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新たなる敵

「貴様を呼んだのは他でもない」


 ザングルゴール皇帝は玉座に座り、眼下に片膝をついて首を垂れる魔の四天王の一人、というよりは実質的に最後の四天王であるマリカに対していった。


 ここはザングルゴール皇帝の作った異世界であるダークロードの宮廷である。彼は急遽マリカを呼び出したのだった。マリカはバオウへのご飯も忘れて参上したことで微妙に心配しているが表情には出さない。


「マリカよ、貴様の指揮のもとわが宮殿の改造は着々と進んでおる……まずはそれを誉めてやろう」

「はっ」


 はっと言ったが、何もした覚えがないマリカだった。だが、ザングルゴールはマリカの様子に構うことなく話をつづけた。


「しかし、マリカよ。知っておるか?」

「なにを……でしょうか」

「魔法天使マリカの存在よ……」

「……!!!??????」


 魔 法 天 使 マ リ カ 


 忌々しいその言葉を聞いた瞬間マリカは口から心臓が飛び出るかと思った。ザングルゴールにばれているとすれば、陰で人助けをしてしまったことやSNSで妙な人気があることにどんな罰があるのかわからない。


 そもそもの話だが、何の罰にあたるのか皆目見当がつかないので文字通りわからなかった。


「し、しりません」


 マリカは顔を上げない。肌に汗が球を作っている。こんな状況でザングルゴールの顔は見るわけにはいかない。動揺しているのが明らかだからだ。


「ふむ」


 ザングルゴールはマリカを見下ろしながら言った。


「……スーパー・ジャスティス・ファイブと戦う我らだが、この貴様と同じ名前を名乗る魔法天使という輩は各地で善行をしているという……」


(し、してね~!)


 心中の女子高生みかんの叫びを抑え込み。マリカは顔を下げたまま言う。


 どうやらザングルゴールは『鏡の魔法使いマリカ』と『魔法天使マリカ』を同名の別人として認識しているらしい。マリカはその勘違いを利用するために言った。


「そのような輩がいれば、私が始末します」

「うむ、よく言った」


 自分を始末するという話をしてしまうマリカ。彼女は内心で何を言っているのかわからなくなっていく自分を感じた。


 ザングルゴールは立ち上がった。


「鏡の魔法使いマリカに命じる……。スーパー・ジャスティス・ファイブとの最終決戦の近い今、我が四天王の名前を騙る妙な輩に動かれては目障りだ……探し出して始末するのだ」

「……ふっ。承りましたザングルゴール皇帝陛下。私の名前を使ったことを後悔させてあげましょう。ふふふ」

「ぐはははは! さすがが我が四天王よ、さあ、ゆけい! 魔法天使なるものを血祭りにあげるのだ!」

「お任せください」


 マリカは立ち上がり、踵を返す。


 彼女のはくハイヒールがかつ、かつと冷たい音を鳴らす――


☆


「でっきるかぁ!!」


 誰もいないところで壁をたたくマリカ。


 魔法天使マリカを始末するという任務を背負った彼女はあまりの理不尽に普段見せない顔をしていた。自分を探し出して始末するという話である。どうすればいいのか本当にわからなかった。


「うううう!」


 案の定この前女の子を助けたことにより、SNSではお祭り騒ぎになっていた。ザングルゴールはおそらく本人はSNSをやらないだろうがどこからか正義の味方としての『魔法天使マリカ』を聞いてしまったのだろう。


 TVでは火事から助けた少女は『マリカ』とは言わなかったが『魔法天使』なる言葉を使ったことですぐに特定された。世界広しといえども魔法天使などと言われるのはマリカしかいない。


「なんで私はいつもこんなことばかり」


 宮殿は怪人達が工事を続けている。マリカははあとため息をついてからすました顔をつくるために両頬をぱんぱんと手でたたいた。そしてクールな表情を作った。


 廊下に出たとき冷たい目をした美少女に戻っていた。だがその心の中はどうやって皇帝をごまかすのかの算段を練っている。そもそも『魔法天使マリカ』なる人物は存在しない。ネット上の虚構である。集団幻覚と言っていい。


 つまりはスーパー・ジャスティス・ファイブを倒すよりも難しいということである。マリカは人生最大の強敵を倒す任務を背負ったといっていい。


「ふっ」


 自嘲するその姿ははたから見れば美しかった。うっすらと笑うその表情、長いまつげ。魔力の粒子で少し輝いて見える。


(もー! もー!!)


 心の中は女子高生みかんがもーもー言っているとは誰も気が付かないだろう。


 マリカはしょうがないので宮殿を後にする。工事については特にかかわってないのでやることはなかった。


☆


 人間世界。マリカは魔法を解いて女子高生である柊 みかんに戻った。


「ふぃ~」


 高校の制服になるとなんとなく楽な気がした。『鏡の魔法使いマリカ』の格好の時は手に杖を持っているから重いのである。そのせいでとんでもない失敗を複数回やってきた。ただ彼女の失敗の数々は世界全体から見れば福音である。


 街を歩きながらみかんは家路についた。ちょっとショッピングをしたい気持ちあるが、早く帰ってバオウにご飯をあげなければならない。


 その時スマートフォンが鳴った。Rhine電話だった。アプリケーションを通した通話である。相手を見てみかんは眼を見開いた。


 レオ


「あいつ……また性懲りもなく」

 

 だが、無視するわけにはいかない。スーパー・ジャスティス・ファイブに寝返ろうとしている少女である。何を企んでいるのかわからない。彼女は電話に出た。


『あ、みかんにゃ~?』

「そうよ。なんの用?」

『なんか冷たいにゃ。』

「……私とあんたは敵同士になるはずよ」

『敵? ……やれやれにゃ。みかんはわかってないね』

「なにがっ」

『みかんは絶対悪には向いてないのは保証するにゃ。もしも全財産賭けろと言われても普通にかけても外れないと思うにゃ」

「……人をなめて……」

『ぺろぺろ~』

「うううう!!」


 完全に人をなめ腐った電話にみかんは顔を赤くして怒った。電話の向こうではレオの笑い声が聞こえてくる。


「な、何も用がないなら切るわよ」

『……用は一貫しているよ。みかん』


 声のトーンが変わった。


『できもしない悪なんてやめて僕と一緒に正義になるにゃ。……みかんはザングルゴールの宮廷から離れたにゃ?』

「今、街にいるけど……」

『そう、じゃあいっておくにゃ』


 冷たい声がした。


『もう、悪に戻ることはできないよ』


 その言葉を最後に通話が切れた。みかんはその場に立ち尽くして通話の切れた電話をじっと見て、レオの言葉を考えてしまう。


「戻ることができない?」


 何を馬鹿なと頭を振る。彼女はバオウを倒すほどの実力のある女の子である。仮にレオが向かってきても打倒するだけだった。


「黒い太陽のことをザングルゴール皇帝陛下に伝えたとしても……レオが裏切ることを言えば、ギリ……いける」


 みかんはそこまで計算をしている。苦虫をかみつぶしたような顔をしているが、それでもレオの言うようにならないだろう――


 ――そう思っていた。


 彗星が跳ぶがごとく。空に巨大な星が飛んだ。


 きらきらとそれは光を帯びて、街の中心に向かって落ちていく。


 みかんはそれを目で追っている。街の人々もそれを驚きの目で見ていた。


「な、なにあれ」


 彗星は街の中心に落ちた。ぱぁあんと光がはじけて、とても美しい粒子をまき散らす。


 その中心に立つ女の子のシルエット。


 紫の髪に黒と紫のドレスを着て、手には魔法の杖を持った彼女は眼の中に星を宿した美少女だった。彼女の背には白い羽がある。


 人々の目は彼女にくぎ付けだった。


 光の中でシルエット少女が笑う。


「マジカル☆ラブリー! 魔法天使マリカちゃん! さーーーーーん、じょう!」


 片足を上げて、片手を手に当ててウインクする。『鏡の魔法使いマリカ』』そっくりの顔をした魔法天使マリカが現れた。


 みかんはそれを見て「???」と脳が情報の処理に追いつかない。


 ☆



 遠くのビル。


 尖塔の上に立つシルクハットをかぶった金髪の少女。タキシードをつけた細身な彼女は猫のようににやりと笑う。


「みかん。魔の四天王なんてやめることになるにゃ」


 いたずらっぽくしししと笑った後、彼女は表情を変えて冷たく微笑んだ。


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