第45話 気づき
おっと、話が次の紫雲亭メンバーのことから逸れてしまった。
「うちの学年だったら、白河と藤原がいいと思いますけど」
そう言って、俺の隣で北大路先輩に同級生の名を連ねたのは、蒼梧だ。
「確かに、その二人の名前は聞いている。家柄も問題ないし、異能テストでも毎年上位にいるという話だったが……」
なるほど、東條がいいというなら一度話をしてみようか、と北大路先輩が首肯する。
…………。
――俺は。
ちょっと感動しました。
あの蒼梧が……!
あの! 自分中心! 他人に割と無関心!
だと思ってた蒼梧が!
ちゃんと他人を認めて推薦してる! と言うことに、ちょっと感動したのだ。
あんな、俺と出会ったばかりの頃「おまえ、調子に乗ってんじゃねーぞ」みたいなことを平気で人に向かって言ってのけていた蒼梧が……。
成長してるんだなあ……。ほろり。
と、思わず全く別のことで心を打たれていたところに。
「西園寺はどうだ?」
北大路先輩が俺にも話題を降ってきたので。
「僕も、蒼梧の意見と同じですね」
と。
確かに俺も、蒼梧の提案したふたりが適任かなと思っていたので、異論はないですよと思いながらそう返した。
「そうか……、ふたりが言うなら信憑性も高いね」
貴重な参考意見をありがとう、僕の方でも気にかけてみるね、と室堂先輩から礼を言われた。
そこで一旦、話に区切りがついたので。
せっかくだから紫雲亭の顔とも言える現会長と次期会長がいる場で、前々から誰かに聞いてみたいと思っていたことを尋ねてみる。
「あの、僕の方からも質問なんですけど。他人の精神とか意識に干渉する異能って、やっぱり珍しいものなんですか?」
紫雲亭には優秀な異能の使い手が揃ってはいたが、やはりその大半が念力や自然現象――いわゆる四大元素を具現化する能力の使い手ばかりで、精神や意識に干渉する異能力者には未だ会ったことがなかった。
――来年には白百合は9歳になる。
いよいよ、異能を顕現できるか否かの時間的な猶予がなくなってきたと、最近そのことを気にしていた俺だったのだが。
「――そうだな。そう言った、人の精神や意識、精神世界に関する能力というのは、皇家に連なる血筋のものに出るものと言われているが」
「……皇家に連なるもの、ですか?」
「ああ」
――ん?
皇家に連なる血筋のものに出る……?
北大路先輩の答えに、ひっかかりを覚えた俺は思わず眉を顰める。
――母じゃん。
それってうちの母のことじゃん。
西園寺霞。
俺たちの母親である女性は、先々帝の姫君を母に持つ――、つまりは皇家直系の血を引く生まれだ。
あれ――?
えっと……。
確か原作の設定だと、母親の血筋が精神感応系の術者の家系で。
自らの死期を悟った母が、白百合の力が暴走しないように封印した――?
あっ! そっか!
だから、原作の時点で既に母親が皇家の血筋だって明記はされていなかったけど仄めかされていたってわけで!
と、いうことは。
皇家の血筋の異能者に頼めば、白百合の異能が顕現できるようになんとかしてもらうことができる――?
…………。
えっ、てか、俺はダメなのかな?
霞の子供って点においては俺もそうなんだけど……。
「どうしたんだ蓮」
ひとりで考え込んで、と。
俺が一瞬で脳裏に展開された考えにしばし思考を奪われていると、蒼梧がそう言って俺を心配してきた。
「あ、いや。なんでもないよ」
そう言ってこともなげに蒼梧に答える。
正直、そんなに長考していたつもりはなかったんだけど。
こいつ、変なところで妙に敏いとこあるからな……。
「まあでも実際、皇家の宮様と関わり合いになれる人物も少ないし、皇家の御方の異能も秘匿されがちなところがあるから、実態は誰も知らないと言ったところが正解かな」
つまりは現代において、精神や意識に干渉することのできる力を持つ異能者は、どこかで皇家の血筋を受け継いだ者だということだ。
そういえば、と、北大路先輩の話で今まであまり気に留めていなかったことに気がついた。
「……なぜ学苑には、皇家の宮様がいらっしゃらないのですか?」
ふと振り返ってみると、自分達の学年はおろか、初等部・中等部・高等部すべてを思い当たってみても、皇家の人間がいるという話を聞いたことがない。
俺の知る世界では、皇家であっても、市井の子供たちと同じ学舎に通っていたのだ。
単に同世代にいないだけなのかと、あまり深く気にも止めずにいたが、今の話を聞くとそうでもないのではという考えが頭をよぎった。
「そりゃあ、現人神と俺たちとじゃ学ぶことが違うからだろう」
俺の質問に、北大路先輩が何を言っているんだとでも言いたげに答えを返してくる。
――でも。
――皇家の人も、人間ですよね――?
とは。
とてもじゃないが、口に出しては聞けなかった。
帝を始めとした、皇家の人間を【現人神】と呼ぶ世界。
【天授の才】と呼ばれる異能が存在し、四神が実在する世界。
【現人神】という言葉は、俺の知っている言葉とは違う意味合いを持っているのではないだろうか。
いつだかに父が俺に言った「もう少し大きくなったら、いつかお前も同行させてやろう」という言葉。
今になって思うと、あれは俺が思っていたよりももっと重い意味合いの言葉だったのではなかったのだろうか?
――いずれにせよ。
今まで特に関心を持たずにきたが、今後はもう少し皇家についての知識を得る必要があるということに思い至ったのだった。
◇
そうして、忘年会も終わり、2学期も終わりを迎えると、冬休みに入る。
クリスマス当日には、アドベントカレンダーのお礼だと、白百合と菊華が自ら書いた絵手紙をにこにこと差し出してくれた。
『お兄さま大すき!』と大きな字で書かれ、具体的にどこが好きなのかをたどたどしい文字でたくさん綴られた手紙は、なんだか視界が曇ってよく見えなかった……。




