第53話 いちごのロールケーキ
それぞれに、勉学や習い事で忙しくなったとはいえ、それでも兄妹の時間も守りたいというのは俺も妹たちも同じ思いで。
以前よりも頻度は減ってはしまったが、それでも週末の休みの日にはこうやって3人でお菓子を作る習慣はなんとか死守していた。
「お兄様。準備できました」
「うん、ありがとう白百合」
初等部4年生ともなると、もう1から10までこちらでお膳立てしなくてもある程度のことはできるようになる。
なので、今日みたいにあらかじめ白百合に材料と分量を書いたメモを渡しておいて、先に準備しておいてもらうことも最近ではしばしばだった。
「じゃあ始めようか。今日は、いちごのロールケーキを作ります」
「「はい!」」
俺の言葉に、白百合と菊華が元気な返事を返してくる。
いちごの旬は4月から5月。
いまがちょうどいい季節だ。
前世ではビニールハウスが存在していたから年がら年中食べられていたが、この時代にそんなものはもちろんないため、露地物を購入するしかない。
しかも高級品である。
なんというか、子供の時は食卓に出された果物をずっとなんとも思わずに食べていたけれども、自分が大人になってみると果物ってめちゃくちゃ嗜好品だったんだなって思ったんだよな……。
だって、別になくても生きるのに困らないし。
でもふと食べたくなったときに買おうと思って、その値段に驚愕した。
成人して、仕事を得て自分で稼ぐようになった後にスーパーで売られている果物の金額を見て、食卓に果物が並ぶのは親の愛情だったのだなあと思ったのを覚えている。
――おっと、話が逸れた。
野菜や果物が、いつどの時期が旬だと知るのも教養のひとつだ。
そしてそれは、習い事や勉強で知るというより、日々の生活の中で家族から学ぶことでもある。
今までは兄妹仲を深めることが主な目的のお菓子作りだったが、今後はこういったことも考えて取り入れていく必要があるなと思ったのだ。
本来、母親から学ぶであろう知識や教養を。
俺が少しでも、埋めてあげられたらと。
まあそれは、あくまでも俺のエゴだから、この子たちは知る必要ないんだけどね!
「お兄様、卵はこれくらいで大丈夫ですか?」
菊華が卵を割り、白百合がそれをときほぐす。
ふたりの微笑ましい共同作業を見ながら物思いにふけっていた俺に、白百合がそう尋ねてくる。
「ん、ああ。いいと思う。大丈夫だよ」
ありがとう、と白百合と菊華に礼を言うと「じゃあ、次は砂糖を3回に分けていれてくれるかな?」と指示を出す。
今回は、卵を白身と黄身で分ける別立てではなく、全卵で作る共立てで生地を作る。
個人的にその方が生地がしっとりするからという俺の好みだ。
ただし、正直別立てより共立ての方が卵を泡立てるの大変なんだよね。
白身だけより全卵の方が重いし……。
「力仕事だからこれは僕がやるね。白百合は僕が指示したら砂糖を入れて。菊華は――応援してて」
「はいっ!」
応援して、と言ったら、菊華が元気な返事をして、俺の左側にへばりついてきた。
どうやら、これが菊華なりの応援らしい――。
なんかもう、妹が何をしても可愛いって思う俺は病気なんだろうか……。
そんなことを思いながら、卵の入ったボウルを湯煎にかけ、泡立て器でしゃかしゃかと泡立て始めた。
――この作業、嫌いじゃないけど結構な重労働なんだよな。
それも、泡立ってふわふわしていく過程を見るのが好きだからいいんだけど――。
そんなことを思い、白百合に指示を出しながら卵を泡立てていたら、ふと脳裏に閃いたことがあった。
――これ、異能で中に空気を含ませることできないか?
基本的に、俺が異能で操作することができるのは目に見えて形があるものだ。
空気は目には見えない。だから一見不可能にも思える。
でも――、卵は目に見えてる。
だったら、卵に空気を含ませるイメージで使ったらどうだろう――?
そう思って、手を動かしながら混ぜている卵に意識を集中して、中に空気がたくさん入るイメージで異能を発動させてみたら、あっという間に共立てができた。
おお。
意外とやったらできるもんだな!
てかこれ、もっと早く気づけばよかった!
後悔先に立たず。それでも、今気づけてよかったと気を取り直しながら、湯煎から生地を外して「菊華、ボウルの底を拭くから布巾とって」と脇の菊華にお願いする。
後は、薄力粉を加えてざっくりまぜ。
溶かしたバターと牛乳を加えてざっくり混ぜ。
天板に生地を流し込んで焼く。
ロールケーキは生地が薄いから、すぐ焼き上がるのがいいよね!
それから、生地が冷めるまでしばし休憩。
本を読んでほしいとせがまれたので、3人で本棚から読みたい本を選んで、生地が冷めるまでの合間ふたりに本を読んで聞かせた。
生地が冷めたら、生クリームを泡立てて生地に塗り、薄くスライスしたイチゴをその上に乗せていく。
具材を載せ終わったら、端からくるくると巻いていき、再び30分ほど冷やして休ませる。
そうすると、生地とクリームが馴染み、切りやすくなって食べごろになるのである!
「わぁ……!」
カットされたロールケーキがさらに盛り付けられているのを見て、白百合と菊華が声を上げる。
「あ、待って。これも載せるから」
ふたりならんでロールケーキの乗った皿を凝視する後ろから、ふたりのために飾り切りしたイチゴも盛り付ける。
「ハート型!」
それを見た菊華が嬉しそうに声を上げる。
そう、ハート型に切ったイチゴだ。
「こっちはお花です……!」
ハート型の後に載せたのが、薄くスライスしたイチゴを巻いて、花に見立てた飾り切り。
これ……、確か前世でバレンタインの時に覚えたんだよな……。
あの時は「こんなの覚えていったいなんの役に立つんだ」と思ったが、まさか生まれ変わって妹を喜ばせる役に立つなど誰が想像しただろうか。
結果、役に立ったから良かったんだけどさ。
どうやら、イチゴの飾り切りは妹たちにお気に召していただけたらしく「お兄様すごい!」の連発をいただけた。
その後、綺麗に盛り付けたイチゴのロールケーキを頬張る妹たちを見ながら、スイーツと女子って見てるだけで癒しになることを再確認した俺なのだった。
が。
「じゃあ、お仕事中の父様にも、ケーキを差し入れしようか――」
と。
出来上がったロールケーキを父に差し入れしようかと言った俺に、ふたりが――主に白百合が、硬い表情を見せた。




