第66話 帰宅とやきもち
喫茶店を出た後。
宮姫が「特に目的もないけれど街を見てみたい」と言うので、ふらふらと百貨店や呉服屋、路面店が立ち並ぶ大通りをふらりと歩いて回ることになった。
そうして、宮姫が御付きの女性に「せっかくのデートなのですから、ちょっと離れてくださるかしら?」と少し距離をとらせて、こちらの会話が聞こえないくらいの距離を保たせてくれる。
にこにこと、御付きの女性に礼をするようにひらひらと手を振った宮姫が、こちらに振り返ったと思うと、
「……久しぶりに甘味らしい甘味を食べて、ちょっと泣きそうだったわ……」
と、目頭に指を当てながら俺にそう言った。
帝を中心に考えられる食生活は、良質な材料で贅は尽くされているのだがなにぶん地味なのだと。
おやつとして甘味がでることもあるけれども、ほとんどが和菓子で洋菓子など目にすることもなければ口にする機会もない。
「おまけに、ありがたいことに私の健康管理もバッチリ考えられて食事を与えられているから、甘いものをこんなに食べたいだけ食べられることなんてなくてね……」
おかげで、ダイエットに苦労することなどなくなったけれども。
この世界にきて今日初めて食べたプリンとアイスクリームは、骨身に染みるほど美味しかったわ……、と宮姫が言った。
「蓮様がいなければこんな機会も得られなかったもの……。本当に感謝の気持ちでいっぱいよ」
「そんな大袈裟な……」
とはいえ、かくいう俺も似たような理由でお菓子作りをしているのだから宮姫の気持ちもわからなくはない。
俺だって今日、前世ぶりにクリームあんみつを食べて、クリームあんみつの上に乗ってるアイスクリームうまぁ……! と思ったし。
北大路先輩からチョコレートをもらった時だって、ものすごく感動したもんなあ……。
今度、機会があれば宮姫にチョコレートを差し入れしてあげようと思った。
皇宮への差し入れは、毒味とかの問題もいろいろあるだろうけど、そこはなんとか頑張ろう。
そんなことを思っている俺に、「まあ、甘味の話はいいわよ。こっちはついでなんだから」と宮姫が切り出してきて。
それよりも本題について話さないとね、と話題を振ってきたので、こちらも表情を真剣なものに切り替えた。
「とは言ったものの。……ごめんなさい。この間の、異能の封印についての件、まだこれといった情報は見つけられていないの」
「そうですか……」
「情報が揃ってから声をかけた方がいいかとも思ったのだけど、あれから少し時間も経ってしまったし、経過だけでも知らせておこうと思って」
手紙で知らせるという方法もあったけれども、話の内容的に紙面に残さず口頭で伝えた方が良いかと思って、と宮姫が言った。
確かに、宮姫の気遣いはもっともで、俺としても手紙で送られて万が一誰かに見られるよりも、こうして口頭で話を聞けた方がありがたいのは確かだった。
「ただ、いろいろ調べる中でわかったことなのだけど。皇家に連なる中でいわゆる隠密的な役割をするところがあって……、どうやらそのうちのひとつが、蓮様のお母様の出自の家だったのではないかと思うの」
「母の……?」
宮姫が言うにはどうやら、かつて異能を持つ貴族たちの家柄の中でも、皇家に仇なそうとした者がいた時代があり。
その際に、皇家の分家の中で、それを粛清し異能を封じる役割を持つ家が生まれたらしい。
「個人でではなく一族でおこなっていたということは、特殊能力ではなく、方法さえ知っていれば誰でも使える、何かの術か一種の催眠術のようなものではないかとも思うのだけど。封じることができるのなら、解くこともできるとは思うのよね」
なぜ、そんな重要な役割を持つ蓮様のお母様の家が途絶えてしまったのかはわからないけど、その辺りも含めて調査を進めていけば、なにかしらの情報は見つかると思うわ、と宮姫が言った。
「仕事が遅くて申し訳ないけれど、もう少し時間をもらえるかしら?」
「もちろんです。僕としては、手伝ってもらえるだけでありがたいですから」
むしろ僕にも手伝えることがあればなんでも言ってください、と宮姫に言うと「蓮様は本当にお優しい方ね」と苦笑された。
「そういえば、先日の運動会ではたいそうなご活躍だったと聞いたわ」
「活躍というか……、まあ」
ほとんど、蒼梧の暴走に付き合わされた会だった記憶しかないけど。
「私も見たかったけど……、まあ無理よね。ねえ。この世界の運動会ってどんなことをやるの?」
と、運動会について尋ねられたので、春は異能を使った運動会、秋は学舎合同でやる純粋なスポーツ大会であるということを説明し、先日の運動会について主に蒼梧の暴走について面白おかしく語った。
「そういえば、み……や様の異能がどんなものか、まだ聞いてなかったと思うんですけど。どんな異能をお持ちなのか聞いてもいいですか?」
宮姫、と往来で呼ぶのはよろしくないかと思って慌てて修正する。
そうして、俺の問いにキョトンとした宮姫は、そのまま苦笑をしたかと思うと「……まだ内緒」と悪戯げに笑ってごまかした。
その日は結局、そのまま世間話を交わして終わり、宮姫を皇宮まで送った後、自分も真っ直ぐに帰宅した。
◇
家に帰ると、俺の帰りを聞きつけて出迎えにきてくれた菊華がいつにもましてぴったりとくっついてきたのでどうしたのかと思ったら、「蓮様が外で女性と会ってると聞いて、やきもちを焼いたんだと思います……」と、菊華の御付きの女中にあとからこっそりと言われた。
小学校3年生は、もう立派な女子なんだなあ……!
と。
そんなことにも気づいた休日なのであった。




