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復讐の狼煙

「魔法天使マリカちゃんは~」


 TVに映るバラエティー番組で自分そっくりな少女が出演していることにみかんは死んだ目で見ていた。


 時は日曜日。


 場所は自室。


 恰好はパジャマ。


 髪はまだ整えていないが、椅子に座ったまま死んだような顔でTVを見ている。最近の若い世代はTV離れが進んでいるがみかんは部屋にテレビがあるのでなんとなくつける習慣があった。ほとんど集中してみていないBGM替わりではある。


 ただ自分の偽物が出ているときは苦虫をかみつぶしたよう顔で画面を見ている。


「そもそも……こいつ誰よ」


 みかんがつぶやく。


 おそらくレオに関係する誰かなのだろうが、レオの能力で生まれたものではないようだった。ならばこの『魔法天使マリカ』とはいったいどこの誰だろうか、みかんには全く心当たりがなかった。


「こんな奴が私の偽物なわけない……」


 週末はいいことをしているとエピソード交じりに話をしている。みかんがいらいらしながらバオウにエサをあげるかのようにポテトチップスの袋を机の上の鏡の中に放り込む。あまりに自然な手つきであり、目線はTV画面を向いている。


「いっそ私が乗り込んで始末して……」


 変身をして、と脳裏に思い浮かべると先日のレオとのバトルを思い出してしまう。過去の幻影の残像に彼女は眼を閉じて、首を振る。しばらくしてはあぁとため息をついた。


「もうザングルゴール皇帝の宮殿が改造が終わるまでじっとしようかな」


 少し寂しく言う。自分の中の『悪』の認識が揺らいでしまっていることを感じて彼女ははっとする。胸の前で手を組んで否定する。


「ううん。こんな時こそ私が悪の魔法使いであることを示す必要があるわ。……ちょうどいい獲物もいるんだから」


 振り返ればTVの中で何かのグルメリポートをしている魔法天使マリカがいた。


「おいし~」


 画面に映るのは『都内随一の人気パティスリーの人気ショートケーキ』という文字。マリカは白いふわっとしたクリームたっぷりのショートケーキをおいしそうに食べている。


 画面は魔法天使マリカは幸せそうな顔をアップで映す。


「…………」


 本物のみかんの口から少しだけよだれが――出る前に彼女は口元を袖で隠した。


「くっ」


 妙なことでダメージを受けたみかんは膝をついた。今から始末しようしたところ魔法天使マリカからの先制攻撃を受けてしまう。みかんは「……偽物め」と声に出す。羨ましかった。


 気を取り直してみかんは立ち上がる。彼女はまずは魔法天使マリカの動向を捕まえることを考えた。始末するにしても場所がわからなければだめだった。


 その時、携帯が鳴った。ヴヴヴと振動するスマートフォンの画面には『レオ』の文字がある。みかんは嫌な顔をした。今話したくない。


「……あいつ」


 ただ、居留守を使うのは心苦しいので彼女は仕方なく電話にでた。


「はい。なによ」

『あっ! 出た出た~』

「はあ?」

『わたしよ、わ、た、し。ねえねえ。あなたみかんでしょ』

「あなた誰……? なんでレオの携帯から電話をしてくるのよ」

『そりゃあ、そうよ~、だって~』


 電話の向こうの陽気な女性の声が低くなる。


『幻惑のシャドウは私が始末したからよ』

「!!?」


 みかんは眼を見開いた。


「始末……?!」

『ふふふ。ねえ、『鏡の魔法使いマリカ』ちゃん』

「……わ、たしのことを……あなたは誰よ!」

『へへー。私? 私は今はあなたよ』

「あなた? ……まさか……まさか。お前は」


 みかんは信じられないという顔で言った。


「魔法天使……マリカ……?」

『せいかーい! そう、私が魔法天使マリカちゃんでーす』


 低い子が甘い声になる、電話の向こうの少女が楽しげに言う。


『ポンコツなあなたの尊厳は全部ぶっ壊してまーす』

「……っ。あなたが魔法天使……マリカだとして、何が目的よ」

『目的? 目的だって?』


 電話向こうの少女が言った。


『お前に対する復讐だよ』


☆

 


 町はずれの廃工場。


 最終的に電話の向こうにいた『魔法天使マリカ』はみかんを呼びだした。そして指定したのはそこだった。すでにさび付いた廃工場の中には誰もいない。中を歩けば冷たいコンクリートの床が鳴らす音が遠くまで響く。


 工場の割れた窓から零れ落ちる光だけが中を照らしていた。工場の中はがらんとしている。機会は撤去された空虚な場所だった。


 その中央に紫のドレスを着て、ハイヒールを履いた少女がいた。その背には白い羽がある。腰に手を付けて不敵に笑っている。目は魔力に怪しく輝いている。


「ああ、来たね。みかんちゃん。いや、鏡の魔法使いマリカといったほうがいいかな?」


 工場の闇の中から現れたのは鏡に映したかのような瓜二つの少女。いや、この場合もともとたたずんでいた少女が「似ている」といったほうが正確かもしれない。


 鏡の魔法使いマリカはその手に魔法の杖を持って歩く。その瞳に温度はない。


「私の偽物から呼び出しをもらうなんて思わなかったわ」

「あはは。私の偽物、ねえ?」


 にやぁと邪悪な笑みを浮かべる魔法天使マリカ。彼女は両手を広げる。


「お前のあるかないかの悪名なんて、もうぜーんぶこの私が消してやったわ。ボランティアなんて毎日やってるくらいよ。それにあんたSNSでおもちゃにされている分際でかっこつけているんじゃないわよ」

「……そんなのはおろかな人間たちが勝手にやっているだけ」


 鏡の魔法使いマリカは努めてクールに言った。目を閉じて静かにたたずむ姿は何も知らなければ冷静な美少女だった。少しだけ手が震えている。


「愚かな人間どもねぇ。あんたさぁ。悪人とか言いながら実際には銀行員を改心させるし。この前はなんか火事から子供を助けたでしょ」

「そんなこと……してない」

「嘘つくのがあんたの精一杯の悪いことね。きゃは!」


 楽し気に笑う魔法天使マリカはいたぶるように言葉を紡ぐ。彼女は様々なことを調べているようだった。鏡の魔法使いマリカが静かに言った。


「……私の真似事をして復讐……が目的といったわね。私はあなたに恨まれることをした覚えなんていないわ」

「くく、むかつくなぁ。お前。私はお前のせいで殺されたというのにね」

「……!?」


 魔法天使マリカは笑う。


「忘れただって? お前のくだらないことでやられた私の身になってみてよ。何度八つ裂きにしても足りないわ」

「私は……あなたなんか知らない」

「くくく。お前のことを私はよーく知っているわよ。稀代のぽんこつだってこともね」

「ぽ。ぽんこ……!? 何の話をしているのかわからないわ」


 魔法天使マリカはゆっくりと廃工場の中を歩く。ハイヒールが音を鳴らす。


「ぽんこつぽんこつ。お前はこの世界で一番のぽんこつだよ、間違いない。私はお前を知っている」

「だから……! 私はあなたを知らない」

「ここまで言ってわからないか~。仕方ないぽんこつマリカにわかるように教えてあげよう」


 魔法天使マリカが背を向けて言う。


「私は悪の科学者セレニコに作られた怪人の一人である『魔法天使マリカ』。その目的はお前に倒されることにあった」

「セレニコ!? じゃあ、あなたはザングルゴール皇帝の怪人の一人……」

「ザングルゴール皇帝はすべてを知ったうえでお前を悪に戻すために、世論の中にある魔法天使マリカを人間ども前で始末させるために私を作った、そう、本来の私はあまりにへんてこな評判の立っているお前のために作られたサンドバック」

「え?」


 鏡の魔法使いマリカは普通に「え?」といった。


「ちょっとまって。全部知っているって? え? ザングルゴール皇帝が?」

「そりゃあ、SNSであんだけ書かれてTVで報道されているのに知らないわけないでしょ……お前、憐みの目で見られていたんだよ」



 マリカの脳裏に思い出されるザングルゴール皇帝の姿。


 あえて知らないふりをして


 気を遣われていた。


「う、うああ」


 SNS作られた虚像である『魔法天使マリカ』の怪人を実際に作って彼女に倒させることでその評価の回復をおぜん立てされている。ザングルゴール皇帝はあえて道化を演じたという事実が彼女に突き刺さった。


 いろいろとクールぶっていたことを思い出して鏡の魔法使いマリカは顔を赤くする。ザングルゴール皇帝はおそらくいろいろと思いながら接しただろう。悪の皇帝といえどもトップに立つ男なのだった。


 さすがにレオの裏切りや黒の太陽ことは知らなかっただろうが、逆にレオは何かしらでこの『魔法天使マリカ』を利用しようと考えていたようだった。


 彼女は震えながらそれでも聞いた。


「じゃ、じゃああなたの復讐というのは私に倒されるために生まれたことにたいして」

「ん? 違うよ。だから言っているでしょ。私はお前に殺された」


 魔法天使マリカは振り返ってにっこりと笑う。


「私はお前を絶対に許さない」


 彼女は微笑む。


「最後には世界も全部壊す。でもその前にお前に復讐する」

「なんで、私をそこまで」

「話してあげる。私はセレニコに作られた怪人だけど、私の胸の奥にはコアがある。何かわかる?」

「コア?」

「そう、人間で言えば心臓かな。ここに私はいる」


 魔法天使マリカは右手で胸を指さす。


「私の本当の名前を教えてあげる」



 彼女の唇がゆっくりと動く。


「私の名は……ブラック=サン」


 廃工場に彼女の冷たい声が響く。


「ブラック……さん? ブラックなんて人は私知らない」


 鏡の魔法使いマリカは言った。魔法天使マリカががくっと肩を落とした。


「誰が自分の名前にさん付で呼ぶのよ! このぽんこつ!!!!!」

「ブラック=サン……。え?」


 直訳。


 『黒い太陽』



 鏡の魔法使いマリカは一瞬呆けた。しかしだんだんと驚きが広がっていく。


「え? ええええ??」


 先日ザングルゴール皇帝が見せびらかせた最終兵器をぶち壊した記憶が思い出される。見事までにぶっ壊したその兵器の名前は『黒い太陽』だった。魔法天使マリカはふふんと笑った。


「やっと思い出したようね! わかったかしら。お前のぽんこつでぶっ壊された私の恨みが!!」

「は、はあ? だって、なんで私の格好」

「言ったでしょ! セレニコが作っていた怪人に私の……『黒い太陽』の破片をコアにしたからよ……自我を持つことができたのはそれでよ」

「セレニコ……」

「あいつ!! 私を不燃ごみに出そうとしたからね!! あいつも許さない絶対許さない。この私の前で『これって燃えるゴミかな燃えないゴミかな。カ・マキリ―』って言ってたの許さない。挙句の果てに余っていたからってコアに使いやがった!!」


 あはははと魔法天使マリカは……いやサンは笑った。


「私はこの世界を混沌の炎に落としてやる。その前にお前たちの組織を壊滅させてやるわ。そのあとにスーパー・ジャスティス・ファイブとやらも始末してやる」

「じゃ、じゃあ、あなたは黒い太陽がボランティアしてたってこと?」

「……う、うるせぇ! ばーか!! ポンコツの分際で変なこと気にするな!!」

「ぽ、ぽんこつじゃないし……そ、それにあの時はわざとじゃない」

「わざとじゃなくてもはるか昔からこの世界を滅ぼす『黒い太陽』としての私が! あんな!! しょうもないことで!! ぶっ壊された恨みぃ!!!」


 サンはちょっと涙目で言った。


「お ま え ら ぜ ん い ん こ ろ す!!」




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