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焦り

 皇帝ザングルゴールから大任を仰せつかった。鏡の魔法使いマリカはセレニコとともに怪人たちを使って宮殿の改造を行った。


 怪人たちはセレニコが気分と偏見で作っただいたい男型あるいはオス型が多い。ゴリラのような怪人たちが資材を運んでいく。カニ型怪人などは手がハサミなのでやることがなく「かにーかにー」と言いながら応援に回った。


 ザングルゴールの作った世界は常に夜。


 闇の世界。


 作業にとても支障が出るので怪人たちの要望により移動式の工事用ライトが用意された。台座に備え付けらえたそれは支柱とそれに備え付けられたライトが煌々とあたりを照らす。移動式台座は怪人たちが押して運べた。


「わははは~、はたらけ~」


 工事監督のドクター・セレニコはサングラスをかけてどこから持ってきたのかビーチチェアに座り、ぼりぼりとポテトチップスをたべている。彼女の作った怪人たちは数十体。それらを全部工事に投入した。本人はやることがないから堂々とさぼっている。


 後ろにはなぜかカマキリ型怪人のカ・マキリ―が側近面で立っている。要するに彼もさぼっていた。


 怪人たちはそれをちらっと見て作業に戻る。


 そして手持無沙汰なのはマリカも変わらなかった。工事の進む宮殿を歩くと作業をしている怪人と行き当たる。作業の邪魔になりそうだった。


 怪人とぶつかりそうになった時。


「あ、ごめ」


 「ん」などと言いそうになったのを慌てて手で口覆って飲み込む。どこに行っても何かしらの作業が進行していた。手伝おうとしてうろうろうろうろとマリカはしているが、怪人たちに声をかけるタイミングがなくて歩き回ることになった。


 宮殿の中庭の端のほうで座るマリカ。


 疲れた顔をしていた。特に働いているわけではないが、やることがない程につらいことはない。


「こ、こんなんじゃいけない」


 そう思って立ち上がる。顔はやる気にあふれて、瞳はきらきらしていた。人前ではクールにふるまうためどこか冷たい空気をまとっているように思われるが、一人だとこんなものだった。


「私はザングルゴール皇帝陛下にスーパー・ジャスティス・ファイブを倒すように命令を受けた……それにすべての怪人達をまとめないと」


 彼女は考えた、組織をまとめるにはどうすればいいだろうか? 「うーん」「う~ん」とかわいらしく中庭のはしっこで首をひねる。女子高生をしている彼女からすれば組織をまとめたことなどなかった。


 想像するに一日の終わりに「帰りの会」をするべきか、とも思ったがダメなのは明白だった。怪人たちがその日だめだった男子を糾弾する映像がマリカの頭に浮かんだがすぐに振り払った。


「こ、こうなったら」


 スマートフォンを手に取りマリカは天に掲げた。


「AIで調べてやる!」


 ここまで一人でやっていた。彼女はスマートフォンに入れたAIアプリを起動する。


 アプリに文字を両手で打ち込む。両手でスマートフォンを持って両の親指で入力する。


『悪の皇帝の部下として怪人達をまとめることになりました、悪の部下をまとめるのに参考になる本はありますか?』


 変に丁寧に質問したマリカの質問に現代のAIは答えた。


『はい、あります! 悪の皇帝陛下の部下として怪人軍団をまとめるのは、やりがいのある大仕事ですね。


・君主論(ニコロ・マキアヴェリ)

古典の王道。権力を維持するための冷徹な現実主義が詰まっています。

「愛されるより恐れられる方が良い」「必要なら非道も辞さず」「味方を増やしつつ敵を徹底的に潰せ」といった教えが、怪人まとめに超実践的。

皇帝の部下として「組織の安定」を考えるなら必読です。』


 マリカは顔を上げた。


「君主論? ……なんかかっこいい」


 マリカはすぐに本屋に行こうと思った。理由ができたので家に帰る口実ができたのは内心嬉しかった。彼女は帰りに準備をして、セレニコにだけ言って闇の世界から帰った。仕事の帰り道はすごく解放された気分になっている。


☆


 「ブック・おっふ」という古本屋で買った文庫の「君主論」を手にマリカはふんすと鼻を鳴らして机に座った。彼女の部屋に戻る前に変身をといて可愛らしい女子高生である柊 みかんに戻っていた。


 彼女はやる気に満ちた顔で本を開く。


 君主論とは中世イタリアで書かれた権謀術数の書籍である。


 その書籍は多くの人々に読まれて、さまざまな権力者達の指標となってきた。


 だが問題があった。


「?????」


 みかんには全然興味がないことである。


 文字のぎっしりと詰まったページに書かれた君主論はたしかに良質な書籍ではあるだろう。だが中世イタリアの歴史的記述にみかんはちょっと口を開けて頭の上にはてなを浮かべた顔でページをめくる。


 すっと彼女の手がスマートフォンに伸びていく。はっとしてみかんは机の引き出しを開けた。


 そこには破壊されたスイッチ・ツヴァイがあった。それは憎しみの根源。みかんはそれを見てもう一度自分を奮い立たせると本と向き合った。だが、あまりに難解な古典的言い回しの多い本に彼女は立ち上がった。


「少し休もう」


 スマートフォンを手に取ってベッドに寝転がる。SNSを開いてスクロール手は自分でも止めることができなくなっていた。彼女はいつの間にか、眠たくなって、少しだけ眠るつもりで目を閉じた。


 目を覚ましたのは夜。


 しまったと頭を抱えたみかんだけ体の疲れはすっきりと取れていた。かといって君主論のことを読み直す気は出なかった。


「ま、まあ昔の本だし、今役に立つとは限らないから」


 精一杯の負け惜しみを言って彼女はお風呂に行った。


☆


 そんな形で日々が過ぎていった。怪人を統括するとしてもみかんに仕事はない。むしろパン屋のアルバイトのほうが時間をとっていた。セレニコは勝手に動き回って勝手に宮殿の改造は進んでいく。


「う、ううう」


 魔の四天王としてのプライドがだんだんと彼女を追い詰めていく。普通に高校に行ってアルバイトをしてたまにザングルゴールの世界に行って工事の進捗を見る。進捗を見るといっても「わぁ、なんかすごい変わったぁ」などと感想を言うだけである。


 そもそも何を作ろうとしているのかもよくわかってなかった。最終的に巨大ロボに宮殿が変形するのだろう。それはわかるがどんな形になるのかはわからない。


「わ、私の本当の役目はスーパー・ジャスティス・ファイブとの闘いだから……」


 そう言った後に彼女は気が付いた。超巨大強力ロボができたときにそもそも『鏡の魔法使いマリカ』は戦闘に必要なのだろうか。その疑問を思った時に彼女は不安になった。ザングルゴールはロボと怪人達を使って攻撃すると彼女に言っていたが不安は増すばかりだった。


「………」


 自宅のベッドでクマのぬいぐるみを抱きしめて不安を押し殺すみかん。すこし悲しそうなあるいは拗ねているような表情をした少女はこの気持ちをぶつける相手がいなかった。


 その時であった。


 枕元に置いてあったみかんのスマートフォンが光った。みればRhineのメッセージが来ていた。画面にメッセージが浮かぶ


レオ『ひまにゃ~?』(猫の肉球のスタンプ)


 それは魔の四天王『幻惑のシャドウ』。仮の姿は同学年の女子高生栗原 玲央からの遊びの誘いだった。みかんは一瞬ためらったが、すぐに返信をした。



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