第11話:ミランの『話し合いましょう』が奇跡的に円卓を成立させる
第11話をお読みいただきありがとうございます!
ジャックの心理戦と、ザックの爆発的な照明魔法(3回目)により、一触即発だった水都アルトマリアの二大貴族を和解させてしまった三人。
すっかり「平和の使者」として祭り上げられた彼らを待ち受ける、次の展開とは――?
第11話「ミランの『話し合いましょう』が奇跡的に円卓を成立させる」、どうぞお楽しみください!
「素晴らしい……! 本当に素晴らしいお方たちだ!」
アルトマリアの豪奢な大広間。
黄金色の照明魔法で浄化されたばかりの美しい広場に面した特設会場で、ブラッドレー家の当主とシルバニア家の当主が、それぞれ感涙にむせびながらミランたちの前に平伏していた。
「我が家の数々の不義理を暴き、さらにあの忌々しい因縁すら一瞬の光で洗い流してくださるとは……! 我々アルトマリアの民は、永遠にあなた方『伝説の勇者パーティ』に忠誠を誓います!」
「そうだ! 今こそ、長年対立してきた我々両家が手を取り合い、この街を挙げてあなた方をおもてなしいたしましょう!」
(((いや、勝手に話を進めないでくれ……! 俺たちはただ早く宿に帰って寝たいだけなんだよ……!)))
ミランは冷や汗を拭いながら、引きつった笑顔で「あはは、まあ、話し合いが一番大切ですからね」と適当に相槌を打った。
しかし、その何気ない「話し合い」という言葉が、またしても周囲の勝手な勘違いフィルターによって神聖化されてしまう。
「な……っ!? 『話し合いが一番大切』だと……!?」
ブラッドレー家の当主が、ガタガタと震えながら感動のあまり胸を押さえた。
「武力ではなく対話を重んじ、争いの根源をその高潔な精神で包み込む……これぞ、真の平和の使者の生き様……!」
「わかりました! いますぐ我が家に伝わる最高級の円卓を用意させます! ぜひ、我がアルトマリアの未来をかけた『完全なる和解の円卓会議』を、あなた方の立ち会いのもとで開催させてください……っ!」
「「「えっ、あ、いや、待て――」」」
三人が制止する間もなく、両家の側近たちが「円卓の準備を急げぇーーっ!!」と大慌てで走り出していった。
もはや誰にも彼らの勢いを止めることはできない。
数十分後。
大広間の真ん中に、磨き上げられた純白の大理石の円卓がドカンと据えられた。
その周囲には、ブラッドレー家とシルバニア家の主要な重役たちがずらりと緊張の面持ちで着席し、誰もがピリピリとした、しかしどこか崇敬に満ちた眼差しで中央の三人を見つめている。
上座の席にポツンと座らされたミランは、あまりの居心地の悪さに今すぐその場からトンズラしたい衝動に駆られていた。
(((なんで俺たちがこんな重大な政治のトップ会談の仲介役をやらされてんだよ……! 俺、昨日まで村の畑で雑草抜いてた普通の村人だぞ……!?)))
隣を見ると、ザックは円卓の端っこでお菓子(高級なマカロン)の缶を開け、「これ、外がサクサクしててめちゃくちゃ美味いぞ。ジャックも食べる?」と呑気にやっている。ジャックは「フッ、庶民の菓子とは違うが、たまには悪くないな」とすまし顔でそれをパクついていた。この緊張感のなさはもはや才能である。
「さ、それでは……! 伝説の平和の使者様、開会の御言葉を……!」
ブラッドレー家の当主がごくりと唾を飲み込み、ミランに視線を向けた。
広場にいる全員の視線が、一斉にミランに突き刺さる。
(((うわぁぁぁ、どうしよう……! 何かそれっぽいカッコいいこと言わないと、詐欺師だってバレて吊るされるかもしれない……っ!!)))
冷や汗が滝のように流れ落ちる中、ミランはもうやけくそになり、勢いよく立ち上がった。そして、目の前の美味しそうなマカロンを指さしながら、力強く叫んだ。
「――いいか! 世の中、いがみ合ってても腹は膨らまない! 重要なのは、こうして同じテーブルに座って、美味しいものを一緒にモリモリ食べて、とりあえず明日から仲良くやることだ!! 以上!!」
(((言ってしまったぁぁぁーーっ!! 超絶適当な居酒屋のノリの発言をしちまったぁぁぁーーっ!!)))
ミランが頭を抱えてガクッと座り込んだ。
流石にこれには「ふざけるな!」と怒号が飛ぶか、あるいは冷ややかな沈黙が訪れる――誰もがそう思った。
しかし。
広場にいた全員の顔が、なぜか一斉に「ハッ!」と輝いた。
「な……っ!!」
「なんと深いお言葉……!」
ブラッドレー家の当主とシルバニア家の当主が、それぞれ目頭を押さえて号泣し始めた。
「『いがみ合ってても腹は膨らまない』……そうだ、我々は権力争いに目が眩み、本当に大切なもの――民の笑顔や、共に食事を楽しむ平穏な日常を忘れていたのだ……!」
「『同じテーブルに座って、美味しいものを一緒に食べる』……これこそが、我がアルトマリアの失われた真の絆……! 素晴らしい、なんと哲学的な教えなのだ……っ!」
両家の重役たちが、次々と感動の涙を流し、互いにガッチリと握手を交わした。
「ブラッドレー君、すまなかった! これからは君と美味しいお菓子を分け合いたい!」
「シルバニア君、こちらこそ! 明日から共同市場を作ろう!」
――またしても、ミランの適当なやけくそ発言(ただの食い意地発言)が、最高級の「平和の哲学」として完璧に翻訳され、街の完全なる和解が成立してしまったのである。
「「「…………」」」
三人は、ただポカンと口を開けたまま、その感動的な大団円の様子を眺めていた。
「なあ、ミラン」
ザックがもう一つマカロンを口に放り込みながら言った。
「お前、政治家とか宗教の教祖とかの才能あるよ絶対」
「ないわ!! 奇跡と勘違いのコンボで奇跡的に生き延びてるだけだわ!!」
こうして、アルトマリアでのいざこざは、ミランの「適当な食べ物の話」によって完全に解決。彼らはまたしても「平和の使者」としての神格化を深め、街中から惜しみない賛辞とさらなる莫大な謝礼(お土産の山)を受け取ることになったのだった。
第11話をお読みいただき、ありがとうございます!
水都アルトマリアの二大貴族の円卓会議で、ミランのやけくそな「美味しいものを食べよう発言」が見事に大感動の哲学として受け入れられ、街は完璧な平和を取り戻してしまいました。
本人たちは終始冷や汗タラタラですが、周囲の勝手な神格化は止まることを知りません!
次回、第12話「名誉と褒賞の授与。『平和の使者』という重すぎる肩書き」へ続きます!




