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ワールド・エンド『イリュソリー・フィクション』②

 シャドウの作った世界は自由自在。


 テーマパークの大通りを何かのキャラクターのパレードを光と音が煌びやかに彩りながら進んでいく。その先頭に楽し気にトランペットを吹くシャドウが大きく足を上げながら進んでいく。


「ま、まて!」


 マリカが追ってくるとどこかで見たようなネズミや犬のキャラクターたちがカバディのように通してくれない。マリカがそれに引っかかっているとシャドウはマリカを振り向いて指を目の下を引いて、んべと舌をだす。


「ここまでおいでにゃ~」

「く、く……」


 マリカは魔法の杖を振るって魔法の力でキャラクターたちを弾き飛ばすと「にゃはは」と言いながらシャドウは走り出す。それをマリカは必死になって追った。


 きらきら光るテーマパークの中でシャドウとマリカは追いかけっこをする。一方は楽しそうに、もう一方は相手にまじめに戦えと思いながら向かっていく。シャドウがアトラクションに飛び込むとマリカはそれを追って、だいたいひどい目に合う。


 メリーゴーランドに乗った時は突如として加速したメリーゴーランドがベイゴマのように回転してマリカは振り落とされないように作るものの馬にしがみついた。


「へ、へろ」


 などと言いながら目をぐるぐるさせて倒れているマリカにシャドウは近くに来て「だれがこんなことを」などといけしゃあしゃあと挑発した。それで生まれたての小鹿のような足でマリカは立ち上がり必死に追っていく。


「お、まえのせいだろがぁ!」

「じごうじとくにゃ~」


 そんな形で二人はテーマパークで追いかけっこを続けていた。



 しかしマリカはこの状況に苦みを感じていた。本来であれば魔法の力ですべてを消し去ればいいのだ。マリカのワールドエンドはまだ発動すらしていない。認めたくないことがある、マリカはシャドウを追いながらちょっとだけ楽しく感じてしまっていた。


「ちがう!」


 自分の何かを否定するマリカをシャドウがちらりと振り返る。彼女は走りながら言う。


「何が違うのにゃ~」

「なんでもない!」

「楽しかったりするんじゃないかにゃ」

「そんなことは絶対ない!」


 大声で否定するマリカ。シャドウはスキップで逃げていく。


「こんなふざけた世界が、戦いで意味があるわけない……」


 シャドウの作り出したワールド・エンド『イリュソリー・フィクション』の世界はすべてが本人の気まぐれを表したような世界だった。こんな世界でスーパー・ジャスティス・ファイブと戦うつもりだったのかとマリカは思った。


「……あ!」


 いつの間にかシャドウを見失っていた。マリカはしまったと臍を噛む。そしてリアルに地団駄を踏んだ。


「あいつどこにったの! もー!」

「ここだにゃ」


 顔を上げれば街灯の上にシャドウは立っていた。マリカはそれを見上げる。


「いつまで逃げ回っているの、そろそろ私と戦ったらどう?」

「……マリカ、きがついているのかわかんないけど。僕がこういう世界を作ったから君は攻撃できないでしょ」

「はあ?」


 何を言っているんだという風にマリカは眉をひそめた。街灯の上でシャドウはしゃがんで両頬を両手で覆う。


「マリカは敵意のある攻撃には反応できるにゃ。例えばバオウのように」

「……!」


 バオウのことを知っているとマリカは戦慄した。彼女は仲間割れというべき四天王間での私闘を行った。そして何よりバオウとのバトルが知られているならマリカのワールドエンドは知られている可能性があった。


 どこで見ていたのか、マリカの背筋に冷たいものを感じる。魔の四天王を倒したことがザングルゴールにばれればどうなるかわからない。マリカは探るように聞いた。


「……バオウとの戦いを見ていたの?」

「うーん。なんかバオウと同棲しているところまでしっているにゃ」

「……!!!??????」


 マリカはみるみるうちに顔を真っ赤にした。あわあわとくちを開け閉めする。


「してない!!! 誤解を招くようなこと言わないで!!!!」

「そういうことにしとくにゃ」

「していないから! そういうのじゃないから! ハムスター飼っているみたいなもんだから!!!」

「そ。それはそれでかわいそうにゃ」


 シャドウは普通に同情した。彼女はやれやれと頭を振る。


「まっ、どうでもいいにゃ。単にあいつから電話があって聞いただけにゃ。僕は普通に正義の味方に鞍替えするから全部無視したけど。携帯の電源切れそうって行ってたから僕以外には電話で来てないと思うけど」

「え!? バオウ……そ、そもそも正義の味方への寝返りなんてそんなことさせると思うの……!?」

「じゃあ、マリカ。ほら」


 シャドウは手を広げる。街灯の上で無防備に。


「僕を攻撃するにゃ。ほらほら」

「な、なにを言っているの」

「僕が攻撃しないからマリカも攻撃しないにゃ」

「そんなことない」

「じゃあ抵抗しないから殺してみるにゃ」

「!」


 マリカは唇をかんで魔法の杖をつかむ手に力を入れる。シャドウはそれを見下ろしながら言う。


「『鏡の魔法使いマリカ』は相手の敵意がないと相手を傷つけないように、遊ぶときは一緒に遊んでくれるにゃ。なるほど……鏡に映すようにね」


 シャドウは冷たい目をした。マリカはわずか下がったがそれを悟られないように笑う。


「私をなめているのね。その自信どこまで持つかしら」


 マリカは魔法の杖をかざす。シャドウはそれを返した。


「なめているというか、僕が挑発したから攻撃しちゃうってことにゃ。マリカ、悪人はなーんにもいわず相手を傷つけるものにゃ。別に相手のことを考えたりしないにゃ」


 シャドウは街灯からふわりと降りる。明るい街灯の光のもと、シルクハットを胸にあてる。


「相手のことを鏡に映しながら行動するから、ずっと昔のことを引きずっているってことね」

「……! また、そのことを」


 マリカは一度目をとじて、そして開ける。その目には敵意があった。シャドウは冷たい目をしている。マリカかは右手を上げる。その手には魔力がまとっていた。


「……バオウとの戦いを知っているならわかっているはず……このわたしをここまで怒らせたのだから……あなたがさっき言った自業自得というものよ」


 マリカを中心に魔法陣が展開する。それはシャドウの作った世界を侵食していく。紫の水晶を描くような魔法陣はだんだんと広がっていく。テーマパークの輪郭が崩れて、だんだんと闇が広がっていく。マリカの目に髪がかかり、もうひとつの瞳がシャドウを見る。


「私の鏡はすべてを映す。『クローズド・ミラー・ワールド』」


 マリカを中心に闇が広がっていく。



 その中心に真っ黒な巨大な鏡が現れた。それは黒い深淵を表すような深い闇が奥に広がっている。


 彼女はその中心に浮かび、そして表情を変えずに言う。


「私の鏡に映したものはすべて鏡の世界にいざなう。このテーマパークごと、シャドウ。あなたを……っ!?」


 シャドウはいつの間にか一人ではなくなってた。


 金髪の少女の前に一人の小さな女のがいた。紫の髪をしたかわいらしいその少女の表情をシャドウの両手が覆っている。それは明らかにマリカの姿、しかし昔の姿だった。


 シャドウの手は現れた『過去のマリカ』の表情だけを隠している。


「僕のワールド・エンド『イリュソリー・フィクション』は自由自在の世界。なんでもあるし、なんにもない。から……マリカの過去あの日の姿もある」

「そ、そんな、うそだ!」

「僕の力は過去からも情報を得てここに表すことができる『鏡の魔法使いマリカ』が生まれた日に『この子」がどういう顔をしていたか」


 シャドウが笑う。


「マリカの鏡は映すことができるかにゃ?」

「……く、……そん、ばか……そんなこと」


 マリカは否定する。


「そ、そんな力があるわけない! あなたは嘘をついてるだけ……! 過去を見る力があなたのワールドエンドにあるなんて……わ、私をだますための罠でしょ」

「ふーん。かもしれないにゃ」

「な」


 マリカの闇中でシャドウの表情は暗く、ただその口もとの赤さだけが見えた。


「もしかしたらそうかもしれないにゃ。じゃあ。僕は『この子』の顔から手を放してもいいにゃ。それをマリカの鏡が映してくれたらいいにゃ、あの日の自分の表情を見てみるといいよ」

「……だからそれは、嘘……嘘だ」

「嘘かもしれないっていっているから、でもねマリカ」


 いたずら好きの猫のように残酷な笑顔でシャドウは言う。


「僕が嘘をついてるって、この目の前の『あの日のマリカ』は嘘だって最後まで自分を信じられるかにゃ」

「…………!」


 マリカはいつの間にか魔法の杖を持つ手に力が入っていた。シャドウはそんな彼女を冷たく一瞥する。そして何も言わずにその両手を『過去のマリカ』の顔から離していく。


「だ」


 マリカは叫んだ。


「だめー!!」


☆


 河川敷は今日の夕日の沈む瞬間にあった。強い太陽の光が二人の少女を照らしている。


「はあはあはあ」


 柊 みかんは手をついていた。目の前にはシャドウではなく栗原 玲央がポケットに手を入れて彼女を見下ろしていた。


「まあ、今回はこんなところにしとくにゃ」


 みかんは彼女を睨んだ。


「に、逃げる気? なぜワールドエンドを解除したの」

「それはみかんも同じ。なんでそうしたのって言われて答えられる?」


 レオは踵を返す。


「僕は答えられる。お腹すいたからにゃ~。それじゃみかんも魔法天使マリカとの戦いを頑張って」

「ま、まって」


 レオは流し目でみかんを見た。夜に向かう空の下、その瞳が猫のようにきらりと光る。


「そうそう、こんなにみかんを勧誘している理由だけ教えおくね。みかんと一緒にいると楽しいからにゃ」

「は、はあ!? そんな理由うそでしょ」

「さて、実際嘘をついているかはどうなのかなー」


 レオはその場で手を広げてくるくる回る。


「全部嘘かしれないし、本当かもしれないし、幻想かもしれないにゃ~。僕は気まぐれ、全部策略、全部思いつき。どれがほんとかわからないてきとうなのにゃ~。正義も悪も楽しければどうでもいいにゃ~」


 みかんは叫んだ。


「こ、この嘘つき!」

「あー耳が痛いにゃ~」


 そんなこと思っていないだろうと思えるくらいにレオは軽快に走り去っていく。ただ耳を抑えていた。一度だけレオが振り返るとみかんがうつむいて河川敷にたたずんでいた。


 レオはそのまま走り去っていく。


☆


 夜の街をポケットに手を突っ込んでレオは歩いていく。彼女は一度ふらついた。


「さすがに力を使いすぎたかにゃ」


 体が重たい。今すぐにでもかえって寝たかった。彼女は大きなあくびをしてから家路を急ぐ。彼女の作った幻想ではない本当の街の作り出すネオンの中を彼女は歩く。


「まあ、計画はそろそろ最終段階。魔法天使マリカの役目ももう少し」


 レオが裏路地に入る。近道をしたかった。


「誰がもう少しだって?」

「……?」


 レオが振り返る、夜の闇の中にシルエットだけが見えた。長い髪の少女。その背に天使のような羽がある。その少女は腕を組んでいた。


「お前は……」

「お前って言うのはやめてほしいね。私は私なんだから」

「……ふっ」


 レオは笑った。


「ただの人形なのににゃ」

「……違う。私は……お前の思っているような……あのポンコツお人よしとは違う……」

「まあ、みかんはそこがいいところだからにゃ」

「はっ」


 シルエットは笑う。


「悪として私は生まれた。それがお前たちの計画。くだらない芝居のために生まれた私の存在。……でも私はその通りには生きない。……お前もポンコツも倒して、私だけが本物になる」

「やれやれ」


 レオは首を振る。


「……せっかくうまくいきそうなのに、ここで人形を始末することになるとはね」

「……始末されるのはお前だ」


 シルエットは両手を広げる。その体に魔力が奔る。シルエットの口が笑う。


「「私こそが本当の鏡……ワールドエンド『クローズド・ミラー・ワールド』」

「なっ!?」


 一瞬の閃光が奔る。


 路地の裏から一人の少女が出てくる。その手には一枚の鏡。少女は紫の髪をした少女だった。妖艶な笑みを浮かべてクックと笑う。手に持った小さな鏡をもてあそびながら言った。その中には猫のような少女が映っている。


「私は私。あのポンコツこそが紛い物の悪だとわからせてやる……」


 少女は哂う。そして夜の闇に消えていく。ただ、帰りに鏡の中に入れるコンビニのおにぎりを買って帰ることにした。


「くくく。私はあいつの偽物じゃない。……全然似てない」


 魔法天使マリカはそう言って笑った。


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