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 あの日ルーイは、まだ母親の死の悲しみに暮れていた。

代々継ぐ石の付いたネックレスは形見でもある。

それを受け取った自分には次の花嫁を探して決める責務がある、と自覚するよりも、母親への想いが強かった。

そしてルーイはそれをいつも服の下に持ち、毎日眺めていたのだ。

ある日、今まで見た事の無かった現象が起きた。石が光り出したのだ。

眩い光に目を閉ざし、体に異変を感じた時、母親の声を聴いた。


『・・ ルーイ   行ってらっしゃい ・・』


空耳とも感じるその声に目を開けると、そこは見知らぬ場所だった。

雨が降っていた。

建物もあったが周りに人は一人も見当たらない。

そして分からなかったが、隔絶された孤独感が胸を締めた。まるで世界でたった一人になった様な感じに。支えを失ったかの様に。

淋しくて涙が出てきた。そうしてその場にたたずんでいた。


そんなルーイの前にみやは現れた。

まだ幼くあどけない彼女に側に来るまで気付かなかったので、泣いている姿を見られて動揺した。

可愛らしい声がその口から出てきて、心配そうに伺ってきた。

ルーイはまともに返事が出来なかった。少々混乱していたのもある。

何せルーイの世界ところの女の子は、10歳まで外には殆ど出ないからだ。しかもたった一人で。

家は近いらしいが、ルーイの頭の中では疑問が飛び交っていた。それはみやが何かする度に浮かび上がり、驚かされる事ばかりだった。

そして同時に心惹かれていった。

短いわずかな時間だったにも関わらず、急速にルーイの心をとらえていったのだ。

母親の死に悲しんでいた心をみやはほぐして、その笑顔で照らしてくれた。


しかし時は帰還を告げ知らせた。

離れたくなかった。

全く知らない所だがもっと居たかった。

だから代わりに大切なネックレスを渡した。

彼女の下にあれば、総天地竜様の力でまた会う事が出来ると、そう信じて。


まるで夢の様な出来事だったが、自分の手元にはもうあのネックレスが無い事が、心を前向きにさせた。


   ・

   ・

   ・


「父上。 私はみやと会えたのは運命だと感じます。しかしそれでも、ひとえに喜べないのはみやの現状なのです。  突然こちらに来た故に、今まで居た大切な者達と別れてしまいました。特に家族とは・・。 私も一度経験したので分かるのです。 己の世界を離された不安と孤独を。 周りとの関係が絶たれてしまった悲しさと寂しさを。 みやもきっと恋しいでしょう・・。 それでも、私たちで埋めてあげられたら良いなとは思います。 しかし、みやの御家族の事を思うと・・・。 きっとみやは、少なくとも一度は帰るでしょう。それがいつかは分かりませんが。・・・。その時に、みやに決めてもらおうと思っています 」

「ーーーーーー」

アイルは難しい顔をしてじっと聞いていた。

そしてルーイの意志に心配が混じった声で聞く。

「 お前はそれで良いのかね? 」

後悔しないか?もしみやがこちらを選ばなかったらと問う。

「ー。 みやが、幸せになれる道を選んでくれるなら。 勿論その時まで、悔いのないよう尽くすつもりです」

「・・・、 そうか 」

本当に彼女を愛しく想っているのだと、アイルは切なくも優しい目を向けた。


「ところで父上。みやの事で配慮すべき点がありまして」

とルーイは次の議題に移る。

「うむ? なにかね?」

「はい。 私も今日知った事が多いのですが、何分世界が違う為、習慣も価値観も異なるようなのです。勿論全てにおいてではなくとも、知らない事も分からぬ事も多くあります。こちらの女性の在り方と違う生活を送ってきた故に、その接し方もお互いに理解が必要となるかと思います」

「ふむ・・。例えばどの様な事か分かっている事はあるかね?」

「はい。 まず、日常的に抱き合う事や口付けに関しては国柄で異なるらしく、みやはその様な習慣の無い国の生まれ育ちだそうです。しかし挨拶としてならある国もあるので理解はしていると。ですが慣れていないので暫く時を要すると思われます」

「なんと・・  そうか・・・。」

それはさぞ挨拶でびっくりさせてしまったなとアイルは振り返る。

「 そうするとパラディンが共に寝るのも難しいかな?」

「そうですね。 身の回りの事も自分でしようとしますし、向こうでは男女関係なく学び労働するのだそうです。 みやはまだ養われている立場だと言っておりましたが、働いた事もある感じでした。更に家事をするのも普通で、刃物に関しても剣は無かったそうですが、ナイフや包丁は扱った事があるそうです」

淡々と言っているルーイだが、聞いているアイルはやや面食らっている。

「ーーー。うーむ・・・。 逞しい育ちなのじゃな・・・」

女性に逞しいと言うのは不似合いな言葉だが、他にどう言えば良いのか思い当たらない。

一体どの様な環境だったのかはもっと分からない事だった。

聞くだけだと厳しい育ちにも思えるが、会った感じでは純粋で素直な様子だった。愛されて育ったのだと思われる。

あちらでは普通だった事とこちらの普通は多々異なるようだ。


アイルは う~ん と唸る。

「ーーー。 考えておこう。 みやに関する事情は明日にでも招集をかけて話すこととする。良いか?」

「はい」

思ってもなかった問題は、これから考えながら配慮する事になるだろう。

「ーーー。 ルーイよ。 天意であれ何であれ、お前が初めて心を寄せた女性だ。 私も、そしてシェリーも喜んでいるよ」

アイルは父親の眼差しで言う。

「花嫁の望みは私も同じ。 みやが故郷へ帰るとしても、諦めてはならんぞ? 追いかけてしまいなさい。 お前は優しい息子だ。それ位が良いと私は思う。 応援しているよ」

「父上・・・」

ルーイは背中を押された形に心を励まされた。


  □  *  □  *  □  *




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