第12話:名誉と褒賞の授与。『平和の使者』という重すぎる肩書き
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水都アルトマリアでの円卓会議にて、ミランのやけくそな「美味しいものを食べよう発言」が見事に大感動の哲学として受け入れられ、街の完全なる平和を成し遂げてしまった三人。
すっかり「平和の使者」として祭り上げられた彼らを待ち受ける、次の展開とは――?
第12話「名誉と褒賞の授与。『平和の使者』という重すぎる肩書き」、どうぞお楽しみください!
水都アルトマリアの中心にある大聖堂。
ステンドグラスから差し込む色鮮やかな光が、白亜の大理石の床を美しく染め上げる中、盛大な式典が執り行われていた。
祭壇の前に立っているのは、アルトマリアの最高権威である大司教と、和解を果たしたブラッドレー、シルバニア両家の当主たち。そして、その中央にポツンと立たされているのが、ミラン、ザック、ジャックのポンコツ三人組である。
「――よって、長年いがみ合っていた我が街に真の絆をもたらし、流血の惨劇をその高潔な対話と奇跡の御業によって防いでくださった『伝説の勇者パーティ』に対し、アルトマリア最高名誉である『平和の使者』の称号を授与する!」
大司教が高らかに宣言すると、大聖堂を埋め尽くした市民たちから、割れんばかりの大歓声と拍手が巻き起こった。
「万歳! 平和の使者様万歳!!」
「ありがとう、私たちの街を救ってくれてありがとう!!」
金色の刺繍が施された重厚なマントが三人の肩にかけられ、ずっしりと重いプラチナ製のメダルが首に下げられる。そのメダルの豪華さと、周囲の熱狂的な視線の重さに、ミランの精神は早くも限界を迎えそうになっていた。
(((やばい、肩書きがどんどん大袈裟になっていく……! 最初は村を追い出された凡人だったはずなのに、いつの間にか『平和の使者』で『伝説の勇者』だぞ……? このままじゃ、いつか神様として祭られてお供え物にされかねない……!)))
冷や汗を拭いながら、ミランは作り笑いを張り付けるのに必死だった。
隣を見ると、ザックは授与された金ピカの特大メダルを指でカンカンと叩き、「これ、純金だったらあとで換金して美味い肉が何食分食えるかなあ」と不穏なことを呟いている。
さらにその隣では、ジャックが優雅にマントをひるがえし、「フッ、当然の叙勲だな。私のような高貴な血筋の者が関われば、この程度の平和など朝飯前よ」と、すっかり調子に乗り切った顔で民衆に手を振っていた。
(((お前ら、少しは現実のヤバさを理解してくれ……!)))
心の中で盛大にツッコミを入れつつ、ミランがぐったりしていると、式典の最後に大司教が神妙な面持ちで近づいてきた。
「平和の使者殿。あなた方の素晴らしい功績は、すでに王都の宮廷、そして国王陛下の耳にもしっかりと届いております」
「は、はあ……どうも……」
「近々、王都からさらなる重大な勅使が、あなた方の元へ派遣されるとのことです。どうか、その偉大な力を以て、我が王国の未来をさらなる光へと導いてくだされ……!」
(((王都からさらなる重大な勅使……? おいおい、次は一体何をさせられるんだ……!? 魔王討伐の命だけでも荷が重すぎるというのにこれ以上何があるってんだ……っ!)))
ミランの顔面がみるみる青ざめていくのを、周囲の人々は「ああ、なんと謙虚な……。世界の行く末を背負う重責に、すでに静かなる闘志を燃やしておられるのだ……!」と、またしても勝手に感動のフィルターを通して解釈していた。
式典の終了後、大聖堂の裏口からこっそりと抜け出した三人は、アルトマリアの街外れにある高級宿の部屋に駆け込んだ。
テーブルの上には、市民たちから押し付けられた(いや、贈呈された)山のような特産品と、目が眩むほどの金貨の入った宝箱がドンと置かれている。
「ふあーっ! 稼いだねぇ! これでもう一生、いや、三世代くらいは遊んで暮らせるぞ!」
ザックが金貨の山にダイブし、ジャラジャラと音を立ててはしゃいでいる。
「ふっ、お金など所詮は天下の回りものさ。だが、この『平和の使者』という箔がついたおかげで、今後どこに行ってもVIP待遇間違いなしだな」
ジャックは鏡の前で自分のマント姿を入念にチェックしていた。
しかし、ミランだけは窓の外の青空を遠い目で見つめながら、深いため息をついていた。
「……お前ら、浮かれてる場合じゃないぞ」
ミランの低い声に、ザックとジャックが首をかしげた。
「どうしたのミラン、そんな怖い顔して。何か美味しいものでも食べる?」
「そうじゃない。俺たちは『盗賊団を壊滅させ』『嘆きの森の暴れ魔獣を落とし穴で仕留め』『二大貴族の争いを食べ物の話で解決した』結果、王国中から『伝説の勇者』で『平和の使者』に祭り上げられている。……これ、もう引き返せないところまで来てないか?」
「今さら何を言うんだミラン。最初から引き返せる道なんてなかったろ。村長に『スープの具になりたくなければ消えろ』って言われたあの夜から、俺たちの運命の歯車は盛大にバグり続けてるんだよ」
ザックがケラケラと笑う。
「そうだぞ、ミラン。案ずるより産むが易しだ。次は何が来ようと、ザックの3回目の魔法と、私の華麗な交渉術と、お前の圧倒的な『なんとかなるさ精神』があれば、世界だって救えるさ!」
(((世界を救うって、まさにこれから魔王を倒しに行かなきゃいけないんだけどな……!)))
ミランが頭を抱えてテーブルに突っ伏した、その時――。
コン、コン、コン。
部屋の扉を上品に叩く音が響いた。
三人の動きが、ピタリと止まる。
「……誰だ?」
ザックが小声で呟く。
ミランが恐る恐る扉に近づき、ゆっくりと鍵を開けてドアを押し開けた。
そこに立っていたのは、王都の紋章が入った純白の制服を身にまとった、いかにも厳格そうな一人の若い騎士だった。彼はミランの顔を見るなり、深々と、それはもう完璧な角度で頭を下げた。
「――お待たせいたしました、伝説の勇者様。王都より、あなた方を迎えるための『特命使者』が参りました。ただいまより、王都への直通馬車にてご案内いたします。――いざ、魔王城へ向けた最終作戦の会議へと、出発の時です!」
(((ついに、来ちまったぁぁぁーーっ!!)))
ミランの心の中で、盛大に絶叫の警報が鳴り響いたのだった。
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水都アルトマリアで「平和の使者」の称号と莫大な褒賞を手に入れたミランたち。
浮かれまくるザックとジャックの一方で、ミランの胃痛は限界突破寸前ですが、ついに王都からの「特命使者」が迎えにやってきてしまいました……!
次回、第13話「王都からの使者到着。届いてしまった『勇者認定』の勅書」へ続きます!




