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《冒険者ギルドのお仕事ファンタジー》鉄の受付嬢リリアンのプロの流儀 ~冒険は、窓口から始まります~  作者: ざつ
第三部:五月・満開の季節、そして新しい風

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第28話:春の嵐、ギルド封鎖!

◇◆◇◆◇


【視点:リリアン・ヴェール】


 窓の外が、一瞬で白一色に塗り潰された。

 5月の空は、先ほどまでの穏やかさが嘘のように荒れ狂い、氷の粒を含んだ「春の嵐」が街を飲み込んでいく。


 ギルドホールの気温が急激に下がり、逃げ込んできた冒険者たちの吐く息が白く濁る。


「おい、いつまでこの吹雪が続くんだ! 腹は減るし、暖炉の薪も足りねえぞ!」

「ギルドならなんとかしろよ! 金なら払う!」


 避難してきた冒険者は500人を超えた。

 極限状態は容易に人間から理性を奪う。怒号と苛立ちがホールを満たし、殺気立った空気が爆発寸前の火山のように膨れ上がっていた。


 私は、左耳のアクアマリンのピアスを強く撫でた。


(事象:気象災害による広域封鎖。深刻度:レベルS。解決策:臨時運営規約、および特別防衛マニュアルの即時発動)


 私はカウンターの奥から、二重施錠されたバインダーを取り出した。そして、二階のマスター室から降りてきた、線の細い知的な風貌の男性——ギルドマスター、クリフォード・マルソーを仰ぎ見る。


「マスター。……遊びの時間は終わりです。結界の出力を最大に。これより、本ギルドを一夜限りの『要塞』として定義します」


「リ、リリアン君……。要塞って、そんな穏やかじゃない言葉を……。もう少し平和的な解決策は……」


 クリフォード様が情けない声を漏らし、無意識に眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。その指先がわずかに震えているのは、これから発動する「軍師特製マニュアル」の苛烈さを予感しているからだろう。


「1分以内に魔術展開を開始しない場合、来期の備品予算からマスター専用の『高級茶葉』をすべて削ります。よろしいですね?」


「……っ。わかった、やるよ。やるからそんな目で睨まないでくれ、胃が痛むんだ」


 彼は観念したように杖を構えた。私は拡声魔法を起動し、ホールの喧騒を切り裂くような冷徹な声を放った。


「総員、静粛に! これより本ギルドは閉鎖し、臨時避難所としての運営を開始します。……ルールに従えない者は、この吹雪の中へ即刻『排出』します。私のペンが、あなたたちの生死を分ける境界線であると理解しなさい」


◇◆◇◆◇


【視点:クリフォード・マルソー】


 私は杖を掲げ、ギルド全体を覆う銀色の結界魔法を展開した。

 外を叩く氷のつぶてが、硬質な魔力の壁に弾かれて火花を散らす。


 線の細い私の体にとって、500人を守る結界の維持は決して楽な仕事ではない。だが、階下で繰り広げられる「リリアンの采配」を見ていると、弱音を吐く権利などどこにもないことを痛感させられる。


 彼女が受付でペンを走らせるたび、スタッフたちに「指示書」という名の命令系統が飛んでいく。


「ボロス料理長。食堂の備蓄を12分割し、配給食へ切り替え。30分以内に最初の100人分を」

「エリス、ベルナール。避難者のスキル別リスト作成。3分後に第一稿を」


 リリアンの冷徹な指示ひとつで、バラバラだった職員たちが一つの巨大な生命体のように動き出す。


(……恐ろしい娘だよ、本当に。彼女がいなければ、このギルドは今ごろパニックで壊滅し、何より予算がパンクして私は今度こそクラウディアに殺されているだろうね)


 不意に背後に、涼やかな、しかし絶対的な威圧感を持つ気配を感じた。

 受付主任にして私の妻、クラウディアだ。彼女が優雅に紅茶のカップを運んできたのを感じた瞬間、私は無意識に眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。怒られる前の、悲しい反射だ。


「クリフォード、結界の揺らぎが0.2パーセントほど大きいわ。集中なさい」


「ひっ……! はい、主任! いや、クラウディア。今すぐ修正するよ!」


 胃の痛みはピークに達したが、それが功を奏したのか、魔力の密度が一段と高まった。

 

 夜が更け、外の吹雪がさらに勢いを増す中。

 リリアンは一度も椅子に座ることなく、カウンターで地図と格闘し続けている。

 

 普段、彼女に「予算を使いすぎです」と正論で詰め寄られるたびに逃げ出したくなるが、こんな夜に彼女がいてくれることの心強さは、何物にも代えがたい。


 彼女がここに立っている限り、この窓口の灯は消えない。

 そして、私もまた、この杖を降ろすわけにはいかないのだ。




 夜明け。


 雲間から差し込んだ光が、窓を黄金色に染めた。

 結界を解くと同時に、私はその場にへたり込みそうになったが、なんとか眼鏡を直して威厳のようなものを取り繕った。


 窓口の向こう側では、500人の冒険者たちが安堵の声を上げている。

 リリアンは最後の一通の報告書に判を押し、ようやく一度だけ深く、ため息をついた。


「マスター。……結界の維持、お疲れ様でした。一応、感謝しておきます」


「……ありがとう、リリアン君。できれば、その感謝の気持ちで、次の予算会議は少しだけ優しくしてくれると嬉しいんだが……」


 私のささやかな願いは、「それはそれ、これはこれです」という彼女の氷のような微笑みによって、朝露と共に消え去っていった。


【リリアンのプロな流儀】

「平時のプロは信頼を築き、有事のプロはその信頼を『盾』に変えて、全員を救う。危機という名の嵐を鎮めるのは、奇跡の力ではない。日々の積み重ねが生んだ、1枚の正確な指示書と、それを支える不器用な献身である」


(第28話:完)


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