第2話:最初の街と、野宿の夜
第1話をお読みいただきありがとうございます!
初めての街「ロンドール」の門をどうにかこうにか潜り抜けた、ミラン、ザック、ジャックのポンコツ三人組。
一文無し、お腹ペコペコ、行くあてなしの彼らが、最初に直面する過酷な(?)現実とは……?
相変わらず何も考えていない彼らの珍道中、第2話「最初の街と、野宿の夜」をどうぞ!
「はあ……これが街か。人、多くないか?」
「当たり前だろ、ジャック。ここはロンドール、この辺りじゃそこそこ栄えた商業都市だ。村の人口の百倍は人がいるぞ」
大通りを歩きながら、ミランがやれやれといった様子で肩をすくめた。
左右には石畳の道路が続き、並び立つ店からはパンの焼ける香ばしい匂いや、肉を焼く食欲をそそるスパイスの香りが漂ってくる。空腹の限界を迎えている三人にとって、それはもはや精神攻撃に等しかった。
「お腹すいた……。ねえ、ミラン、何か食べようよ」
ザックがトボトボと歩きながら、ゾンビのような足取りで訴えかける。
「金がないってさっきから言ってるだろ。何で買うんだよ。道端の石ころでもしゃぶるか?」
「石はちょっと硬いかな。できればこう、外側がカリッとしてて、中はジューシーな肉がいい」
「贅沢を言うな。現実を見ろ。いま俺たちが所持しているのは、ミランが道端で拾った謎の小石と、俺がさっきから握りしめている一握りの砂だけだ」
ジャックがガタガタと震えながら、哀れなポケットの中身を披露した。元貴族のプライドはどこへやら、現在の所持金は完全にゼロである。
腹の虫が「グー」ではなく、もはや「グオオオオオ」という低音の合唱を奏で始めたその時だった。
「おい、そこのお前たち!」
背後から、やけに威勢のいい声が飛んできた。
振り返ると、いかにも「新米です!」と言わんばかりのピカピカの鎧をまとった若手の衛兵が、血相を変えて走ってくさってきた。その顔には焦りと緊張の色がくっきりと浮かんでいる。
「ひっ!? な、なんだ!? 俺たちが何かしたか!? さっきの雷は俺たちのせいじゃないぞ、たまたま上空の気圧が不安定だっただけで……!」
ジャックがビュンと身を縮こまらせ、腰の剣に手をかけようとして――「あ、相手は人間だったわ」と思い出し、なぜか急に胸を張ってツンと澄ました顔をした。謎の精神の切り替えである。
「いや、お前たちのことじゃない! ……って、お前たち、見たところ顔を真っ青にして……もしかして、外から来た旅人か?」
衛兵の男は、三人のボロボロの服と、極限までやつれた顔を見て、すべてを察したような顔をした。
「そうだ、見てのとおり腹を空かせた哀れな旅人だが……何か?」
ミランが用心深く答えると、衛兵は深く、それはもう深々と頭を下げた。
「す、すまない! 今、この街の周辺は盗賊団のシノギが激しくてな、旅人がまともに宿を取れない状態なんだ。……そうだ、ちょうどいい! お前たち、宿を探しているなら、あそこの『ボロ布亭』に行くといい。俺の名前を出せば、今夜一晩くらいはタダでスープにありつけるはずだ!」
「「「えっ?」」」
三人の声が完全にハモった。
タダでスープ。その甘美な響きに、ザックの目が星のように輝く。
「まじで!? あの、温かくてしょっぱい液体が飲めるの!?」
「あ、ああ。うちの部隊の者がいつも世話になってる宿の親父だからな。……なに、お前たちのような、こう……底知れない雰囲気を漂わせた猛者なら、きっと明日からの街の治安維持の足しにも……いや、なんでもない! とにかく行ってくれ!」
衛兵はそれだけ言い残すと、慌てた様子で別の路地へと駆け去っていった。
「……なぁ、ミラン」
ザックが小声で呟いた。
「俺たち、今めっちゃ親切にされなかったか?」
「されたな。しかもタダ飯付きだ」
「俺たち、何かすごい風格でも出てたのかな? さすが元貴族の俺の気品が、あの若造の心に刺さったか……?」
「絶対違うぞ、ジャック。お前のその怯えた顔は、どう見ても『職質一歩手前の不審者』だったぞ」
とはいえ、背腹は代えられない。三人品よく(必死に飢えを隠しながら)、衛兵に教えてもらった『ボロ布亭』の扉を叩いた。
結果、宿の親父は「あの若造の紹介か! 旅の苦労は大変だな!」と、温かい豆のスープと、硬いが噛めば味が出る黒パンを山のように振る舞ってくれたのだった。
こうして、最初の夜をどうにか野宿から免れた三人。
しかし、彼らはまだ知らなかった。
この親父の紹介された宿こそが、後に街を揺るがす大事件の「真のステージ」へと繋がっているということを……。
「ふー、生き返った……。やっぱ、スープって偉大だわ」
ベッドの上で大の字になりながら、ザックが満足げに天井を見上げる。
「だな。……おい、明日からどうやって生きていくんだよ、俺たち」
ミランが窓の外に沈む夕日を眺めながら小さく呟いた。
「なんとかなるさ。ほら、ミランには謎の統率力があるし、俺にはいざとなれば人間相手にキレるスキルがあるし、ザックには3回に1回の爆発がある」
「それ、全然安心材料にならないからな!?」
夜のとばりが下り、ロンドールの街に静けさが訪れる。
無自覚なポンコツたちの、波乱(と勘違い)に満ちた冒険の二日目が、こうして静かに幕を閉じたのだった。
第2話をお読みいただき、ありがとうございます!
無事に街へ入り、謎の親切にありつけたミランたち。
本人たちは必死に生き延びているだけですが、周りの勝手な好意と勘違いによって、着々と「ただ者ではない雰囲気」が醸し出されていっています。
次回、第3話ではいよいよ「ひょんなことから盗賊団のアジトへ迷い込む日」がやってきます。




