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ジュリエッタ.ロン.シェタット.アン.ロリータ ! それがわたくしの名前です! ロメヲ&ジュリエッタ 境界線を越えた恋  作者: 桂虫夜穴


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4、ラピスブルーの湖と瞳

「ここで、鞍を外そう!

ブラッド、お手柔らかにな!」


ロメヲ王子は、境界線間際で黒馬を停め

鞍を外し、木陰に隠した。

その身なりは…

王子とは、程遠い見窄(みすぼ)らしいものになっていた。

それは、古びた乗馬鍛錬用の衣に

さらに、ナイフで傷を付け、泥をまぶし

土に叩きつけ、馬に踏ませると言った念のいれようで

最下層民の真似事をしたのだ。


なるべく目立たぬように…

そんな思いが、込められていた。


この姿で、森に入れば迷彩の如く

草木と同化し、森の民の目も誤魔化せるのでは…

そんな企みであった。


しかし、王子は知らなかった。

夜が更ければ

森の魔物や餓鬼共が徘徊し始める事を…




王子は恐る恐る馬の歩を進め木々の間に分け入った。

しかし、その身には、何も起こらなかった。

やはり、既に、結界の効果は失われていたのだ。


「よくこんな事で

今まで、境界線が守られてきたものだ。

不思議なくらいだ!

人とは、まっこと、噂や習わし、規則や命令に

従順に従うものなんだな!

恐れや、恐怖もあったかもしれないが…」



馬の音をなるべく潜めながらしばらく歩を進めた。

辺りはすっかり濃い深緑に囲まれて

日差しもチラチラと木漏れ日が(きらめ)く程度だ。


「ハッ!馬の音…ブラッド!停まれ!

ううん…一頭では、ないな…小隊か…

木陰で、様子を伺おう…」


王子は馬を降りると、くぬぎの大木の陰に潜んだ。

その先に

木々の間からキラキラと眩しく煌めく光が見えた。


湖が、広がっていた。


そこだけ、何も、邪魔をするものもなく。

強い日差しを反射し

ラピスラズリーを散りばめたように煌めいていた。





カッ、カッ、カッ、カッ…


「ここらで、休憩しよう!

馬も、水が欲しかろう!」


「ダンロッド!

丁度、良かったわ!

馬の揺れで、髪が、解けてしまったところだったの…

馬を降りて、結い直すわ。」


「日暮まで時間が、ございません!手短に…」


「わかりました。

それに、しても、本当に美しいわね。

このラピス湖は…その名の通り

ラピスブルーの水を湛たた)えて…

そうだ、湖面を鏡の代わりにしましょう!」


姫は、水面の間際に立ち

崩れ掛けた髪の銀のカンザシを一度外した。

すると、銀の長髪が、フワリと宙に舞った。

湖面からの、そよ風が優しく吹き上げたのだ。


「あっ!カンザシがっ!」


風がやみ、髪の毛が降りると

その勢いで一緒にカンザシを

湖底に落としてしまったのだ。

姫は慌てて水面に手を突っ込んだが

意外にも、底の傾斜は急で

カンザシはあれよと言うまに

底に群生した水草の中へ消えて行った。


「ダンロッド!どうしましょう!

大切なカンザシがっ!」


「姫さま、落ち着いて…御心配なさらずに!

すぐに、この者達に探させますので!

姫さまは、こちらへ

その先はヌカるんで危険ですから…

キース!ロープを用意しろ!

ネイラ!お前は衣を脱げ!」


「ええ、ワシがっ?」


「大丈夫だ!

縄を腰に巻いて潜れば何の問題もない!」


「いや!ダンロッド様!

この湖には、水の魔物が…」


「心配するな!

この、真昼間から、姿を現す事はない!」


「そ、そうですかぁ…わかりました…」


ネイラは渋々、衣を脱ぎ始めた。

…と、その時だ。


彼らの脇をすり抜け何者かが、湖に飛び込んだ。


バシャアッ!


突然の事に皆、驚いて叫び声を上げのけぞった。


「ワッ!」

「何だっ!」

「きゃあっ!」


その後、水しぶきがピチャピチャボトボトと

降り注いできた。

水面には丸く波紋が広がり、その中心の底から

あぶくがブクブクと登ってきた。

水底では、水草が揺れているばかりだ。


皆、その様子をじっと凝視していた。

すると、いきなり水草の間から人の手が現れた。

その手には

しっかり、銀のカンザシが握られている。


「おおっ!カンザシがっ!」


「ダンロッド!そのようです!嬉しい!」


そのカンザシをかざしたまま

水面に、その者は浮かんできた。

そして、岸に上がると倒れ込み下を向いたまま

大きく息をしながら手の平を広げた。


「ハア…ハア…ハア…ハア…ハア…ハア……」


「あっ、ありがとうございます…

とっても、大切なものだったの…

本当に…ありがとうございます…

感謝します!

お礼がしたいわ!」


その者が、ゆっくり起きながら言った。


「いや、結構ですよ!丁度…

水浴びをしようと思っていたところですから…」


「いえ!それでは、わたくしの気がすみません!

是非、お礼をさせて下さい。

ダンロッド!この方に金貨を差し上げて…

心尽くしです。」


その者は片膝を突き胸に手を当てて

忠誠を尽くすポーズをとった。

しかし、その言葉は、真逆だった。


「いえ!結構です!そのようなモノは頂けません!

見知らぬ方から、そのようなモノを頂く訳には

参りません!」


「見知らぬですって!

あなたは、私の事を知らぬと申すのですか!

私の名を知らぬと…

あなたは、何とした田舎ものか?

はたまた、単なる無知なのか?

私の名は…」


「いえ!

それも、結構です!

私は、ただの通りすがりのものですから…

では、失礼致します。」



もう、充分だ…

このお方が、森の民の姫さま…に、違いない。


風に揺れる銀髪のフワゆるウェーブ。

この湖のような瑠璃色の瞳。長きまつ毛。

そして、透き通るような白き肌。

杏のような唇。小桃のような頬。


今日は乗馬の為、少年の様な装いだが

ドレスを纏った姿は、どれほどのものなのだろう?


ああ…バカな事をしでかしたものだ。

爺の言う事を聞かぬばかりに…


私は一眼で魅了されてしまった。

この、姫様に…


せめて、名前は聞かずに立ち去ろう…

それが、得策だ。


そう思い、立ち上がった瞬間だった。


「わたくしの名は…

ジュリエッタ.ロン.シェタット.アン.ロリータ

…です!」


あっ!名乗って…しまったか…しかし…

良い名だ!良い名だ!


「良い名だ!」


あっ!いかん!口に出してしまった!

もう、ヤケクソだっ!


「良い名です!

では、失礼致します!」


いかん、いかん!

退散!退散!逃げろ!逃げろ!


「えっ!せめて!

せめてお名前を!」


ああ…もうこれでお別れだ。

最後に名乗るくらい…


「ロメヲ!

ロメヲと申す、卑き者なり!」


急いで、帰らねば!

気が済んだ!

いや、もう、後悔し始めている。


何故、こんな、愚かな事を…


愛してしまっていた。

たった、一目で魅了された。

一目惚れしてしまった。


言葉を交わし、恋してしまった。

今は、背を向けながら恋焦がれている。


「ああ…ジュリエッタ!

私は、あなたを愛してしまいました。

二日後には、祝言だと言うのに

何と、何と、愚かな…バカ者なのか…

ああ…ジュリエッタ.ロン.シェタット.アン.ロリータ

心より愛しております…おお…」



続く

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