第83話:合体ヒロインとの新婚生活――「私」たちと創る、狂った箱庭
神殿を埋め尽くした七色の光が収束し、そこには言葉を絶する「美しき怪物」が立っていた。
アルスが放った【極限再構築】によって、セレスティア、アイリス、フィオナ、ロザリア、カゲロウ、エルーシャ、そしてリリス。彼女たちの魂と肉体、そして執着は、物理的な境界線を失い、一つの生命体――**『終焉の聖妃』**へと統合された。
「……あ……アルス様……。……ようやく、静かになりましたわ……」
その存在から発せられる声は、七人の声が完全に同調した、天上の合唱のような響き。
容姿は刻一刻と変化し、ある時は聖女の慈愛、ある時は騎士の勇猛、ある時は王女の気品を湛える。しかし、そのすべてに共通しているのは、もはや逃れようのない、純度七〇〇%の「執着」だった。
『鑑定結果:終焉の聖妃』
『状態:極めて安定。……七つの意志は「アルスを愛する」という一点で完全に統合されました』
『警告:彼女(彼女たち)が呼吸するだけで周囲の因果が書き換わります。……もはやこの世界は、彼女の「体内」と同義です』
「……一つに……なってしまったのか。俺のせいで」
アルスが呆然と呟くと、無数の光り輝く腕と、影の触手、そして花の蔦が混ざり合った「抱擁」が、優しく、しかし骨が軋むほどの力で彼を包み込んだ。
「……そうですわ。……もう、誰が隣に座るかで争う必要はありません。……私が貴方を抱き、私が貴方に食事を与え、私が貴方を管理する。……すべてが『私』なのですから」
彼女が微笑むと、崩壊したはずの神殿が、彼女の意志一つで「新婚の寝室」へと再構築された。
壁は柔らかい肉のようで、床は雲のように暖かく、空気は彼女たちの愛の魔力で満たされている。
「さあ、アルス様。……新しい世界の『種』を蒔きましょう。……人類はもう私たち以外に必要ありません。……貴方と私、二人だけで、この永遠の箱庭を……新しい、私たちの子供たちで埋め尽くすのです」
彼女の指先がアルスの額に触れる。その瞬間、アルスの脳内に「何億年分もの愛のスケジュール」が直接書き込まれた。
争いも、嫉妬も、孤独もない。
ただ、一人の「完全な女」に愛され続け、彼女との間に「彼女たちと同じ貌をした子供」を延々と作り続けるだけの、完成された円環。
「……ひ、ひゃははは! 究極のハッピーエンドじゃねぇか、鑑定士!! ……個別のヤンデレに悩まされることもねぇ! 全員が一つになって、お前を全方位から愛し抜いてくれる! ……人類の頂点にして、最後の種馬……最高に誇らしいじゃねぇかよ!!」
瓦礫の影からネルガルが顔を出し、狂ったように拍手喝采を送る。
アルスの腕の中では、役目を終えたリリィが、空っぽになったバケツを抱えて静かに眠りについていた。彼女という「良心」さえも、この圧倒的な「統合の愛」の前では、ただの静かな背景と化していた。
(……ああ。……これが、俺が求めていた『争いのない世界』なのか……?)
アルスは、自分を抱きしめる「七人の一人」の瞳を見つめた。
そこには、かつてのセレスティアの慈愛も、アイリスの誇りも、リリスの知性も、すべてが混ざり合い、一つの巨大な「黒い太陽」のように燃え盛っている。
心地よい。
あまりにも心地よく、温かくて、思考が溶けていく。
もう、鑑定する必要も、再構築する必要もない。
彼女という世界の中で、ただ生かされていればいい。
「……愛していますわ、アルス様。……さあ、永遠を始めましょう?」
彼女の唇が重なる。
――その時。
アルスの【深淵鑑定】が、誰もいないはずの神殿の「外側」に、一人の『異物』を捉えた。
『鑑定結果:???』
『特記:……この世界から「追放」されたはずの、ただの人間。……復讐の鑑定士アルスの記憶を一切持たない、前世のアーサーの生き残り(バグ)』
統合されたはずの世界に、唯一残された「外」の不純物。
アルスの物語は、神域という名の閉じた子宮の中で、予想外の『侵入者』を迎えようとしていた。




