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「只今戻りました」
ベルネは執務室に戻って来た。
「お帰り。 どうだったかね?ミヤとのお茶は」
「はい・・」
「? どうした? ・・、そんなに思い詰めた内容だったのかね?」
歯切れの悪い反応に少々心配するアイル。そこに一緒にいるウイリスも心配して言う。
「珍しいですね?貴方がそのように言いよどむとは。 もしや秘め事ですか?それなら少々ズルい事ですが?」
「いえ、・・その様な事ではありません」
ベルネはゆっくり首を振る。
「アイル陛下。私はミヤ姫様を少々見誤っていたのだと感じています。 実際に話してみなくては分からないものですね」
「ー。 何を話したか聞こう」
ベルネは先程のみやとの短い会話を話し伝えた。
「ミヤ姫様は才能があるばかりではなく、聡明で凛々しくさえありました。 人並みの娘とご本人は仰っておられましたが、国やご自分の立場を理解し、判断して弁える女性はそう居るものではないでしょう。 そしてその意志の強さは、一国の姫君でも持ち得ているとは思えません。普通の娘なら喜んでその胸に飛び込んで、夢にまで見るその幸せを選ぶでしょうに・・」
「・・その様なご決意までされていらしたとは・・・」
「ーーー」
アイルは机の上で手を握り合わせ、それを額に付けて暫し考えを巡らしている。
そして面を上げると一息ついて言った。
「 どうやら私も、日を改めてミヤと話す必要がありそうだねぇ 」
頭では理解したつもりでも、その心情までは思い至らない。見方を改めた方が良いとアイルも考える。
□ * □ * □ *
その頃みやの所にはルーイが訪れていた。
「上手くなったな。 もう人前でも踊れる」
「ええ?そんな事ないよ。 ルーイが上手なのよ」
只今ダンスの練習中。手をお互いに置いてステップを踏む。
「ねぇ?思ったんだけど」
「ん?」
「踊りがあるって事は、演奏する人達も居るって事だよね?」
「あぁ、そうだが?」
「って事は、ピアノ以外にも楽器があるって事よね?」
「あぁそうだな」
「それは男性が?」
楽器も男性が主流なのだろうか?
「勿論だ」
「女性はピアノ以外は無いの?」
「ん? あぁ、いや、 他にはハープもあるな。後は、踊りながら鳴らす鈴とかか」
有るには有るが少ないみたいだ。
「ふーん。 どうして楽譜が無いかなぁ?不便だと思うんだけど。 合わせたりする時大変でしょ」
「ん~。 私は詳しくないからよく分からないが、そういうものは聴いて覚えるのではないか?奏でる者から者へと、見て聴いて。 舞踏会は長いから、休憩以外はずっと同じ曲が流れているのも珍しくない」
「へぇ~。ずっとだと逆に飽きそう・・。 まぁ機密性はあるだろうけど、やっぱり練習とか複数で合わせる時には欲しいものだと思うな」
「ならみやが作ればいい」
「え?」
何でもない風にルーイが言う。
「私は良いと思うぞ。 母上の曲を再現してくれたように、記憶している曲を形に残す事により、それはきっと世代を越えて伝わって行く事だろう。 思い出はやがて薄れていく。記憶は曖昧になる。しかし楽譜は奏でる事により、そこに生きているのだと、私は感じた。だからとても良いと思う」
「・・・、 でも、私にそんな大きな事出来ないよ。 誰も耳を貸さないわ」
「何を言う。私達が居るだろう?」
「え? だ、ダメだよっ、そんな事・・。国を動かすような、そんな立場じゃないからっ」
王族を巻き込むとか大それた事だ。
「んん~~。ーーー」
何時の間にかダンスを止めている2人。ルーイはその場で思案する。
「ーーー。 みや、もし出来る事になったとしたら、やってみるか?」
「え?・・・んんー・・。 やりたいって言う理由は無いけどぉ・・・、でも、いつ帰れるかも分からないし、その間お世話になってばかりでは申し訳ないし・・・。 何か私でお役に立てるなら、・・やってもいいかな? 」
「そうか。一応案は有る。父上に通す必要があるが、それならきっと広めるには良いだろうと思うぞ」
「広める・・。いやそんなに大事にしなくていいんだけど。具体的に何をするとかも分からないし?」
「大丈夫だ。決まってからでもそこは考えよう」
「う、うん・・。 えと、案ってなぁに?」
どう大丈夫なのか分かってないが先を促す。
「簡単に説明すれば、国が認める者になれば良いと言う事だ。我が国がみやを認知し擁護する。そうすれば訪れた先で無下にされる事は無いし、耳も傾けてくれるだろう。 そうだな、命名するならー・・、 “音楽大使” と言ったところか」
「音楽大使・・・。何か重役っぽいね」
「前例が無いからきっと注目度も高いぞ。みやの好きなように決めてやっていけば良い。私達がそれを助けよう」
「うん、・・通ったらね」
そんな事が簡単には通らないだろう。みやはそう思っていた。
が。
「(何でっ!? 暇なのっ!?)」
あれから直ぐにルーイは父親に話を持って行ったらしい。するとあれよあれよと物事は進み、その日の晩には決定事項となっていた。
晩餐の時に、明後日任命式を行う事を笑顔で言われてビックリしたみや。
「(そんな簡単に決めちゃっていいんですかっ!? しかも明後日ってっ!)」
そんな急ぎの事ではないのに。もう止められない雰囲気だ。
「(気軽過ぎるでしょう~っ? 誰か反対意見を~~っ)」
安易にやるなんて言わなきゃ良かったと、ちょっと過去の自分に後悔する。
晩餐はあっと言う間に終わり、みやの心の味方は居ないまま事は進行して決まってしまった。
今更やっぱり保留でとは言えない。
そのままみやは部屋へと戻った。




