17、和平締結
「皆の者、ここに居れ!
私の命により、私の合図により。
その時、その瞬間!
全ての武器を捨てる事を命ずる。
さも、なくば、この檻に囲われた者共が
おぬしらの、首を掻っ切る事となろう。
そして、森国、街国。
全てを覆い尽くす程の魔物達が
おぬし達の家族、親類、愛する全てのものの
命を奪うだろう。」
両軍兵士達は立ちすくんでいた。
横にずらりと並び、魔王の棲家を取り囲んでいた。
威圧感を与えるつもりが、逆に、圧倒されていた。
これが、魔王?
この女性が…?
美しさを讃えた女神の様な、この女性が…
皆、信じられなかった。
しかし、いくつもある…
異様な大きさの扉が開くと皆、納得した。
その、扉の内側に鉄の檻が取り付けられていたが
その中に、様々な怪物がいた。
皆、唸り声をあげて、兵士達を睨みつけた。
ドラゴンに大蛇、大猿に大鷲。
皆、巨大さを競い合っていた。
その檻が解放されれば、皆、一瞬で蹴散らされ
肉の破片と、なりかねないのだ。
皆、僅かに後ずさりしていた。
皆、気持ちは同じだった。
未だ見た事のない。異形の怪物に…
驚きと、恐怖を抱いていた。
「さあ、お二人、こちらへ…」
その、呼びかけと共に
ドラゴンの間の隣の小さめのドアが開いた。
そして、次に両極の一番端の
大蛇の間の隣りのドアが開いた。
一斉に歓声と驚きの声が上がった。
「王子!」
「姫!姫さまぁ!」
「ワーッ!ワーッ!」
二人は両端から中心の魔王さまを目指して歩いた。
その間も、歓声は鳴り止まない。
二人が魔王の横に並んだ。
「静まれ!」
魔王さまの一言で、ピタリと歓声が止んだ。
空気さへも、鎮まり返り、ピンと張り詰めた。
「今から、王子と姫がお手を共にする。
その時、その瞬間が、和平締結の瞬間とする。
それより先、今後、一才、武器を手にする事を禁ず
もし、その事が、厳守できぬ場合は
如何なる理由にせよ…
このもの達を向かわせる事と、なるだろう。
このもの達は、それを使命とし
そなた達の住処に壊滅的打撃を与え
全ての命を殲滅せんとするだろう。
その事を両国の国王、それぞれに
確と伝えるように、よいな!」
誰が、この、怪物達を前にして
その上に君臨する魔物の名を借りた美女神を前にして
拒否などできるだろう。
皆、その時を待った。
すぐにでも、そうしたかった。
魔王が、手を差し出した。
その上に王子、姫の順で、手の平が重ねられた。
その瞬間、凄い金属音が辺りを覆った。
あちこちで鳴り響いた。
ガチャッ!ガチッ!バキッ!バチッ!
皆、力任せに剣を…弓を…槍を放り投げた。
兵隊長ギルは慌てた。
彼も、ビビって立ちすくんでいた。
呆然としている間に、事が、進んでしまったのだ。
慌てて取り敢えず
「武器を捨てろ!」
…と、合図しようとしたが
もう、誰も、それを手にしている者はいなかった。
ギルは、バツが悪そうに手の平を開いた。
剣がカチャ…と、足元に落ちた。
彼は誇りも一緒に落としてしまった気がした。
歓声が、上がっている。
本当は誰も、戦さなどしたくなかった。
見も知らぬ人の命を殺めるのだ。
皆、お互い、敵同士、愛する人を残し
愛しい人の命の為に戦って、いるはずなのに…
その代償が、殺戮とは…
矛盾とジレンマの中で戦さに向かっていた。
もう、そんな愚かな事をしなくて良いのだ。
泣きながら、森国と、街国の兵士が
手を握り、抱き合い泣いた。
もう、終わったのだ。
その安堵感に包まれていた。
ガックリと、うなだれたギル兵隊長の肩を
ダンロッドが力強く抱いた。
「おお、ダンロッド様!
わ、私はこれから、何を生き甲斐にしてゆけば…
良いのでしょう…」
「ギル!ギル兵隊長!
お主の役目は、何も変わらぬ!
しかし、これからは、森ではなく!
海の方角を見据えねばな!
いつ、海の彼方から強大な敵が現れるか知れん!
如何なる時も、準備だけは、怠るな!」
「しかし、武器を持たぬ身で
どの様に対処せよと…」
「交渉術…それを、身につけんとな!」
「そんな、私は、口下手で…」
「だ、か、ら…学びなされ!
頑張れ!ハハハハッ!」
「そ、そんなぁ…」
盛大なパレードが行わていた。
港の表通りの馬車道が封鎖され
かつての森の民、街の民と
分けて呼ばれていた人々が混ざり合い一つになり
歓声を上げ手を振った。
ロメヲ王子とジュリエッタ姫の婚姻式も終わり
オープン馬車に乗り二人は肩を並べ
人々、観衆、民衆達に手を振った。
そこに、マリアの姿があった。
パン屋の店主の横で手が、ちぎれんばかりに
手を振っている。
ジュリエッタが直ぐに気付き
馬車を停めさせた。
「ロメヲ様、お願いします!」
「了解!」
そう言うと、王子は、馬車の周りのお付きの者が
止めるのも聞かずマリアの横に近づいた。
「店主!少しばかり、マリア殿をお連れしますよ!
後ほど、ちゃんと、送り届けます故!」
「へい!もったいなきお言葉!
何なりと!
マリア行っといで!」
「ありがとう!お父ちゃん!
行ってきまーす!」
王子は手を振るマリアを抱きかかえると
ヒョイと馬車に乗せた。
そこで、姫が両手を広げて待っていた。
「はい、マリアちゃん!
いらっしゃい!」
そう言いながら、膝の上に抱きかかえた。
「また、会えたね!」
「はい!姫お姉ちゃん!
もう、会えました。
うれしいです〜っ!」
「私も、嬉しいですよ!
ああ、それから…パレードが終わったら
お城のお食事会に参加していただきます。」
「ええーーつ!姫お姉ちゃん!
無理無理!そんなの無理ですーっ!
それに、こんな服で、恥ずかしいですーっ
エ〜ン!」
「大丈夫ですよ!
ちゃんと、可愛いドレスも、用意します!
お化粧もしてあげますからね!
マリアちゃんは元々、カワイイのですから
もっと、素敵になりますよ!
それに、お母様も、お待ちですよ!
久しぶりにお会いするのでしょう!
ゆっくり、甘えて下さい!」
「姫お姉ちゃん…
知ってたのですか?
お母ちゃんの事…」
「はい!
…とある所でお会いしましてね!
その方に、何となくマリアちゃんが、似ていたので
そのお話をしたのです。
そうしたら、ああ、彼女は私の娘ですよ!
…と、おっしゃるじゃないですか!
私、ビックリして、しまいました。」
あの日の事だ…
「う…ん」
「姫さま…どうなされました?
私の顔に何か付いてますか?」
「いえ、お美しいなと言うのは、もちろんですけど
知り合いの女の子に、よく似ているなと…
あ、いえ、その女の子が
マリエンヌ様に似ていると言う事なんですけど…」
魔王は、本当の名は、マリエンヌと名乗っていた。
「名前もマリエンヌとマリア…
似通っているなと…何か、血縁関係がお有りかと…
勝手な推測をしてしまいました。
お許しください。」
「いえ!
ピシャリですよ!
鋭い!さすがジュリエッタ姫さま!」
「いやいや!そう言い方は、やめてください!
恥ずかしくなってしまいます!
何となく、言ってるだけですよ!」
「そうですか!それにしては、と言う感じです。
彼女は私の娘なんです!」
「………………………………………………」
「ジュリエッタ!君の番だよ!
会話のキャッチボール!」
「できるかーっ!そんなモン!
だって、マリアちゃんは
「お母ちゃんは、お星さまになっちゃった…」
…って、そう言ったんです。
だから、私、てっきり…すいません…
お亡くなりになっているものと…ばかり…」
「ホホホホッ!
そうだったのですね!
あの子、サービス精神旺盛ですから
おとぎ話的な話しにして
盛り上げて差し上げたのかもしれませんね。」
「差し上げた!…じゃ、ございませんよっ!
盛りすぎだしっ!サービス過剰ですよ!
誤った情報を子供の内から流すクセがついたら
大変な事に、なりますよ!
今から、教育方針を改めた方がよろしいかとっ!」
「まあ、まあ、ジュリエッタ!
こうして、なごやかな雰囲気で
お茶を頂いているのだから、気を鎮めて…」
「いえ、私は、ただ、マリアちゃんの将来を思って…
マリアちゃんの事が大好きだから
敢えて苦言を呈しているのです。
「ありがとうございます。
姫さま!心して、深く胸に留めて
今後の子育てに役立てたいと思います。」
「あっ!いえ!
それは!申し訳ありません!
わたくしとした事が
子供も産んだ事も、育てた事もない身で
偉そうな事を言ってしまいました。
お許しください!」
「いえ、その渦中にいる者は、その事で
一杯一杯で、周りの事が
見えなくなる時があるのです。
そんな時に、温かい目で見てくれて
助言を与えて頂ける事はありがたいなの事です。
感謝します。姫さま…」
「いえ…わたしくは、もう…」
姫は恥ずかしさと、バツの悪さで
顔を真っ赤に染めていた。
「姫さま!
本当に、ありがとうございます。
上部だけの優しさなら
ただ、褒め言葉を並べれるば良いだけ
そうやって、感情的に、おなりになるのは
心底、マリアの事を思っての事
有難き事この上ないです。」
マリエンヌは、涙を流しながら
ジュリエッタの手を両手で握り締めた。
ジュリエッタも泣いていた。
「いえ…優しくしてくれたのは
マリアちゃんの方です。
私を助けてけれました。
守ってくれたのです。
救われたのは、私の方なのです。」
続く




