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ジュリエッタ.ロン.シェタット.アン.ロリータ ! それがわたくしの名前です! ロメヲ&ジュリエッタ 境界線を越えた恋  作者: 桂虫夜穴


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12、目覚めた魔導の血


「ブラッド!

ここからは魔物共と、対峙せねばならん!

心して向かうぞ!」


そう言いながら森との境界線付近で

黒馬を一旦停めた。


港には、漁船が戻っていた。

漁をした魚の荷揚げにせり

もう、街は目覚めていた。


まだ、カーニバルの余韻に酔いしれる者を尻目に

もう、働き始めている者達もいる。

夜更かしをしているのは、遊び人ばかりだ。

こうして、早起きをして地道に働いている人達が

この街の繁栄を支えているのだ。


私は、その者達に感謝をしなければならないのに

全てを、今、ぶち壊そうとしている。

私情で、全ての人の働き、思いを

踏みにじろうと、しているのだ。

申し訳なさで、心が折れそうになる。


しかし、行かねばならぬのだ!

姫の元へ…

その思いだけに、囚われ、支配されていた。



黒馬の首を撫でながら

港の灯りを背に、森の入り口で心構えをした。


その言葉は自身に向けた言葉だった。

未だ知れぬ異形の物達が待ち構えているのだ。

牙を剥き出しにして…


恐怖を克服する事など、不可能だ。

ただ、姫の事だけを思い突き抜けるのだ。

それしか、道はないのだ!


そう自身を鼓舞した。

奮い立たせた。


石畳から木々の間に分け入った。

まだ、ここには、魔物達の姿は無い。


彼らは街の煌々とした灯りを嫌うのだ。

森深く分け入れば、次期、餓鬼共も姿を現す。


王子は剣を手にしていた。

それは、細縄でしっかり、手の平に固定されていた。

決して、離さない。

その腹づもりだった。



しばらく走ると、漆黒の闇に包まれた。

頭上に枝木が生い茂り

星明かりの一粒も見えなくなっていた。

上も下も右も左も、既にわからなくなっていた。


王子は空中をさまよい飛んでいるような

そんな感覚に陥っていた。

(ひづめ)の音だけが大地を蹴っていると知らせていた。


ザッ!ザッ!と木の枝葉が頬や肩を叩いた。

しかし、正面から大木に激突する事はなかった。

器用に、右、左と避けながら疾走した。

この黒馬だけの、その自然の力さへも超越した能力が

それを可能にしていた。


だんだんと王子の瞳も暗闇に慣れてきた。

すると、驚くべき光景が眼前、頭上、両脇、後方

黒馬の足元と、見えてきた。


全ての視界に魔物達が溢れていた。


生い茂る草をかき分け追いかけてくる物。

木陰に隠れて見送る物。

翼を広げバサバサと挑発してくる物。


しかし、皆、寸でのところで離れて行く。

ある一定の距離を保っている。


これは、黒馬のスピードについて行けないのか…

王子の持つ剣を恐れているのか…


実は、そうでは、なかった。


魔物達には、見えていたのだ。

人には見えぬ光。

魔の光源が…


王子が放つ白き炎の如き光を…


それは、黒馬ごと、包み込み

流星の尾を引き暗闇を走り抜けていた。


目覚めていたのだ。


魔導の血が…


王子の体内に…


地獄の夢が…究極の恐怖が…姫を失くす悲しみが

その血を(たぎ)らせたのだ。

遺伝子の奥深くに眠っていた。

原始の地を呼び起こしたのだ。


その、王子の糸切り歯は、野獣の牙となっていた。


そして、黄金色となった瞳は暗闇に爛々と輝き

魔物達を酷く怯えさせた。



今や、王子は、魔物達を引き連れた

魔兵軍団の軍隊長のような趣きであった。


黒馬を先頭に魔物達は扇形を成し

ドタドタ、バサバサ、ザッザッと

けたたましい音を立て王子の後に続いた。


森の民の城では大騒ぎになっていた。

城の見張り塔からは

月明かりで木々の枝が揺れながら

城に向かって来るように見えたのだ。


実際は、鳥神や猿神が王子を追いながら

枝を叩き、蹴散らし、揺らしていたのだ。




姫は、幽閉された部屋の窓に

顔を擦り付けるようにして外の暗闇を見ていた。

窓枠は、おびただしい数の釘で

打ち止められていたので

開け放つ事は、できなかった。


午後から、胸騒ぎがしていたのだ。

王子が来る。

王子が迎えにくる。


その思いに支配され与えられた食事もとらず

こうして、窓にへばりついて

王子が、来るのをずっと待っていたのだ。



「来た!」


まだ、物音は聞こえてなど、いないはずだった。

まだ、それ程の距離があった。

しかし、姫にはわかったのだ。


熱き血潮が、(たぎ)ったのだ。

純血の契りが魂を揺さぶったのだ。


「ロメヲ様……嬉しゅう…ございます…

おおおっ……」


姫は、感極まり、泣き崩れた。



音がして来た。

地響きを立てて城に向かって来ている。


この頃には、魔物達が押し寄せて来ているのが

城側にも把握できていた。

兵隊長ギルは全隊に徴収をかけた。

全ての武器を持ち、門前に集合。

直ちに、戦闘態勢に入るよう指示した。


ダンロッドもギルと共に前線にいた。


「ギル隊長…何故に、このような事が?

今だ、このような事は、起きた事がないではないか!

しかも、狼神に猿人は、正に犬猿の仲。

共に行動するなどあり得なかった事。」


「ダンロッド殿…何か、途方もない事が

起きていると言う事で、あろう。

覚悟は、せねばなりますまいよ!」


「ギル!…………そうか…」




一斉に照明灯が照らされた。

魔物軍団が、空と陸、厚い層を成して

迫って来ていた。


だから、なのだ。

森の民は…

夜は寝ぐらで息を潜めて暮らすしかなかったのだ。


たとへ、狩をしたとて、無限とも言える彼らを

根絶やしにする事は、できないのだ。

不可能な事なのだ。


最後の時が、迫っていた。

あの数だ。

魔物達が一斉にかかってくれば

いくら、剣や、槍、弓で倒しても

その次がドンドン押し寄せてくるのだ。

勝ち目など無かった。


ただ、兵は武器を持ち

その瞬間を待つしかなかった。



「ダンロッド殿!あれは⁈

先頭の、あの黒き馬は!

乗り手は、人では⁈」


「あっ!

アレはっ!

ロメヲッ!

ロメヲ王子だっ!

何故に、ロメヲ王子がっ!

やはり、魔導かっ!

その血で、境界線を突破し魔物達を引き連れて

この城を堕としに来たか!」


その言葉を聞き、ギル兵隊長が叫んだ!


「何ーっ!

ロメヲ王子だとっ!

またも街国の夜襲かっ!

卑怯なーっ!

かまわん!

弓を引けっ、一斉に打てっ!

矢を放てっ!

狙うは憎っくき宿敵

街国の王子!

ロメヲッ!」


ビッ!ビッ!ビッ!

シュン!シュン!シュン!


次から次に矢が放たれた。

それらは、一直線に王子目掛けて飛んでいった。


その矢を王子は全て剣で切り落としたが

それさえ、途中から必要無くなった。


黒馬ごと、白い業火に包まれていた。

命中したと思われた矢は全て炎に焼かれ燃え落ちた。


その頃には人の目にも見えていた。

果たしなく横に広がった魔物達の群れの中心に

業火を纏った黒馬が一直線にこちらを目指している。


兵士達は、たじろいだ。

魔物よりも、炎をマントのように(まと)

平然と向かってくる王子に怯えた。


兵の規律が乱れ、崩壊した瞬間だった。

逃げ出す兵士が、続出した。

魔物より遥かに恐ろしい敵が迫っているのだ。


「待てっ!

隊を乱すな!

逃げるな!戻れ!」


ギル隊長の虚しい叫びだった。

無骨な男達だけが、残った。



もう、魔物達は目のに迫っていた。

鼓膜が、破れそうな程の轟音と

草木、枝、葉っぱの破片が

煙のように舞い上がっている。


もう、兵士達は戦う気力など、とうに失せていた。

諦めと絶望の中で、その時を待っていた。

王子が見たと同じ、地獄夢が、目の前に迫っていた。



そして、扇の先端、王子の乗った黒馬が

ダンロッドとギルの眼前まで迫ったその瞬間だった。


「ブラッドッ!

止まれっ!」


黒馬は四肢を突っ張り急停止した。

普通の馬であれば

骨折してもしょうがない止まり方だった。

しかし、この黒馬は踏ん張った。


その反動…有り余った勢いで

王子は城の壁に叩き付けられた。

ツルが、外壁を覆ってなければ

肉の破片となっていただろう。


「ううう…ここが…これが…

森国の城…か…」


王子はツルにつかまり城壁を登りだした。

炎はもう無かった。

城ごと姫を焼く事などできなかった。


呆然としていたギル隊長が我に返った。


「炎が消えている!今だ!

弓だ!弓を放てっ!」


残っていた兵が慌てて矢を構えたが

皆、躊躇していた。


「何をしておる!

かまわん!打て!矢を放てっ!」


その声に驚き、一人が矢を放つと

皆、一斉に矢を放った。


王子は、蜘蛛のような速さで壁をよじ登ったが

姫の幽閉された部屋の窓下で、弓に捕えられた。


「ぐわっ!」


矢が腰に一本当たると、動きが止まった。

そこに、後の矢が追いかけるように

王子の背中に容赦なく突き刺さった。

尚も矢は飛んで来た。

壁にツル草に、そして王子の全身に…


王子の体は、まるで、ハリネズミか剣山のように

むごたらしく、矢が尽き刺さり

血飛沫を土砂降りのように

辺りに、撒き散らしていた。


「やめっ!

もう、よいっ!」


ギル隊長では、なかった。

ダンロッドが兵士達の弓打ちを制止した。


「何と(むご)たらしい。

今日は、王子の誕生した日

そして、婚礼の日であったのに…」


「しかし、そうせねば…

我々が…」


「わかっておる!

(いく)さを…この無益な戦いを、憂いておるのだ。

嘆いて…おるのだ…うううっ…」


皆、言葉を失くして、立ちすくんでいた。


その静けさを引き裂くように叫び声がした。


「ロメヲーーッ!ロメヲーーッ!ロメヲーーッ!

ロメヲーーッ!ロメヲーーッ!…………」


ジュリエッタだった。

ジュリエッタが窓の内側から叫んでいた。

耳を塞ぎたくなる悲痛な叫びだった。

窓を…壁を越え…胸に、突き刺さった。


「ロメヲーーッ!ロメヲーーッ!……」


無骨な男達も、これにはさすがに耐えられなかった。

皆、姫を慕う者達ばかりだ。

姫の悲しみを我が事のような感じ

地面にひれ伏した。


「姫ーーっ!申し訳ありませんでしたーーっ!」


「姫ー!死んでお詫び致します!」


そう叫びながら首を掻っ切った者もいた。


「バカ者!何の為に戦ったのだ!

その者を運べ!

止血しろ!生かせっ!」


「ははっ!」


「もういい!小隊に後始末をさせろ!

後は、皆、引け!退却だ!」


返事は無かった。

皆、ゾロゾロと門から城内に戻った。


尚も、姫は叫んでいた。

皆、思った。

ずっと、叫び続けるのだ。


王子が生きかえるか…

自身が死ぬまで…

叫び続けるつもりなのだ…と…



続く

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