第1話:村を出る理由
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才能ゼロの凡人、3回に1回しか魔法が出ないポンコツ、人間相手にしか無駄に強気な臆病剣士。
そんな「どうしようもない三人組」が、実力とは全く関係なく、運と人柄(と圧倒的な勘違い)だけでなぜかトントン拍子に英雄へ祭り上げられていくコメディファンタジーです。
本人たちは必死に生き延びているだけなのに、周囲が胜手に神格化していくシュールな世界観をお届けできればと思います。
気楽にクスッと笑っていただけたら幸いです!
それでは、第1話「村を出る理由」をどうぞ!
「あのさ、ミラン」
「なんだよ、ザック」
「俺のポケット、今見事に空っぽなんだけど。文字通り、一文無しってやつなんだけど」
「奇遇だな、俺の財布も完全にスッカラカンだ。なんなら昨日の夜から、食べたものといえば道端に生えてた怪しいキノコを山分けにしただけだな」
ここは、どこにでもある――いや、正確には「どこにも相手にされない」ような、大陸の果ての辺境の村である。
見渡す限りの荒野と、すっかり痩せ細った畑。特産品といえば「すぐ枯れる雑草」くらいのもので、村の経済は慢性的な冷え込みを通り越して氷河期に突入していた。
そんな村から、今まさに、三人の若者が追い出されようとしていた。いや、正確には「自分たちの足で出ていくしかなかった」のだが。
先頭を歩くのは、主人公であるミランだ。
彼は特徴がないのが特徴という男だった。髪は寝癖が直らない茶髪で、顔立ちは可もなく不可もなし。剣を振らせれば木刀すらまともに扱えず、魔法の詠唱をさせれば呪文の途中で噛むか盛大にむせるという、ファンタジー世界の主人公としては致命的なまでの「凡人」である。
しかし、そんな彼にはなぜか奇妙な才能があった。それは「このどうしようもないメンバーの意見を、なぜか上手くまとめてしまう」という、謎の統率力だった。
ミランの後ろを、ひょろりとした長身の男が歩いている。名前はザック。
この世界において必須とされる「魔力」をたっぷりと持っているはずの魔法使いなのだが、彼の体質は致命的だった。
――そう、彼の魔法は「三回に一回しか発動しない」のである。
一回目、不発。
二回目、不発。
三回目、なぜか周囲の度肝を抜くほどの超大魔法が暴発する。
制御が全くできない上に、いつ爆発するか本人にも分からないという文字通りの「歩く時限爆弾」だった。しかし、不思議なことに、そんなポンコツぶりを発揮しながらも、彼は誰からも憎まれない。むしろ、そのどこか抜けた人柄と、困ったようにヘラヘラと笑う笑顔のおかげで、村の住民たちからは「まあ、ザックだから仕方ないか」と可愛がられていた。憎めない天才ならぬ、憎めないポンコツである。
そして、そのさらに後ろ、まるで背中に見えない重荷でも背負っているかのように、ガタガタと全身を震わせている男がいた。名前はジャック。
職業、剣士。
彼が持つ大剣は、これまで一度も魔物に向けて振るわれたことがなかった。なぜなら、彼は極度の臆病者であり、スライムを見ただけで気絶しかけるほどのチキンハートの持ち主だったからだ。
「む、無理だ……あんな、あんなプルプルした生き物、絶対こっちを殺す気でいる……! 目が合った、今絶対に目が合ったぞミラン!」
「ジャック、落ち着け。あれはただの野生のスライムだ。こっちをスルーして通り過ぎようとしてるだろ」
「いや、油断大敵だ! あんな流動的なフォルム、いつ高圧電流を放ってきてもおかしくない!」
「スライムにそんな機能はない」
しかし、そんなジャックにも一つだけ奇妙な特異体質があった。それは「なぜか人間相手なら、別人のように堂々と剣を振るえる」という謎の性質である。さらに、彼の祖先はかつて落ちぶれた元貴族だとか何とかで、なぜか盗賊や悪徳商人と対峙した際、驚くほど流暢な交渉術や嫌味のオンパレードを披露し、相手を精神的に追い詰める才能があった。魔物には一歩も引くのに、悪人相手には無双できるという、完全にバグった仕様の剣士だったのだ。
そんな三人が、なぜ今、村を追い出されるように旅立っているのか。
理由は単純だった。村の備蓄食料が底をつき、村長から「お前ら、いい加減に外で働いて金を稼いでこい。このままだと村ごと餓死する」と、温情と追い出しをミックスした通告を受けたからだ。
「正義感に燃えて旅立ったわけじゃないんだよな、俺たち」
ザックがぽりぽりと頭をかきながら言った。彼は相変わらず、空中で意味もなく指先をパチパチと鳴らしている。もちろん、今は1回目なので何も起きない。
「当たり前だろ。俺たちはただ、村長に『今夜の夕食のスープの具になりたくなかったら、今すぐ荷物をまとめて地平線の向こうへ消えろ』と満面の笑みで言われたから歩いているだけだ」
ミランが大きなため息をつきながら、前方の景色に目を凝らした。
地平線の彼方には、うっすらと大きな街の城壁が見え始めている。あれが、彼らが人生で初めて足を踏み入れる予定の街、「ロンドール」だった。
「なあ、ミラン。もしあの街に着いて、お金がなかったらどうするんだ?」
ジャックが、まだ見ぬ魔物への恐怖に怯えながら、ガタガタと震えつつ尋ねた。
「どうするも何も、一文無しだぞ。道端で土下座して、『恵んでください』って言うしかないだろ」
「貴族の血を引く俺が土下座を……いや、人間相手なら土下座もプライドを捨てればいけるか……?」
「プライドの基準がよく分からないな、お前のそれは」
三人はとりとめもない雑談を交わしながら、一歩一歩、足を進めていく。
彼らはこの時、まだ知らなかった。
自分たちがこれから巻き込まれる数々の「理不尽なまでの大事件」が、いかに周囲を勘違いさせ、いかに自分たちの意思とは無関係に「伝説」へと祭り上げていくのかを。
「なあ、ザック。ちょっと試してみろよ。そろそろ3回目じゃないのか?」
「え? どれどれ……それっ!」
ザックが面白半分で空に向かって指を突き出した。
――パチン。
乾いた音が響き、次の瞬間、ザックの指先から閃光が走った。
ドオオオオオオッ!!
空の彼方で、なぜか晴天の霹靂の如き凄まじい雷鳴が轟き、目の前の地面に巨大なクレーターがぽっかりと口を開けた。すさまじい衝撃波で、三人の髪の毛が盛大に逆立つ。
「「「…………」」」
しばらくの沈黙の後、ザックが気まずそうに笑った。
「あー……3回目、大当たりだったみたい。なんか、鳥が数羽、気絶して落ちてきたぞ」
「お前なぁ……! 街の近くでそういう派手な魔法を暴発させるな! 衛兵が飛んできたらどうするんだ!」
「いやあ、確率だからさ。次が出るのはまた3回後だって。安心しろって」
「安心できるか!」
ミランが頭を抱え、ジャックがさらにブルブルと震え上がった。
「やばい、もうすぐ街の門だぞ。あんな派手な魔法を使ったら、門番に怪しまれるに決まっている!」
「大丈夫だって、ジャック。俺たちが怪しまれるような大物に見えるか? どう見ても、ただの道草を食ってきた腹ペコ三人組だろ」
「それもそうだな……」
こうして、自覚なしのポンコツ三人組は、何の計画性もないまま、最初の街の巨大な門をくぐり抜けていった。
彼らの前には、まだ誰も知らない、勘違いと幸運に満ち溢れた珍道中が待ち受けているのだった。
第1話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
ついに村を追い出された(?)ミランたち。
初めての街に足を踏み入れた彼らを待ち受けているのは、一体どんな理不尽なトラブル(と幸運)なのか……? 本人たちは終始真剣ですが、周囲の目がとにかく温かく(そして盛大に勘違いして)いきます。




