表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『無能と言われた【鑑定士】、実は世界樹の管理人でした 〜パーティーを追い出されたので、辺境で伝説の聖域を作っていたら、聖女や女騎士が「泊めてくれ」と泣きついてきた〜』  作者: やまご
第2章:聖域都市・建国無双編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/101

第89話:影の抱擁、あるいは本当の孤独――「絶望を、独占する」

海水が引き、湿った冷気が肌を刺す。

 辿り着いたのは、かつてアルスが「鑑定士」として追放された直後、魔王へと覚醒する前に一時的に投獄されていた旧・魔王城の地下最下層。そこは光が届かず、神の理からも見放された、因果の吹き溜まりだった。

 荒い息を吐きながら、アルスは暗闇の中で立ち上がろうとした。だが、膝が震え、手をついた床の感触に違和感を覚える。

 石の冷たさではない。それは、粘り気のある、意志を持った「闇」の感触だった。

「……ようやく、二人きりになれましたね。主様」

 耳元で、実体を持たない囁きが響く。

 アルスが【鑑定】を試みるが、視界にはノイズが走り、解析結果が千々に乱れる。魔力を封じられたこの閉鎖空間において、闇と同化したカゲロウは、もはや一つの現象としてアルスの感覚を支配していた。

「カゲロウ……っ。お前、いつからここに……」

「……いつから? ずっとですわ。……主様が絶望し、世界を恨み、孤独に震えていたあの日から、私はずっと貴方の影の中に潜んでいたのです。……他の女たちが、貴方の力や、貴方の愛を求めていた間も……私は、貴方の『痛み』だけを愛でていました」

 闇の中から、実体のない腕が伸び、アルスの身体を優しく、しかし確実に拘束する。

 カゲロウの愛は、セレスティアの支配やアイリスの武力とは本質的に異なっていた。彼女はアルスが「最強」であることを望まない。むしろ、彼が傷つき、独りでは生きていけないほどに心を削り取られ、ただ暗闇の中で自分だけに縋る「弱者」であることを切望していた。

「……ロザリア様は冷たい氷を。アイリス様は熱い炎を。……でも、そんなものはすぐに慣れてしまいます。……本当の独占とは、貴方の心から『光』という概念を奪うこと。……主様。ここにはもう、アーサーも、リリスも、リリィもいません。……貴方の世界は、私という影だけでいいのです」

『警告:精神汚染(サイコ・汚染)が進行中。……個体名「アルス」の脳内報酬系がカゲロウの闇に同期を開始』

『鑑定結果:第五巨人・カゲロウ(虚無共鳴形態)』

『状態:……精神の完全捕食。……彼女はアルスの「希望」を餌に、彼を永遠の孤独へと沈めようとしています』

 アルスの意識が、泥の中に沈んでいくように遠のく。

 確かに、ここは静かだった。追撃してくる巨大な女たちの喧騒も、アーサーの耳障りな怒鳴り声もない。ただ、自分を肯定し、自分を甘やかす闇があるだけ。

 

(……ああ、もう……いいのか。……逃げるのも、戦うのも、疲れた……。……このまま、カゲロウの闇に溶けてしまえば……)

 アルスの瞳から、最後の光が消えようとしたその時。

 闇の底から、場違いなほど軽やかな「足音」が響いた。

「……ねぇ、お兄ちゃん。……そんなところで寝てたら、風邪ひいちゃうよ?」

 カゲロウの闇を真っ二つに裂いて現れたのは、小さな光を宿した錆びたバケツを抱えた、リリィだった。

 彼女は、かつてアルスが「無」の世界へ逃げた際に置いてきたはずの、彼自身の『良心』と『魔王の遺産』の化身。

「リリィ……!? なぜ……君は消えたはずじゃ……」

「……消えてないよ。お兄ちゃんが私を呼んだから、バケツを持って帰ってきたんだ。……はい、これ。お兄ちゃんがずっと隠してた、『一番大事なガラクタ』だよ」

 リリィがバケツをひっくり返すと、中から溢れ出したのは、黄金の魔力でも漆黒の業火でもなかった。

 それは、第1部でアルスが初めて鑑定した「錆びた釘」や「壊れた時計」、そしてかつての仲間たちと交わした「どうでもいい会話の記憶」。

 ――ガラクタ。

 

 それらが闇の中で光を放ち、カゲロウの精神汚染を物理的に弾き飛ばした。

「……なっ!? 私の闇が……ただの『ガラクタ』に拒絶されるなんて……!?」

 カゲロウが悲鳴を上げ、影が実体化して後退する。

 アルスは、リリィが差し出した「錆びた釘」を握りしめた。その瞬間、彼の脳裏に、魔力に頼らない「真の鑑定」の極致が閃いた。

「……カゲロウ。お前の愛は、確かに深いよ。……でも、お前は鑑定し間違えた。……俺の孤独は、誰かに埋めてもらうためのものじゃない。……俺が、俺であるために、自分自身で抱え続けるためのものだ!!」

『真・深淵鑑定:……発動』

『鑑定対象:この世界そのもの』

『再構築案:……【全ヒロインの因果を、初期化リセットする】のではなく、……【彼女たちに、自分と同じ「不遇」を味わせる】』

「……みんな。俺ばっかり『幸せな地獄』にいるのは、公平じゃないだろ? ……今度は君たちが、俺を追いかける『不遇な鑑定士』になってみるんだ」

 アルスの全身から、ガラクタの光が爆発した。

 それは、世界を壊す力ではなく、世界を「逆転」させる究極の再構築。

第90話(因果逆転、あるいは追放された女神たち): アルスの放った光により、世界中の魔力バランスが崩壊。巨大化したヒロインたちは一転して、魔力を持たない「ただの非力な少女」として各地に追放される。逆に、アルスは「唯一の魔力保持者」として君臨。……しかし、追放された彼女たちは、それぞれの場所で「不遇」を糧に、より狡猾で、より執念深い『復讐者』へと成長を開始する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ