言葉を覚えてきたんだか……」
「大体にして女の子の方がませているものよ。よっぼど大好きなお兄様に見られるのが恥ずかしかったんでしょうね」
可愛いじゃない、と笑って言う宮姫に。
宮姫の言っていることはわかるし、確かに可愛いことにも同意はする。
でも。
「あんまり……、急いで成長してくれなくてもいいんですけどね」
そうつぶやくと、宮姫が「ぷっ」と声を上げて、くつくつと笑い声を堪えるように肩を震わせた。
「……なんですか」
「いえ……、眉目秀麗、かつ聡明で名の知れた西園寺蓮様が、妹のことになると本当に形無しよね……」
なんだかんだいって蓮様も、ただの男の子なんだと思って安心するわ、と宮姫が笑った。
「……周りが騒ぎ立てるだけで、僕自身はいたって凡庸な男ですよ」
「それ、他の方が耳にしたら卒倒してよ? 西園寺蓮で凡庸なら俺はなんなんだって」
宮姫がさらりとそう言うが、言われた俺としては釈然としない思いだ。
こっちとしては、優秀な後継者である【西園寺蓮】で居続けるために、どれだけ努力してると思ってるんだって話で。
人生2周目だから頑張れてるけど、これが1周目だったら多分無理だよ……。
かつて一度、大人になったことがあって、「ああ、子供の時に学校で勉強させてもらえていたことって、すごくありがたいことだったんだな」と思えるようになったからこそ、いま学ばせてもらえることの有り難みも楽しみも感じて頑張れるけど、人生1周目だったら子供らしく普通に遊びたいと思ってたと思うし……。
そう考えると、現在人生1周目で真面目に頑張ってる白百合や菊華を見ると、偉いなあと思ってほろりと涙が出そうな気持ちになるよほんと。
俺自身、もともと勉強はさほど苦手な方でもなかったけど、別に天才ってわけでもなかったから、それなりに努力はしなければいけないわけで。
とはいえ、この場でそれを宮姫に熱く語って、己の凡庸さの正当性を説き伏せても仕方ないから、特にこれ以上取り沙汰することもないんだけども。
と、そんなことを考えながら、引き続き本を選別する宮姫の隣でじっと付き添っていたら。
「……蓮?」
ちょうど宮姫が立つ側と反対側――、隣に誰もいない方角から、聞き慣れた人物の声が聞こえた。
「蒼梧」
「偶然だな。お前も来てたのか」
「うん」
そう言って、笑いながらこちらに近づいてきた蒼梧だったが、俺との距離があと3歩くらいのところまで来たところで、後ろにいる宮姫の存在に気づく。
蒼梧の視線を追って俺も背後の宮姫をちらりと見たが、当の宮姫はというと何故か、なんともいえない表情をしていた。
「……それは?」
「お久しゅうございますわ東條様。と言っても。わたくしのことなど覚えていらっしゃらないかも知れませんが」
《《それ》》、と蒼梧が宮姫をさして俺に尋ねた瞬間。
宮姫の方がぱっと俺の後ろから顔を出し、先手を取って蒼梧に話しかけた。
「お……、貴女は」
「あら、覚えていてくださったのかしら? ……だとしても、この場でわたくしの名前は出さないでいただけると助かるのですけれど」
どうやら、既知の間柄だったふたりの様子に俺も驚く。
しかしその割に、親密さよりはむしろ微妙な空気感が漂っていることに疑問を覚えるのだが。
え、どういうご関係ですか……?
「どうして……、お前たちが一緒にいるんだ」
「わたくし、蓮様とは最近、親しくさせていただいておりますの。こうして休日をご一緒してくださるくらいに」
宮姫を差し置いて俺に話しかけてくる蒼梧と、それを無視して蒼梧に返答する宮姫。
なんだかふたりの間に火花が飛び散っているように見えるのは俺の気のせいだろうか……?
「あの……、ふたりはもともと知り合いだったの?」
「ああ」
「ただ知っているだけの、文字通り《《ただの知り合い》》ですけれども」
双方の、全然答えになっていない返答をうけて、なんだかよくわからないけど因縁らしいものがあることだけは理解しました……。
「えーと……、ここで話しているのもなんだし。どこかゆっくりできるところにでも入る……?」
このままここにいると衆目を集めそうな気もしてきて、宮姫的にも良くないだろうと思い、そう提案したのだが。
「まあ蓮様。せっかくのふたりきりのデートですのに」
「は、でえと……?」
宮姫の言葉に、さらに蒼梧の表情に剣呑さが増した。




