第42話 校舎裏の駆け引き
そうして、その日帰宅した俺は、とりあえず白に人型を取らせて「これからなにか有事があった際には、妹たちには人語を介してフォローできるようにすること」と約束させたのだったが。
――それよりなにより、問題は学芸会の方で。
◇
「そもそも、お前が最初っから反対票に手をあげていたらこんなことにはならなかったんだからな……」
朝、いつもより少し早めに登校し、蒼梧と合流した俺は、並んで歩きながら隣の蒼梧に恨み節をぶつける。
しかしまあ、それは本当にそうで。
西園寺、東條と揃って反対票に手をあげていたら、そもそもこんなことにはならなかったはずなのだ。
誰だって、クラスのツートップに逆らってまで強行しようなどとは思わない。
つまりは、蒼梧の起こした悪戯心が「あれ……? まあ東條様が挙げているのなら、いいのかな……?」的な方向に、クラス全員を動かしてしまったわけで――。
「……それに関しては言い訳のしようもない」
すまん、と。
珍しく、俺の言葉に蒼梧が素直に謝ってくる。
どうやら今回は、蒼梧も自分がやらかしてしまったという反省が強くあるらしく。
いつも自信満々感の強い蒼梧だが、なんだか今回は珍しくしょんぼりしていた。
そうして、ふたり揃って教室にたどり着いた俺たちは、目的の相手を見つけると、その相手が座る席に向かって一直線に向かっていった。
「――委員長。話があるんだけど」
声をかけたのは、例のクラス委員の女子ではなく、委員長のほうだ。
流石に、今回の諸悪の根源(?)とは言え、女生徒相手に男子生徒ふたりで凄むのは紳士的ではないと蒼梧と話したからで。
そうして、クラスのツートップから声をかけられたクラス委員長の方は、一体何事だろうと顔を青ざめさせたのだった――。
◇
「というわけで、今回の話は無かったことにしてもらいたい」
委員長を校舎裏に呼び出し、昨日話し合った通り、蒼梧が今回の学芸会を遂行できない理由を委員長に説明する。
ひとつは、蒼梧が自分がいばら姫のストーリーを知らなかったこと。
同性同士でやるには(それが異性であったとしても問題だが)生理的に厳しいシーンが含まれていることをわかっておらずに手をあげたこと。
それ故に、何の気なしに賛成票に上げてしまったが、内容を知ったからには流石に参加できない旨をクラス委員長に伝えた。
「あ……、あのう……。僕としてはおふたりの意見は重々承知しましたが、もはや僕の一存ではどうしようもないというか……」
「どうしようもあるとかないとかじゃなく、なんとかしてもらわないと困る」
もだもだと答える委員長に、蒼梧が眼前に迫って凄むと「ひぃっ……」と委員長が怯えたような声を出す。
そこに、俺たちの背後から、その場に呼んではいなかった別の第三者からの声がかかる。
「つまりそれは――、直接的な描写のあるシーンがなければ良い、ということではありませんの?」
「きみは――」
その場にいた全員の視線の集まった先にいた人物。
それは諸悪の根源――、もとい、クラス委員の女生徒だ。
「失礼。委員長がおふたりに連れていかれるのを目にいたしまして。わたくしのせいで委員長にご迷惑をおかけしてしまっているのを申し訳なく、陰でこっそりとお話を聞かせていただきました」
…………えーと…………。
つまり彼女は、盗み聞きをしていたと言うことをオブラートに包んで言っているわけだけれども……。
「当然、おふたりのご心配はごもっともですわ。わたくしとて、よもや初等部の学芸会でそのような性的描写をあからさまに見せる公演などもとより行うつもりもございません」
問題のシーンは、直接的にキスを仄めかす演出にはせず、王子が祈りを捧げたら姫が目覚める、という描写に台本を変更するつもりだったのだと彼女が言った。
「また、この物語を選んだ理由としては、テーマ性がはっきりと観客に伝えやすいからです。この物語の事件の発端は、王女の誕生を言祝ぎに来た12人の妖精たちが、最後に来た13人目の妖精を除け者にしたから事件が起こった。これは、誰かを虐げればその行いが自らに返ってくると言うことを示唆していることに他なりません。加えて、この物語は王子が努力の末に救おうとしたものの先に、幸福があるのだということを伝えようとすることができます」
つまりは、ただ私利私欲のために作品を選んだのではなく、作品を見る下の学年の生徒たちにもはっきりと提示できるものがあるから選んだのだ、と女生徒がきっぱりと言う。
えーと……。
じゃあこの場合、多数決で除け者にされている俺はどうなるのだろうか、とは思いながらも、それよりもまずは現実的な解決策を導くために別の提案を口にした。
「じゃあ……、作品を変えずに、配役を変えれば」
「この物語に出てくる女性の登場人物は15人。妖精13人と、王妃と、姫です。我々のクラスの女生徒は14人しかいません」
つまりは、誰か一役は必然的に男子生徒に担ってもらう必要があるのだということになる。
「さて、ここでみなさま、もう一度お考えくださいませ。このクラスで――、西園寺様以上に、この役――以外にしたとしても。女性役をやり遂げられる人物がいるのかどうかを」
そう言って彼女は、俺たちに向かってにっこりと笑った。
それを聞いた俺は――、さすがにもう、この辺りが限界点だと思った。




