第43話 騒動の幕引き
「――仰りたいことはわかりました」
「では……」
「しかし、先日から僕も申し上げているように、僕にも西園寺家という家を束ねていくものとしての責任と矜持があります。僕の一挙一動が、僕の家族――ひいては使用人への評判や評価に係ってくるのですが――。それに対して、桐生院様は果たして、責任を取れると言い切れますか?」
――そして僕は、僕の家族や使用人たちを守るためなら、戦う姿勢も辞さないつもりですが――と。
「それは……」
そうきっぱりと言い放った俺の言葉に、彼女――俺が桐生院と呼んだ女生徒が目に見えて怯んだ。
そうだ、思い出した。桐生院寿子――それが彼女の名前だ。
確か、侯爵位を持つ名家のお嬢様だった記憶がある。
先ほどからの説明を聞くからに、頭はまあ切れるのだろう。
そう思うと、確か学年成績順でもトップ5位の中でしょっちゅう見た名前だった気がする。
「急にクラスルームで話を持ち出すのではなく、事前に僕に対して話を持ちかけてくる辺りは配慮のある方なのかなと思っていましたが。ですが、結局のところあなたのやっていることは、13番目の妖精を蔑ろにした他の人たちと同じ振る舞いだと思いませんか?」
「…………」
俺の言葉に、桐生院寿子が気まずそうに口を噤んだ。
「また、他の女生徒の総意で、という話でしたが。あなたも仮にも侯爵家に名を連ねるものであるならば、他の女生徒たちをきちんと統率する力は身につけておいていただきたい」
彼女が、彼女の言う通り女生徒代表として俺に話を持ちかけてきたのであれば。
こちらが断った時点で、ちゃんと他の女生徒たちをなだめておさめるべきで、クラスルームであんな強行突破するような手段を取るべきではなかったのだ。
「……それは、……仰る通りですわ」
俺の言葉を受けた彼女は、胸元で拳を握りしめ、泣き出しそうになるのをぐっと堪えながら、かろうじてそう口にする。
それを見た俺は、自分の胃がキリキリと痛むのを感じた。
――確かに、彼女のやり口に腹も立っている。それは事実だ。
ただそれとはまた別で、女子に対して厳しく言うのは苦手なほうなんだよなあ……!!
それでなくても、悪役→没落の道を回避したくて、ここまでいい人間ムーブを貫いてきたのに!。
ほんとにさあ! 頼むからこんな脅しみたいなことやらせないでくれるかな……!?!?
とそんなことを思いながら。
とはいえここらが納めどきだなと見切りをつけ、話しながら思いついた妥協点――折衷案を口にした。
「――まあ、それはそれとして。学芸会で取り扱う作品のテーマ性としては、先ほどの案は悪くはなかったと思いますよ。本音か建前かはさておきですが」
女装は遠慮させていただきたいが、出番の少ない妖精のうちの一人くらいであれば、協力することを考えなくもない――と。
「え……、へ……?」
「12人のうちのひとりであれば、目立たずに紛れるでしょうし。妖精であればひとり中性的なのがいたとしてもまあキャラクターとして許されるでしょう」
それに別に、男の妖精がいてもいい――、はずだ――、多分――。
「わ、わたくしのことを、怒ってらっしゃるんじゃないんですの……?」
「愉快な気持ちではありませんでしたよ。……でも、僕はですね。罪を憎んで人を憎まず、がモットーなんです」
人は誰だって間違いを犯す。
でもそれで、間違いを犯した全ての人を憎んでしまっては、この世から争いは無くならない。
降りかかる火の粉は払うが、払った後に再び我が身に火の粉として降りかかって来なければそれでいい。
「でもそうですね――。もし貴女に自責の念があると仰るなら。僕の代わりにいばら姫は貴女がやってくださればそれで万事解決ではないですかね」
あと、王子はそのまま蒼梧が――、と。
俺が、にっこりと笑ってそう言うと。
「はっ!? 俺!?」
「当たり前だろ。自分で蒔いた種なんだから」
むしろ、折衷案として俺自らが妖精その1を申し出たのだから、蒼梧にはそれくらいやってもらわないと割に合わない。
それだって、俺が最初に蒼梧にちゃんと『いばら姫』のストーリーの説明をしておかなかったことで、クラスルームで話を止められなかった戒めとして請け負っている部分もあるんだからな!
興味本位であっち側に加担した蒼梧には、きっちり落とし前をつけてもらう。
――そう思っていた俺の気持ちのどこまでを、蒼梧が理解したのかはわからないが。
「あ――、クソ。わかったよ……」
と。
そう言いながら蒼梧が頭をガシガシと掻き、俺のくだした措置に了承の意を示し――。
ひとまずこの話は、終着を見せたのだった。
そんな中ひとり、蚊帳の外だった委員長が「なんか僕……、結局なんの役にも立ってなくてすみません……」と、居心地悪そうに縮こまっていたのは、ただの彼の災難である。
はあ……それにしても……。
いや、ほんとに疲れた騒動だった……。
その後、他のクラスメイトたちからも「西園寺様の意見も聞かずに強行してしまい、申し訳ありませんでした!!!!」と平謝りされ、まあいいよと苦笑しながら許しはしたのだが。
それ以来、他のクラスメイトからは『普段は温厚だが、怒らせるとすごく怖い西園寺様』という評価をされるようになり。
蒼梧からも「今度から俺も、お前の話は話半分で聞かずに、ちゃんと理解できるまで聞くわ……」とものすごく反省した言葉を受けたのだった。
まあ結果、舐められずに済んでよかったの……、かな?
精神的にも体力的にもめちゃくちゃ疲れるから二度とはごめんだけどね!!
――そうして無事、僕ら6年生クラスは、学芸会で『いばら姫』を公演することとなった。
結局、13人の妖精役は全員、中性的な雰囲気で統一しようという話でまとまり。
もともとの物語のこの役の設定が、妖精やら魔法使いやら魔女やらと、いろいろと統一性がなかったのでそこはあやふやにしてもいいだろうということで総意となったのだ。
どちらなのかと観客に追求されても、「妖精みたいなものだから性別はないです!」で押し通そうと。
結果、それが逆に、不思議な雰囲気を醸し出していてとてもよかった――と、後々観客たちからも好評を得ることになるのだが。
「――蓮様は、なんというか逆に、こういう中性的ないでたちの方が色気がでるのねえ」
と、学芸会を観に来た貴子様には言われ。
「ふわ……。お、お兄様……、天使様みたいです……!!」
「お兄様、あの……。お綺麗すぎてちょっと、私の目が……」
と、妹たちからもなぜかキラキラした眼差しを一心に受けたのであった。
――――――――――
【余談】
ちなみに、王子役をやることに腹を括った蒼梧が、王子の役ということで自分の培ってきた剣術を披露できる! と突然やたらと張り切りだしたのだが。
結果、演出の都合上ばっさりカットされてぎゃあぎゃあ言い出した蒼梧を黙らせたのも、また蓮だったのであった……。




