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【書籍化】悪役令嬢の兄に転生した華族令息の俺、破滅回避のために妹教育を頑張ったら、最高に可愛いブラコン令嬢を爆誕させてしまいました  作者: 遠 都衣
初等部編

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第30話 くるみと紅茶のパウンドケーキ

 落ち込んでばかりいてもしょうがない。

 こういうときは手を動かすに限る。


 今回は、以前蒼梧からもらった紅茶を使ってパウンドケーキを作ることにした。

 本当はクリームチーズを入れたかったのだが、残念ながらクリームチーズはまだこの時代に普及していなかった……!

 ので、くるみを混ぜてくるみと紅茶のパウンドケーキにすることにしました。


 妹たちとおやつで食べる分。

 蒼梧に紅茶をもらったお礼で渡す分。

 余った分は使用人たちに配る。

 

「じゃあ、白百合はくるみを刻んでくれる? 包丁は気をつけてね」

「はい」

「菊華は、すり鉢で紅茶を細かくして」

「はい!」


 エプロン姿の白百合と菊華が元気よく答える。

 そして、その間に俺は材料の計量だ。

 薄力粉と、バターと、砂糖と卵。


 すべて1パウンド(ポンド)の分量で材料を混ぜて作るからパウンドケーキと言うのだと俺に教えてくれたのは、前世の母だった。


 前世の母は、俺が小学校に上がったときはまだ専業主婦で。

 学校が終わって家に帰ると、焼きたてのお菓子の匂いが家中に広がっていることにいつもワクワクしていた。

 『おやつを作ってあるから、手を洗ったら食べてもいいわよ』と言われて、その日のおやつが何なのかを見るのがすごく楽しみだった。


 その後、俺が小学校2年生に上がる時には母が働き始めてしまったので、ごくごくほんの短い期間の思い出なのだが。


 でも多分それが、俺がお菓子を作るようになったルーツ。

 前世でも、俺が体験した「帰ってきたらおやつの匂いがする家」を妹にも味わわせたくて、お菓子作りを始めたのだった。


 そうしてそれが、転生した今にも活かされているわけで――。


 一生懸命に自分の作業をまっとうしようとする白百合と菊華を見ながら、そんなことを思い出す。


 こんな、西園寺家という、富裕層の中でもヒエラルキーのトップに位置する家で普通に育ったら、一般家庭で普通に暮らす人々に対する思いやりが欠けてしまうのは当たり前なのかもしれない。

 

 全ての人がそうだとは言わないし、ヒエラルキーのトップにいるからこその『持てる者の義務《ノブレス・オブリージュ》』も確かにあると思う。


 しかしそれらは、そ(・)う(・)い(・)う(・)概(・)念(・)が(・)あ(・)る(・)の(・)だ(・)ということを誰かが教えてあげないと、知る術もないし身にもつかないものだ。


 少なくとも――、父や継母がそういうことをきちんとできていなかったから、原作の西園寺家の結末があるのだと俺は思っていて。


 ここから100年とちょっと先の未来(さき)の、庶民の家に生まれた俺だからこそわかり得てきたもの。

 それを俺は、このふたりに教えていこうと思うのだ。

 

「お兄様。これくらいの大きさでどうでしょうか?」


 白百合が刻んだくるみの大きさの塩梅(あんばい)を俺に尋ねてくる。


「うん。ちょうどいいよ。ありがとう白百合」

「お兄様! こっちは?」

「うん。こっちもいいね。ありがとう菊華」

「えへへ……」


 そう言って笑うと菊華は、ずい、と、さも頭を撫でよと言わんばかりに脳天をこちらに突き出してくる。


「はいはい」


 仕方のないやつだな、と思いながらも可愛いと思ってしまうのはもはやどうしようもない。

 

 そして、菊華のにくめないところは、それを俺にだけじゃなく白百合に向かってもちゃんと同様に頭を差し出し、撫でよと求めるところだ。


 そうもされると、ちゃんと妹を可愛いと思っている白百合は、俺と同じくシスコンをいかんなく発揮しながら菊華をよしよしと撫でるのだ。


 まったく、いつのまにこんな要領のいい末っ子に育ったんだか……。

 育てたやつの顔が見てみたいわ!

 ……俺だけど。


 さて。

 そんなこんなしている間に、常温にもどしたバターに砂糖を入れ、白っぽくなるまで泡立て器で混ぜる。

 俺のしているのと同じように、白百合と菊華にもバターと砂糖を入れたボウルを渡して、ふたりでひとつの生地を一緒に作らせることにした。


 ただし、子供の力でバターを混ぜるには力がいるから、こっそり俺の異能で手助けをしてるが。


 そうして、卵を加えて、粉類と菊華が細かくすり潰した紅茶を入れて混ぜ、最後に白百合が砕いたくるみを入れてさっくり混ぜる。


 後は、型に流し込んだら焼き上げるだけ。


「お兄様、これ、なんてお名前のお菓子?」

「パウンドケーキだよ」


 作る前に教えただろうに、と苦笑しながら菊華に答えると、「えへー」と笑った菊華が、そのまま適当な拍子をつけてパウンドケーキの歌を歌い出す。


「パ・ウンド・ケーキ♪ パ・ウンド・ケーキ♪」


 ご機嫌で歌う菊華に、俺と白百合は顔を見合わせてふふっと笑う。


「さあ、菊華ちゃん。お菓子作りはお片付けまでですよ」


 と、ご機嫌な菊華にしっかり者の白百合が片付けを促《うなが》す。


「はーい!」

「私がゴシゴシするから、菊華ちゃんはお水で綺麗に流してね」

「はい!」


 …………。

 ううう……。

 本当にいい子に育ってくれてよかったなあ!


 お兄ちゃんは感無量ですよ……!


 そうして、焼き上がったパウンドケーキは、切り分けて仲良く3人でいただきました。

 3人で食べた分とは別に、父の為に残しておいた分をエプロン姿の白百合と菊華に持っていかせたら、父が目尻を下げて喜んでいた。


 

 よしよし。

 どうやら父も立派な親バカに成長しているようだな!


 最近、ふと思いついて、妹たちを使って父を懐柔する作戦をとってみたのだが、思いのほか功を奏している。

 可愛い娘たちに「お父様」ときゃいきゃいと纏《まと》わりつかれることに、どうやら父もまんざらではないらしい。


 大成功すぎて自分の策士ぶりが怖いよ……!

 


 翌日、料理長に厨房を使わせてもらったお礼と、片付けに不備がなかったかを確認しに行ったのだが、最近は厨房を借りる度にお礼に作ったお菓子のレシピを渡しているので、今では逆に厨房を貸すのを待ち焦がれられている気がします……。

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