第9話:貴族のいざこざと『平和の使者』
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魔獣討伐の噂が王都まで届き、ついに「正式な勇者パーティ認定」と「魔王討伐の命」まで下されてしまったミランたち。
逃げ場のないプレッシャーの中、彼らが向かった次の街で待ち受けていたのは――さらなる面倒なトラブル(と新たな勘違い)でした!
第9話「貴族のいざこざと『平和の使者』」、どうぞお楽しみください!
ロンドールを発った三人は、王都からの正式な「勇者認定」の勅書を胸に(というか、懐に隠すようにして)、馬車に揺られて次の目的地へと向かっていた。
向かった先は、王国でも有数の歴史を誇る美しい水都――『アルトマリア』であった。
しかし、華やかな外見とは裏腹に、いまのアルトマリアの内部はドロドロとした権力闘争の真っ只中にあった。街を二分する二大貴族、伝統を重んじる「ブラッドレー家」と、新進気鋭の商人系貴族「シルバニア家」の間で、次期当主の座を巡る激しい跡目争いが勃発していたのだ。街の治安は最悪で、一歩間違えば暴動が起きかねないピリピリムードが漂っている。
そんな街に、よりによって「国の正式な勇者様」として鳴り物入りでやってきてしまった三人。
「なぁ、ミラン……この街、なんか空気すごくないか? 通り過ぎる人たちの目が、みんな殺意に満ちているというか、こう……ギスギスしすぎじゃないか?」
馬車の窓から外を覗き込みながら、ザックが引きつった笑顔で言った。
「当たり前だろ。事前情報だと、この街は今、二大貴族の跡目争いで内戦寸前らしいぞ。そんなところに、王都から派遣された『勇者パーティ』なんて肩書で乗り込んだら、どっちの派閥からも利用されるか、あるいは暗殺されるかの二択だ!」
ミランは頭を抱えながら、もらったばかりの豪華な革袋(中身の金貨)を固く握りしめた。
「ふっ、案ずるなミラン。貴族のドロドロした権力闘争など、元貴族の血を引くこの俺にかかれば赤子の手をひねるようなものさ。……まあ、今の俺はすっかり庶民の味方だがね!」
ジャックがやおら胸を張り、なぜか優雅に紅茶を飲むようなエア仕草をしてみせた。
「お前のその謎の余裕はどこから来るんだよ……。もしトラブルに巻き込まれたら、即座に全員で土下座して逃げるからな!」
三人がそんな不吉な会話を交わしながらアルトマリアの市街地に入った瞬間、運命の歯車(あるいは最悪のタイミング)がガシリと噛み合った。
パカパカパカッ……!
大通りの十字路で、ブラッドレー家の私兵団と、シルバニア家の護衛騎士たちが、まさに一触即発のにらみ合いを演じていたのだ。その中央、両派閥の間に挟まれるようにして、ミランたちの乗った馬車がポツンと停車してしまった。
「おい、そこの馬車! どちらの旗の下に通るつもりだ! ブラッドレー家の威信にかけて、今すぐ道を空けろ!」
ブラッドレー家の厳めしい隊長が、抜き身の剣を片手に怒鳴りつけてきた。
対して、シルバニア家の若き副官も負けじと声を張り上げる。
「ふざけるな! こちらの商用ルートが先だ! 新時代の波に乗れない古い貴族風情が調子に乗るなよ!」
周囲を取り囲んでいた野次馬たち息を呑み、ついに剣が交わされるかと思ったその時――。
「うるさーーーーいっ!!!」
突如、馬車のドアが勢いよく開き、ザックがひょっこりと顔を出した。
もちろん、彼が怒鳴ったのには理由がある。大声を出せば威圧できると思ったわけではなく、単に馬車の中で配られていた硬いドライフルーツが喉に引っかかって、反射的に大声が出ただけなのだが――。
その声の勢いと、ザックの背後に漂う(周囲が勝手に作り上げた)「伝説の勇者の圧倒的なオーラ」に、その場の空気が一瞬で凍りついた。
「なっ……!? い、いまの声は……!?」
「まさか、あの噂に聞く王都の……!」
ブラッドレー家とシルバニア家の両方の兵士たちが、一斉に青ざめて馬車のほうを振り返った。そこには、不機嫌そうに(ただ喉を押さえていただけなのだが)顔をしかめるザックと、なぜかその隣で冷徹なまでの知性をたたえた瞳(ただの白目一歩手前)でこちらを見据えるジャック、そして中央で深々と頭を抱えるミランの姿があった。
「ま、待て……! あの者たちは……ロンドールの魔獣を討ち取り、王都から『勇者』として認定されたという伝説の三人組ではないか……!」
「なぜ、このような場に……!? まさか、我が家の不正を暴きに……!?」
両派閥のリーダー格の男たちが、一気に血の気を引かせて震え上がった。
彼らにとって、いま最も「敵に回してはいけない存在」が、まさに目の前に現れたのだから無理もない。
「――お、お待ちなさい、皆様方!」
ここで、ミランが腹をくくった。
どうせまた「何か勘違いされて面倒なことになる」のなら、いっそこちらから強引に話をまとめて、一刻も早くこの場から立ち去ってやる――! ミランは勢いよく馬車から飛び降り、両手を大きく広げて毅然とした態度をとった。
「いつまでそんな子供の喧嘩のような真似をしているんだ! 見苦しいぞ、アルトマリアの貴族たちよ!」
ミランのハッタリ全開の声が、静まり返った大通りに響き渡った。
第9話をお読みいただき、ありがとうございます!
次なる目的地・水都アルトマリアに到着した三人は、早速ブラッドレー家とシルバニア家の激しい跡目争い(一触即発の現場)に巻き込まれてしまいました。
喉に詰まったドライフルーツのせいで発したザックの一喝と、ミランのやけくそなハッタリは、このアルトマリアの権力闘争をどう動かしてしまうのでしょうか!?
次回、第10話「元貴族・ジャックの知識と、ザックの派手な照明魔法(3回目)」に続きます!




