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裏切り

 近所にある大型ショッピングセンター。


 それは巨大な敷地に様々なテナントが入っており、休日には家族連れでにぎわう街の中心だった。屋上にはフットボールの施設もある。


 柊みかんは彼女の同僚であり友人であるレオに呼ばれてそこに来ていた。彼女自身も実は誰に相談をしたいと思っていた。いつもの制服ではなく、私服でひさびさのショッピングモールである。


 黒のカットソーにシルバーのかわいらしいネックレスは胸元の当たりに小さな蝶の形になっている。そして白黒チェックのロングスカートをはいて全体的には少し控えめなモノトーン基調だった。


 肩にかけたポーチに手で押さえならがみかんはあたりを見回す。紫の髪を整えてきた彼女は少しだけ周囲の視線を集めた。


「お~。こっちにゃ~」


 そんなみかんを間の抜けた声で呼んだのは人懐っこい笑顔をした金髪の少女だった。


 ニット帽をかぶった彼女はみかんを呼んでぱたぱたと手を振っている。


 首にはチョーカーをつけて黒のインナーが胸元に見えるイエローのパーカーを羽織っている。白のショートパンツから伸びる足に白を基調としたカラフルなスニーカーを履いていた。


 彼女のオッドアイはラウンド型の丸く淡い色をしたレンズのサングラスで覆われている。彼女のもとにみかんははあとため息をついて歩いていく。


「シャドウ、私をいきなり呼んでどうしたの? こんなところで。というか、結構大変なんだから仕事来てよ……」

「ちっちっち。だめだめ」


 シャドウとは彼女の真の正体。世の美術品をすべて消し去ることを目論んだ怪人の名前だった。だが、その彼女は人差し指を立ててみかんの前で揺らす。


「ここではレオって言ってくれないと困るね。あんただってマリカって言われたら困るでしょ?」

「そりゃそうだけど……」

「まあまあ。それよりせっかく来たんだから少しあるくにゃ」


 ショッピングモールの大きな入口に歩き始めるレオ。それを追ってみかんは早足になった。ただ彼女には疑念があった。急に呼び出されたのだ、それも魔の四天王の一人に。裏があるだろうと彼女は油断しないように気を引き締めた。


☆


 ショッピングモールは4階建て、服。アクセサリー、靴やそれ以外にもおしゃれなスイーツのお店も何でもあった。


「わぁかわいい~」


 みかんはとレオはレディースのお店に入って服を見て回った。


「これに似合いそうにゃ」


 レオが持ってきた服をみかんの体にあてがう。二人はそんな風にきゃいきゃいと楽しんでいた。二人とも本来は女子高生に過ぎない。みかんの疑念は楽しさの中に溶けていってどこかに消えた。


 服の後は靴を見て回る。おしゃれなサンダルをみかんが履いてみて、価格が2万近いことに驚愕するのをレオがけらけらと笑った。


 さらに歩き回り、見もしないのに映画館に行って何をやっているのかと上映一覧を二人で見る。通常であれば話題作を見るのだろうが、ネタになる映画を二人で探した。


「ねえねえ。レオ。組体操バトルホラー映画ってあるよ」

「なんにゃそれ!」


 きゃっきゃっとわけのわからない映画の紹介を見ては二人は笑顔になる。中身などどうでもよかった。ただ少し映画入場料は高いので別の場所に移動した。


 2時間たっぷりと遊んだ後、二人はカフェに入った。


 おしゃれなコーヒーのカフェの奥の席をとって二人は買い物をしたものを席に置く。そして片方片方が荷物を見張っている間に飲み物を買いに行った。


 レオはカフェラテを頼んでカップに口をつけて飲む。猫舌なのかゆっくりだった。


 みかんはブラックコーヒー(に砂糖を入れたもの) を飲んだ。人心地がついて彼女は楽しかったと思った瞬間にはっとした。


(わ、忘れてた、レオがなんで呼んだのか聞くつもりだったのに……)


 こほんと今更取り繕ったみかんはクールな表情をした。今更だった。


「ところでレオ」

「なんにゃ」

「いきなり呼び出した理由をそろそろ教えてもらえるかしら?」


 流し目で見るみかん。知らない相手から見ればその冷たいまなざしはある種の威厳があった。ただもう遅かった。それでもレオはカップを置いてサングラスをとって胸にかける。オッドアイの瞳を泳がせて、ちょっと顔を赤らめる。


「そ、そうね」


 猫口調がない言い方で彼女は恥ずかしそうに下を向いた。みかんは怪訝な顔をする。レオはあたりを見て、周りに人がいないことを確認した。


「みかんしか知らないから、言うんだけど」

「……?」


 自分しか知らないとは何だろうとみかんは思った。心当たりがなかった。


「そ、相談がある」

「相談……」


 みかんは何の相談だろうと思いながらブラックコーヒーを手に取った。レオは恥ずかしそうにこそこそと話をする。


「そ、その、僕ね」


 両手の指を合わせてくるくるする。


「……スーパー・ジャスティス・レッドにこ、告白するつもりにゃ」


 みかんは冷静な表情だった。


 だが、由々しき事態だった。


 魔の四天王が一人『幻惑のシャドウ』が敵の男に告白するという。裏切りにも等しい行為だった。みかんは努めて冷静な顔をしつつ、コーヒーを飲んだ。レオは言ったことで顔を赤らめて手で口を押えている。


「……ふん」


 みかんはそういった。だが内心は激しく動揺していた。


 魔の四天王である『鏡の魔法使いマリカ』としてはこのようなことを許すわけにはいかないだろう。彼女はのどの奥にまで出かかっている言葉を必死に抑え込んでいた。


(恋バナ!! 恋バナ!!)


 マリカ以前にクールな表情の下で裏切りとかそれ以前に女子高生としてのみかんがいた。彼女の心の中ではあまりに興味がわいてしまってどきどきと心臓が高鳴っている。


(レオがスーパー・ジャスティス・レッドが好きっ……告白する!?)


(わ、わぁ、か、語りたい。というかどこら辺がいいのかとかすごく聞きたい)


(恋バナしたい~! ううう、ああーー)


「あなた、わかっているの? スーパー・ジャスティス・レッドは敵なのよ」


(敵とかどうでもいいじゃん!)


(き、禁断の恋? たしかにダメかもだけど、敵と味方でに分かれての恋……う、うわぁ!)


 クールな表情の下はお祭り騒ぎだった。


 みかんはあえてスーパー・ジャスティス・レッドは敵といったが、そんなことはもはやどうでもよかった。この場を取り繕ったのだ。ただレオは「そうにゃ」と頷いた。


「確かに僕たちのような怪人からすればレッドは敵にゃ。でも、わかっているのにゃ」


 彼女は胸を抑えた。


「そんなことは何回も自分に言い聞かせたのにゃ。でも、でも」


 両手を祈るように組み合わせて彼女は顔を伏せる。赤いほほ、恋の表情。それを見たみかんは唇をかんで自分を抑えた。


「好きなのは仕方ない……!」


 か細い声には強い意志があった。だからこそみかんはその純真さにはじけ飛びそうになった。ザングルゴールとかもうどうでもいいのではないかと思ってしまった。


「……そ、こまでの覚悟とはね」

「そうにゃ。だからみかんに相談というのは、あれにゃ」

「あれ?」


 恋バナじゃないの? と思った彼女はきょとんとした。レオは両手をぱんと合わせてお願いするように笑った。


「一緒に魔の四天王やめて世界平和のためにはたらこうにゃ?」

「えっ」


 裏切りの相談だった。

 

 


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