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《冒険者ギルドのお仕事ファンタジー》鉄の受付嬢リリアンのプロの流儀 ~冒険は、窓口から始まります~  作者: ざつ
第二部:四月・芽吹きと波乱の季節

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第18話:情報の「大掃除」とナネットの沈黙

◇◆◇◆◇


【視点:リリアン・ヴェール】


 4月も終盤に差し掛かり、ギルド内には妙な「噂」が蔓延まんえんし始めていた。

 発信源は言うまでもない。先日の母・ルネによる爆撃のような訪問だ。

 

「――ねえ、聞いた? リリアンさん、実は王都の勇者パーティで軍師をやってたって」「マジかよ、あのマスターや主任を顎で使ってるのも納得だな」

 

 カウンターの向こうで交わされる冒険者たちの囁きを、私は羽ペンを走らせる音でかき消した。

 

(事象:個人情報の不適切な流布による、ギルド内力関係の変動。深刻度:レベルB。対策:……沈黙による風化の促進)

 

「――失礼。リリアン・ヴェール嬢とお見受けする。私は王都の通商連合から来た調査員のザックスだ」

 

 私の前に立ったのは、高級な仕立ての服を着た、目の奥に狡猾こうかつな光を宿した男だった。先日の監査官とはまた違う、情報の「匂い」を嗅ぎつけるプロの気配がする。

 

「ご用件は何でしょうか。通商に関する問い合わせなら、2番窓口のベルナールへ」

 

「いや、君に用がある。君の『軍師』としての知見を、我が連合で高額で買いたいと思ってね。……それから、このギルドの『資産』についても、いくつか教えてもらいたいことがある」

 

 男はニヤリと笑い、懐からずっしりと重い金貨の袋をカウンターの下で揺らした。

 

 私はアクアマリンのピアスを静かに一撫でした。

「調査員様。当ギルド規約第72条、および王国内通商法に基づき、現職職員による情報の切り売りは厳禁です。また、あなたの現在の行為は『贈賄試図』と見なされます。……3秒以内にその袋を仕舞わなければ、私は警備担当を呼び、あなたのライセンスを永久凍結します」

 

「……ほう、手厳しい。だが、噂はすぐに消えない。君がどれほど隠そうとしても、汚れ(ひみつ)はどこからか漏れ出すものだ」

 

 男は捨て台詞を吐いて、ホールを去っていった。


 私は男の背中を見送りながら、脳内の『冒険者カタログ』に彼の顔を「出入り禁止予備軍」として登録した。

 だが、私の懸念は情報の流出だけではない。あの男が「汚れ」と呼んだものが、このギルドにはあまりにも多いのだ。


◇◆◇◆◇


【視点:ナネット】


 床を磨く。それが私の「本業」です。

 石畳のわずかな汚れ、冒険者が持ち込んだ泥、そしてギルドの安寧を乱そうとする「ちり」。

 

 私はモップを手に、ホールの隅で先ほどの「自称調査員」の男を観察していました。

 リリアン様は事務的に彼を追い払いましたが、あのようなタイプは、一度「甘い汁」の匂いを嗅ぐと、地下の archivesアーカイブやマスターの部屋にまで這い寄ってくるものです。

 

 男がギルドの門を出て、人通りの少ない路地裏に差し掛かった時。

 私は「掃除」を開始しました。

 

「――誰だ!」

 

 男が振り返るより早く、私は彼の影に潜り込み、首筋に銀色のモップのを添えました。

 もちろん、ただのモップではありません。戦闘メイドとして私が磨き上げた、最高の「処刑器具」です。

 

「通商連合のザックス様。いえ、正しくは隣国の諜報ちょうほう部隊、工作員の32番様」

 

「な……っ、なぜそれを!」

 

「このギルドの床は、私の魂そのものです。そこに不浄な足跡を残す者は、すべて特定済みです。……リリアン様は『法』であなたを裁こうとしましたが、私は『掃除』で対応します」

 

 私は男の懐から、先ほどの金貨と、彼が隠し持っていた記録用魔導具を没収しました。

 男が反撃しようとした瞬間、私の背後から凄まじい「重圧」が路地を支配しました。

 

 いつの間にか、屋根の上には腕を組んだクラウディア主任が立っており、さらに影の中からはクリフォードマスターの魔導式が静かに展開されていました。

 

「ナネット。ほどほどにしなさいね。リリアンの管轄外で騒ぎを起こすと、彼女に叱られてしまうわ」

 

 主任の鈴を転がすような声。

 男は、自分が挑もうとしていたのが、ただの「事務組織」ではなく、引退した英雄たちが巣食う「怪物の庭」であったことをようやく理解したようです。

 

「……失礼。ゴミの処分は、完了しました」

 

 私は男の記憶をわずかに魔導演算で書き換え、そのまま路地裏に放置しました。

 

 ギルドに戻ると、リリアン様は相変わらず眉間に皺を寄せ、山のような書類と戦っていました。

 彼女が築き上げた、この「平和な事務処理」という名の日常。

 それを守るためなら、私は何度でも床を磨き、汚れを消し去るでしょう。

 

「ナネットさん、そこの廊下にヒザクラの花びらが落ちているわ。15秒以内に掃除して」

 

「はい、リリアン様。仰せのままに」

 

 私は満足げに微笑み、再びモップを手に取りました。


【リリアンのプロな流儀】

「秘密は隠すためのものではなく、守るべき日常の『いしずえ』である。プロの管理能力とは、記録すべき情報を精査すると同時に、記録に残すべきではない『汚れ』を、音もなく拭い去る決断力のことである」


(第18話:完)


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