第3話:ひょんなことから盗賊団のアジトへ迷い込む日
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親切な衛兵のおかげで、どうにか初日の宿とスープにありつけたミランたち。
お腹も満たされ、一息ついた彼らでしたが――運命(と勘違い)は、彼らを休ませてはくれません。
第3話「ひょんなことから盗賊団のアジトへ迷い込む日」、どうぞお楽しみください!
「……なぁ、ミラン」
「なんだよ、ザック」
「ここ、どこだ?」
「……知るか」
翌朝、ボロ布亭で目を覚ました三人は、宿の親父に「街の裏手にある、空き物件の倉庫をタダで貸してやるから、荷物置場にでもしな」と声をかけられ、ふらふらと街の隅へとやってきていた。
しかし、案内されたはずのその場所は、どう見ても「ただの空き物件」ではなかった。
目の前にあるのは、蔦が鬱蒼と絡まり、薄暗い影を落とす古びた地下への入り口だった。看板には『古物商倉庫』と書いてあるが、どう見ても鍵は開けっ放しで、中から怪しげな男たちの低い話し声が漏れている。しかも、隙間から漂ってくるのは、燻製肉の美味しそうな匂いと、微かな血の気配だった。
「おい、ここ絶対違うぞ。倉庫っていうか、完全にアジトだろ」
ジャックがピクピクと耳を動かし、早くも足の震えを隠しきれずに後ずさった。
「馬鹿野郎、親父さんが『一番奥の扉だ』って言ってたんだからここだろ。……ちょっと中を覗いてみようぜ。もしかしたら、昨日の残りのスープの差し入れとかがあるかもしれない」
ザックは呑気にそんなことを言いながら、ずかずかと地下への階段を下りていこうとする。
「待て待て待て! 待てってザック! 治安の悪い街の裏手でそんな軽率に地下に入るな! モンスターより怖い人間がいるんだぞ!」
ミランが慌ててザックの服の裾を引っ張ったが、時すでに遅し。
ザックの足が、古びた木の床板を踏み抜いた。
バキッ!!
盛大に木が割れる音が、地下の空間に響き渡った。
静まり返っていた地下室の空気が、一瞬で凍りつく。
「「「…………」」」
恐る恐る下を覗き込んだ三人の視線の先には、鋭いナイフを持った屈強な男たちが十数人、ぎょっとした目で見上げていた。テーブルの上には、山盛りの金貨と盗品の数々。
――そう、そこはロンドールを震撼させている、凶悪な「黒髭盗賊団」の本拠地アジトそのものだったのだ。
「お、おい……お前ら、どこから入ってきた……!」
一人の巨体の男が、ドスの利いた声を絞り出した。
その瞬間、ジャックの体が一文字にピーンと硬直した。
魔物なら失神レベルの恐怖のはずだった。しかし、相手が「人間」と認識された瞬間、ジャックの中で謎のスイッチが切り替わった。
ビクビクと震えていた足がすっと止まり、彼の背筋がスッと伸びる。元貴族の血筋が呼び覚まされたのか、ジャックは冷ややかな目を据え、ふん、と鼻で笑った。
「ふっ……これだから下民は困る。秘密のアジトのつもりだろうが、床の強度すらまともに保てぬとはな。我々が踏み込むまで気づかんとは、警察の犬よりも始末に負えん素人集団か」
「な、なんだと……っ!? こいつ、生意気な口を……!」
盗賊たちが一斉に殺気を放ち、武器を構えて立ち上がった。
「ひっ、ジャック、お前何言ってるんだ殺されるぞ!?」
ミランが青ざめてジャックの袖を引っ張るが、ジャックはもう誰にも止められない「人間相手に無駄に強いモード」に入っていた。
「下がっていれ、ミラン。こんな雑魚ども、俺が相手をしてやる……ただし、私の機嫌を損ねたら、貴様らの隠し財産の隠し場所まで一網打尽にして街中に晒してやるがな!」
(※ハッタリである)
そのあまりの堂々とした態度に、盗賊団の幹部たちは「こいつ……只者じゃない……!? まさか、王都から派遣された極秘の討伐官か!?」と勝手に勘違いし、じりじりと後じさりを始めた。
「ち、チッ……! やるじゃねぇか! だが、ここで生きて帰れると思うなよ!」
盗賊の一人がナイフを振り上げ、三人に突撃してきた。
「わっ、やばい! ザック、なんかしてくれ!」
ミランが叫ぶ。
ザックは慌てふためき、両手を突き出して叫んだ。
「うわあああ、来るな来るな! ええと、ええと……1回目! 不発! 2回目! 不発……っ!」
ザックの指先から、ポチポチと頼りない火花が散るだけだった。盗賊の刃が、まさにザックの鼻先に迫る。
「終わりだぁっ!」
「あ、3回目!!」
ザックがヤケクソで放った3回目の指パッチン。
――パチン!!
ドゴオオオオオオオオオオッ!!!!
突如として発生した超絶的な魔力の奔流は、コントロールを完全に無視して部屋全体を包み込んだ。
すさまじい冷気が爆発四散し、突撃してきた盗賊は文字通り「一瞬」で氷の彫像へと変貌。さらにその余波はアジト全体を凍りつかせ、中央にいた盗賊団のリーダーの足元から頭のてっぺんまでを、見事なまでにカッチカチの氷漬けにしてしまったのである。
「「「…………」」」
シーン、と静まり返った地下アジト。
生き残った残りの盗賊たちは、仲間が秒速で芸術的なアイス escultura(彫刻)にされた光景を見て、恐怖で完全に戦意を喪失していた。
「ひ、ひぃぃぃ……っ! こ、こいつら、化け物だぁぁぁーーっ!!」
「リーダーが……一瞬で冷凍マグロに……っ!!逃げろーーっ!」
残りの盗賊たちは武器を投げ捨て、蜘蛛の子を散らすように我先にと逃げ出していった。誰も彼らを追いかけようとはしなかった。なぜなら、ミラン自身が一番ビビっていたからだ。
「……終わった?」
ミランが恐る恐る周囲を見渡す。
そこには、完全に沈黙した盗賊団のアジトと、氷漬けにされたリーダーの姿だけが残されていた。
「す、すごいぞザック……! お前の魔法、めちゃくちゃに当たり散らしたぞ!」
「いやあ、確率って怖いね! まさか一網打尽にできるとは自分でもびっくりだよ!」
ヘラヘラと笑うザックの横で、ジャックはふふんと鼻を鳴らして剣を鞘に収めた。
「ふっ、俺の心理戦と、ザックの圧倒的制圧魔法のコンビネーション……我ながら完璧だったな」
「いや、お前の心理戦はただのハッタリだっただろ! ていうか、早くここから逃げよう! 衛兵が来るぞ!」
ミランの的確な(というか必死な)判断により、三人は慌ててその場からダッシュで逃げ出したのだった。
彼らはこの時、まだ知らなかった。この「盗賊団アジトの壊滅劇」が、ロンドールの街を揺るがす伝説の第一歩になるということを……。
第3話をお読みいただき、ありがとうございます!
初めての街で、まさかの盗賊団アジトに迷い込んでしまった三人。
ジャックの謎の強気な交渉と、ザックの3回目の爆発魔法(大惨事)により、意図せず盗賊団を壊滅させてしまいました。
本人たちは「やばい、逃げろ!」と焦っているだけですが、次回第4話では、この一件が街中でとんでもない大事件として取り上げられることに……!?




