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「本当に上手。ステキな音色と曲ですね」
「ありがとうございます」
「さすが兄様ですね。 次はミヤ様です。僕が教えて差し上げまする」
「え? 大丈夫かな・・?」
「大丈夫ですっ。 まずは持ち方からです」
と成り行きで笛吹き講習会が始まった。
リコーダーしか馴染みがないので、そもそも音が鳴るのかも不安。
だったのだが、音は何度目かで出るようになった。
「スゴイですっ。僕はもっと時間がかかりましたのに」
「ミヤ様は才がありますね」
「いえ、偶々コツを掴んだだけです。 あ、どうぞ2人も座って下さい」
みやはパラディンにお茶を頼む。
「先程の曲は名前があるのですか?」
「名ですか?そうですね・・。 静かな音色の曲、でしょうか」
「決まった音色の曲は無いのですか?」
「有るものもありますよ。 個人の場合はその時の気分や場に合わせて奏でる事が多いですね」
「即興とか凄いです。私は覚えているものしか弾けないから。 新しい曲をってなったら、時間がかかります」
「そんなに難しく考えている訳ではありませんよ。適当な思いつきですから」
「ミヤ様はピアノをお弾きになるとか。早くお聴きしてみたいです。ね?兄様」
ダイキ王子はそれにニコリと頷く。
「今から楽しみにしております。噂だけでは待ちきれませんね」
手紙は確実にここからも来ていると分かった。
それから王子達はお茶を一杯飲んで去って行った。
服の裾に口付けをして。
「(うん。やっぱりキスは挨拶なんだね。あの仕草は王子だからなんだよね? アズキ王子は可愛らしいんだけど、それが大人になるとああも色っぽくなるもんだねっ。 ・・一気に疲れた・・・)」
まだ服で良かったと思うことにする。
みやは着替えてベッドに横になる。
それにしても・・。
「ねぇ? お忍びのはずだけど、もしかして情報が筒抜けで出回ってるの? 折角首都を外したのに、他の所でも王族が来たら、内密にならないんだけど?」
この形で皆に知られるなら、あまりデビューは意味が無くなると感じる。
「いえ、ミヤ姫様のご訪問の旅は知らせてはおりません。今回に措いては、クノ国の国柄だからこそかと」
「お国柄?」
一応訪問先の事はウイリスによって勉強している。しかし学んだ事にその理由が繋がらない。
「はい。 アビス国も隣国ではありますが、友国と言うだけではない関係をクノ国とは築いているのです。 クノ国は昔からレフェリーナを支え、共に動いてきた国でして、様々な情報を共有しているのです。 レフェリーナの宮務めの中にもクノ国の者が入っておりますので、ミヤ姫様の事も逸早く知れる立場にあります。その上身軽ですので」
つまり、フットワークが軽く情報通なお隣さん、と言う事。
その翌々日はギリエの国にある、ガト街に着いていた。
ここはクノ国の隣りであり、アビス国とも山々を挟んで接し、スファナ国とは川を堺にしている所だ。
楽器も音楽もクノ国とそこまで変わらないが、首都に港を2つ持っている漁業の盛んな国だ。近隣国と行き来があり、特産は海の宝石と呼ばれるルミ玉があるそうだ。そして勿論海産物も豊富。
なので。
「はあ~ いい出汁出てるぅ~~ (おいしい。 味噌汁も欲しい。 そして誰か醬油をプリーズっ)」
大豆があるかも分からないが、あっても作れないし、豆から調味料なんてそもそも考えないかもしれない。望みは薄いか・・。
「(ああ~・・ 米・・・ お米ぇ~~~)」
限界が近いかもしれない。
ガト街は休み宿の役割がある街の一つ。1・2泊する者もいれば休憩して直ぐに発つ者もいる。
他の街と違うのは、住居だけの建物は殆ど無い事だ。ギリエ国からの支店だったり、自営業だ。皆何かしらの商売をしている。
訪れる者は休みと補給の為に寄る。
なのでこの街には楽器屋は無い。流しの詩人が夜に店で唄うか、立ち寄った演芸団が練習も兼ねてこずかい稼ぎをしているくらいだった。
そんな様子をみやは観ている。
大使としての収穫はあまり無いかもしれないが、みやにとっては異国の地。こうして歩いたり眺めたりするだけでも、全てが目新しく映る。
そして全てが知らない人と物であり続けることは、みや本人も認識していないところで負担となっていた。
みやはその翌日にパラディン達とレフェリーナへと帰り、2回目の旅は無事に終わった。




