第31話 東條蒼梧
俺が【西園寺蓮】という同級生の存在を認識したのは、初等部4年生の時だ。
それまで、同じ学苑内、同じ初等部に西園寺の息子がいるということは知ってはいたが、正直あまり興味を抱いたことはなかった。
もちろん、廊下ですれ違ったり、どこかで見たことはあったろうが、他のクラスメイトと同じで俺にとっては意識を払う必要がないと判じた存在だった。
――のだが。
初等部の4年で初めて行われた異能テストで、とんでもない結果を出した生徒がでた。
それがその【西園寺蓮】だということを知って、居ても立っても居られずに教室まで様子を見に行ったのが全ての始まりだった。
色素の薄い髪。
身体つきも細くて、整った中性的な顔立ちは、一瞬女生徒かと見間違えたくらいだった。
――こんな、ナヨナヨとしたやつが? 俺より優秀?
噂で聞いた話だと、どうやらこいつは、白虎の召喚を成し遂げた奴らしく。
どうせ、白虎を召喚して得た副産物で能力が底上げでもされているのだろう。
努力している者を嘲笑うかのように、努力もせずに結果を出して飄々と存在されていることに苛立ちを覚えた。
――そんな奴にも白虎が召喚できるなら、俺にだって。
そう思いながら俺は、見ているだけに留めずにずんずんと教室内に乗り込み、自分の席で帰り支度を始めていた西園寺蓮に声をかけた。
「おい、お前。ちょっと顔を貸せ」
と――。
◇
「蒼梧。これ、この間の紅茶のお礼」
よかったらご両親にも、と。
昼食後、いつもの中庭での休憩時間に、そう言って蓮が俺に小さな紙包みを差し出してくる。
「またお菓子で、二番煎じだけど」
「いや――」
ありがとう、と素直に礼を言って、差し出された包みを受け取る。
――結論から言うと。
俺が、出会った当初に感じていた【西園寺蓮】の印象は全くの誤解だった。
こいつは、熱意も体温も感じさせないような飄々とした生き方を見せておきながら、その実、人の何倍も努力することを厭わない。
俺から見えているところでさえそうなのだから、見えてないところも含めるとどれくらい努力してるのだろうと思う。
――ストイックすぎるだろ。10代半ばにもならない子供が。
というのが感想で。
そのくせ、他人を観察して人に気を使うことも怠らないのだ。
超人すぎて嫌になる。
女子みたいな顔してるくせに、というのは完全に自分のやっかみだし、それとは関係ないと自覚しているので胸の内に留めておくが。
しかし今や、こいつの存在が割と俺の中の大部分を占めているというのも確かな事実としてあり。
――居心地がいいし、楽しいのだ。こいつといると。
他の奴らみたいに変におもねってくることもないし、「東條だから」という色眼鏡で見てくることもない。
価値観が近いのか、単に向こうがこっちに寄せてきてくれているのかわからないが、話していても楽しくて、気がつくとつい絡んでしまう自分がいる。
口に出して言ったことはないが、親友というのはこういうものなのだろうかとふと思う。
まあ、こっぱずかしいからこの先、口に出していうこともないとは思うが。
「なに? さっきから」
俺の顔に何かついてる? と。
物思いながら何気なく蓮を見ていた俺を訝しみ、蓮がそう尋ねてくる。
――こいつ、他のやつらの前では良い子ぶって『僕』っていうくせに、最近俺の前だと『俺』って言うんだよな。
「……目と鼻と口がついてる」と蓮に減らず口を返しながら、近くにあったたんぽぽの綿ぼうしをふうっと蓮に向かって吹きかけた。
「わ、何すんだよ」と言い返してくる蓮に、そんなちょっとしたことで特別感を覚えてしまっている我ながら単純すぎる自分を、綿ぼうしで隠しながら。
――そういえば。この間こいつの妹が乗り込んできた時も面白かったな。
最高学年の教室に単身で乗り込んでくるのも度胸があって面白いと思ったが、その後がまた更に面白かった。
『これから、お兄様に恋文を出す時は、私を通してくださいませ!!』と。
普通、そんなことを言うためにわざわざ教室まで乗り込んでくるか?
よっぽど妹から好かれてるんだなと思って苦笑うしかなかったし、その後の蓮の弁明も最高に面白かった。
クラスに他の男連中のいる中で、恋文の返事を返さないことについて男女ともに反感を買わぬよう一生懸命気を使いながら話す蓮は、普段飄々としている姿しか見せないだけになかなかお目にかかれなくて斬新だった。
帰り道でも、ふとした瞬間に思い出して肩を揺らしてしまった。
――本当に、一緒にいて面白すぎるだろ。
「今度、お前の家にも遊びに行かせろよ」
「……うちは、難しい年頃の妹たちがいるからダメ」
「難しいってなんだよ? 小2と小1だろ?」
俺の反論に「色々、事情があるんだよ」と口を尖らせてお茶を濁そうとする蓮に。
「仕方ない。じゃあまたうちにでも遊びにこいよ」
うちの親もまたお前と話したがっていたし、と言うと、蓮は「……予定が合う時な」とさらりと返してきて、また手元の本に目線を落とした。
本当、優しすぎるんだって、お前。
と、そう思いながらも、それにつけこんでる自分も自覚しつつ。
言質がとれたことに満足した俺は、手の中に残った綿ぼうしの残骸を、ふうっと風に飛ばしたのだった。




