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う ら み

 時はさかのぼる。魔法天使マリカを始末する命令を『鏡の魔法使いマリカ』が受ける前のことである。


 魔法天使マリカの問題についてザングルゴール皇帝はよりにもよってセレニコに相談をしたことが発端だった。


 謁見の間においてセレニコは頭を下げていた。背の低い彼女がかがむと白衣が床につく。そのうえハーフパンツにスラックスというちぐはぐな格好をしている。


 彼女はぐるぐるメガネが少しずれていた、上目遣いでザングルゴール皇帝の座る玉座を見上げた。巨大な体躯をした彼はセレニコを見下ろしている。


「それで、私に何をしろと? 怪人を作るのも忙しいんですけどね」

「世界広しといえどもこのザングルゴールに対してそのような不遜な態度をとるのは貴様だけだな」

「……えへへ」



 ほめてないといいかけたがザングルゴールはスルーした。彼は大人である。


「貴様に、命じるのはただひとつ、魔法天使マリカを知っておるか?」

「ああ、あのネットのおもちゃのことですね」


 魔法天使マリカ。


 鏡の魔法使いマリカの様々な行為によって生まれた虚像、集団幻覚の集合体である。ザングルゴールはそれを苦々しく思っていた。自らの部下がそのような扱いを受けていることに心を痛めているのだった。しかしそんなことを本人には言わない配慮が彼にはあった。


「そこでだ、セレニコよ。魔法天使マリカという怪人を作るのだ」

「はあ?」

「マリカそっくりの怪人を作り、人間どもに対して善行を積ませる。……それを我が四天王である鏡の魔法使いマリカが打倒することで人間どもに恐怖を思い出させることができるであろう」

「めんどくせぇ……」(なるほど、素晴らしい計画ですね)」

「……貴様、今なんと?」

「あ、やべ。あ、いえあのですね」


 セレニコは心の声と肉声を間違えた。彼女が特に言い訳が見つからずにもみ手をしながら「へへ、気のせいですよ」と訳の分からないことを言った。


「でもわかりました。このセレニコにお任せ」


 どーんとその胸をたたくとメガネがずり落ちる。きれいな青い瞳が見える。ザングルゴールは少し黙っていたが言った。


「鏡の魔法使いマリカには魔法天使マリカを始末する命令を下す。……そこに怪人『魔法天使マリカ』が人間どもに愛想を振りまき……最後は我が四天王のマリカが始末する……。これ以上妙な幻覚を人間どもに見せておくわけにはいかぬ。……我が宮殿の改造計画も進めなければならぬのだ。時はない」

「はっ」


 セレニコはそう言ってから謁見の間を後にした。ザングルゴールの目の届かない場所でたらポケットから飴を取り出して食べる。


「ぎちぎち!」


 待っていたカマキリ型怪人『カ・マキリー』はセレニコに寄ってくる。いつの間にか悪の科学者セレニコの側近のようになっている。


「四天王のクローンを作るって言われたよカマキリえもん~。さぼる道具出して~」

「まじすか!」

「え?」

「ぎちぎち~?」

「お前、今しゃべらなかった?」


 カ・マキリーとセレニコは鏡合わせのように首を傾げた。


「まあいいか」


 セレニコは細かいことは気にしない。無駄に足を上げながら自分の研究室に帰った。


 セレニコの研究室はお菓子の袋が床に散らばっている。そして怪人培養のための円柱状培養漕がならんでいた。薄暗い部屋の奥には巨大なモニターとその横にゲーム機のプレスタ6が繋がれている。


「とりあえず怪人の培養、というかマリカのデータから作るか~、いてっ」


 何かにぶつかってセレニコは痛がった。見れば黒の太陽の残骸を蹴飛ばしたらしい。普通に置いてあった。壊れた後にセレニコは何かの役に立つかもしれないと思い研究室に運ばせたがめんどくさくなって部屋の隅に置いておいた。たまに研究のために持ち歩いていたが、だいたいその辺の床に置いておいたのだ。


「ん~。これか。そろそろ捨てるかなぁ。ねぇ、これって燃えるゴミかな燃えないゴミかな。カ・マキリ―」

「ぎちぎち~」

「カマキリにわからないかぁ。まあ、燃えそうにないから不燃ごみだよね。カ・マキリー。これ不燃ごみにの袋に入れておいて……あ、そうだ!」


 どうせ捨てるのだからこれから作る怪人のコアにしようとセレニコは思いついた。軽い気持ちだった。人類を滅ぼしうる超兵器『黒の太陽』はセレニコの思い付きにより新型怪人『魔法天使マリカ』に組み込まれることになった。


 ――そしてこれは生まれた『黒の太陽』の自我である。呼び覚ました原動力はサンの恨みの記憶である。


 サンが目を覚ましたのは培養槽の中だった。


(ここは、……どこだ? 私は……)


 思い出すとフラッシュバックのようあの日の光景が思い浮かんだ。いきなり目の前に近づいてきた少女が杖にひっかけて自分を地面に叩き落す瞬間の光景だった。


(くっ……これは、人の体? 私は肉体に入っているのか?)


 永い時の中この世にあり続けた黒の太陽としての過去を彼女は覚えていた。それが肉体を得た今に様々な感情となって彼女を包んだ。


(あの……魔法使いめ……)


 恨みというものが胸の奥に芽生えることを感じた。すさまじい殺気が彼女から発せられた。


「ふぃ~、仕事さぼりのコーンポタージュはうめーぜ」


 殺気を発しているのだが培養槽の向こうでのんきにマグカップでコーンポタージュを飲んでいるセレニコは全然気が付かない。彼女はちらりとサンを見た。


「あ、いけね。培養液をいれよ」

(!?)


 どばどばと緑色の液体が流れてくる。サンの体は動かない。


(ちょっ、まって。息を、がぼ、ごぼごぼ)


 未完成の怪人である彼女はうまく体を動かせない。


(きさ、きさま、じ、じんこうこきゅうきとか、いれるだろ!)


 セレニコはコーンポタージュをおいしそうに飲んでいる。ほっぺたが動いていた。コーンを嚙んでいるのだ。


(がぼごぼごぼご)


「ぎ、ぎちぎち!?」


 そこに現れたのはカマキリ型怪人のカ・マキリーだった。セレニコに何を訴えている。それでやっと培養槽のサンに酸素吸入器をつけることを彼女は思い出した。


「やべ~。ぽちっとな」


 それでセレニコはボタンを押すとサンの口元に酸素の吸入用の透明なカバーが付けられた。これで助かったかと思ったが空気が来ない。


(く、くるしいぃ)

「あ、酸素の比率を決めるんだった。……どれくらいだっけ、えーい! 100%だ!」


 酸素100%を送りだそうとするセレニコをカ・マキリーが止める。


「高濃度の酸素はスポーツ選手もやっているだろ、はなせぇカ・マキリー」

「ぎちぎち~」


 100%濃度の酸素を送り込まれると人は死ぬ。サンは全部聞いているから心の底から叫んだ。


(やめろ! 馬鹿!!)


 そして黒の太陽の化身である自分がカマキリごときに助けられている現状もつらかった。


 サンはこうしてセレニコとの共同生活が始まった。完成するまでの間このてきとうな少女と一緒に暮らすというか一緒にいなければならない。


「たまには甘いものものみたいだろうし。培養槽にファンダ・グレープ入れてやるか」


 などと言われながら炭酸飲料を流し込まれたり。


「怪人としての知識も必要だから、いろいろと情報を送り込んでやるかぁ。ウィキペディアの文字情報を頭にデバイスをつけて流しこみ~」


 などと言われながら日本語のウィキ情報を大量に流し込まれた。だいたいアニメなどの情報でいらないものが多かった。


(ころせぇ、いっそころせぇ! というか研究者を別の誰かにかえろぉ)


 叫んでも誰も聞いていない。というかまだ話ができない。だがサンには強い意志があった。


(こ、こんなことになったのはあのポンコツのせいだ……。あのポンコツだけは絶対に許さない……)


☆


 そんなこんなで生み出された怪人『魔法天使マリカ』がザングルゴール皇帝の前に膝をついている。その容姿は鏡の魔法使いマリカに瓜二つだった。彼女はドレスのまま片膝をついたまま右胸に手を当てている。


「私は、魔法天使マリカ……。これから人間たちのために、そして四天王である『鏡の魔法使いマリカ』様のために尽くします……」(覚えてろよ)


 にっこり笑って、心で恨みを吐き出しながら魔法天使マリカは誕生した。


 彼女はにこにこと笑顔を絶やさずに自分のために作られた部屋に来た。鏡の魔法使いマリカの自室に似た部屋だった。魔法天使マリカ、いやサンは笑った。


「ふふふ、ふふふ。誰がおとなしく殺されてやるか……。むしろ全員始末してやる……」


 まずは鏡の魔法使いマリカに対しての復讐だった。


 彼女は用意された姿見の前に立った。麗しい少女の姿だった。


「鏡の魔法使いマリカ……お前は悪のイメージを世の中に持ってほしいのだろう?」


 姿見を両手で持って、鏡の中の自分に叫ぶ。


「だーれがそんなことをさせるかぁ! この姿で媚びを売りまくってお前のイメージをめちゃくちゃにした後に始末してやる!!」


 くくくと彼女は笑う。そして息を吸った。


 鏡の前で片足を上げて、片目をウインク。右手を横ピースにして顔に当てる。


「私は、魔法天使マリカ、さーんじょう!」


 暗い部屋の中で


 黒い太陽の化身は


 練習を開始した。


 鏡の魔法使いマリカの尊厳を削り取るという作業は自分の尊厳も削ることになる。


 微笑んだままサンのほほに涙が伝う。


「くっ」


 恥ずかしいポーズを解いて、顔が真っ赤になっていく。ベッドにダイブしてばふばふと枕をたたく。


「ぎ、ぎぃいい~」


 奇妙な声を出しながらも顔を上げた。少し涙目のままだった。やってみたが思ったよりきつかった。


「か、鏡の魔法使いマリカめぇ」


 などという姿はスーパー・ジャスティス・ファイブに恨み言を言うオリジナルに似ていた。







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