第41話 裏切り者のうっかり
「蒼梧。お前……、裏切りやがって……」
放課後。
その日は珍しく、蒼梧の母――貴子様からお茶の誘いを受けていたので、蒼梧の家の車に乗せてもらって向かう途中、隣に平然と座る蒼梧に向かって恨み節を吐いた。
「クラスメイトの面白い企画に賛成票をあげるのは普通のことだろ」
「それで俺がとんでもない格好をさせられてもか!?」
――そうでなくても、普段から女子に間違えられやすい自覚はあった。【西園寺蓮】の顔は中性的で、どちらかというと優男よりなのだ。
まして、今くらいの年齢だと、体格的にも女子と見分けはつきにくい。
だからまあ、クラスの女生徒たちが俺に対して何を求めて頼んできたのかは察しがつくよね……。
美少女=俺、がやりたかったんでしょ!?
はいはい!!
でもさあ!!
西園寺家の嫡男が女装して舞台に上がっただなんてしれたら家の名折れでしかないよね!?
恥も外聞もあったもんじゃないよ!!
「いいじゃないか別に。元がいいんだし。それに、見てもお前だってわからないように仕上げるって言ってただろ」
「だからと言って! 人の口に戸は立てられないだろうが!」
見た人にはわからなくても、クラスメイトは間違いなく事実を知っているのだから!
「……そんなに嫌だったのか」
「だから最初からそうだって言ってるよね……」
眉間に皺を寄せながら俺にそう言ってくる蒼梧に、こっちはガックリと項垂れるしかなく……。
「……まあ、子供のやることだし。笑い話としてみんなすぐに忘れるさ」
「お前……、そうやってずっと他人事みたいに言ってるけど。自分も被害者なのわかってんの?」
そうなのだ。
こいつ、さっきからずっと俺の境遇を面白がっているばかりなのだけれども。
もしかしてこいつ……、今回の件で自分も被害者だと言うことをわかっていないんじゃないだろーか……?
「どういうことだ?」
案の定、俺の問いかけにキョトンとした表情で蒼梧が尋ねてくる。
「……お前、『いばら姫』読んだことないだろ……?」
――蒼梧が事の次第を正確に理解するのは、それから数十分後のことだ。
◇
「あり得ないだろ!!」
バタン! と、東條家の書斎から持ってきたグリム童話の本を閉じると、蒼梧が叫んだ。
「何考えてるんだうちのクラスの女子連中は!?!?」
「だから言っただろ最初っから!」
クラスの女子に対して激昂する蒼梧に対して、俺は『自分は最初からちゃんと説明した』と負けじと言い返す。
「せ……接吻するシーンがあるなんて聞いてないぞ……!」
「知ってると思ったんだよ! いばら姫くらい!」
言い慣れない言葉を吐くのが恥ずかしいのか、顔を赤らめながら俺を責めてくる蒼梧に、まさか蒼梧がいばら姫のあらすじを知らないと思ってなかった俺が言い返す。
「お、俺はこう……、なんというか、剣術みたいなので王子がバッタバッタ敵を薙ぎ倒し、王女を救う話なのかと」
てっきり、姫の役割が【敵に攫われた王女】くらいの設定だと思っていたから、それくらいなら面白いしいいんじゃないかと思っていたらしい。
スーパーマ●オかよ!?!?
ねえ!? 揃いも揃って天然ばっかりなんですけど俺の周り!?!?
いや……、でも今回に関しては「はは、天然かわいいなww」ですまないから洒落にならないんですよね!!
――と、そこに。
「あら蓮様……、お待たせしました」
なにやら盛り上がっていたようですけれど、お邪魔だったかしら? と。
静かに扉を開け、室内に入ってきた貴子様がふわふわと笑った。
その腕の中には――、トカゲもどきの幼体の蒼龍がちょこんと鎮座ましましており。
トカゲもどきが、ひらりと貴子様の腕からこぼれ落ちたかと思うと、なにがどうなっているのか、そのまま流れるような滑らかさでトカゲもどきから人型に変身した。
「うむ、貴子。ここまでの運び、ご苦労であった」
「いいえ蒼様。お安い御用ですわ」
「――蓮。改めて紹介しよう。これが、蒼龍だ」
先ほどまでの学芸会の件での狼狽ぶりはどこへやら、蒼龍を俺に紹介する蒼梧は、どことなくドヤあ! と言わんばかりの表情で俺に告げてくる。
……………………。
ええと………………。
「……あの。四神が、そんなみだりに人前に姿を晒していいものなんですか……?」
しかも、契約者でもない人間を前に、人語を介して会話までしている。
あまりにも節操なさすぎではと思った俺の疑問に対し、蒼龍が「なに、あくまでも主人の身内だけだ。他所ではそうやすやすとは見せん」と、ふふんと曰ったので。
思わず、足元でゴロゴロしていた自分の四神にもの言いたげな目線を送ると、『わ……、我はこの姿に誇りを持っておるにゃ!』と言ってきた。
「……てことは白も、人型をとろうと思えば、とれるってこと……?」
『そやつができるにゃに、我にできぬわけがにゃかろ』
「………………」
とりあえず、今日は帰ったら白に人型をとらせてみて。
今度から有事の際には人化して対応できるようになってもらおうと思いました……。
ちなみに、貴子様と蒼龍はいまやすっかり茶飲み友達なのだそうだ。
お茶の最中の様子を見た限りでは、どうやら貴子様が蒼龍をスイーツで餌付けしたのだと察した。
すげーな……、東條家……。




