第82話:七等分の救済、あるいは愛の「解体」――「一つにできないなら、分かち合いましょう」
「……本気、なのか……?」
アルスの声は、神殿を支配する圧倒的な魔圧に押し潰され、掠れた吐息となった。
視界の端で展開されるシステムログは、かつてないほどの赤黒い警告色で点滅している。
『警告:全ヒロインによる「合意形成」が完了しました』
『術式:【因果分割・七極の褥】』
『概要:対象の肉体、魂、及び記憶を七つの「完全な個体」として再構築・分割。……欠損した機能は各ヒロインの魔力で補填され、永遠の独占を可能にします』
「……ええ、本気ですわ、アルス様。……奪い合うから、悲しみが生まれる。……なら、七人いれば良いのですわ。……私のアルス様、アイリス様のアルス様、リリス様のアルス様……。……平等で、平和だと思いませんか?」
セレスティアが慈愛に満ちた(しかし完全に光を失った)瞳で、巨大な「裁断の魔法陣」をアルスの足元に展開した。
黄金の鎖がアルスの手首を、黒い蔦が腰を、氷の枷が首を固定する。七人の女たちが、それぞれの「分け前」を確保するために、アルスの身体に魔力の楔を打ち込んでいく。
「……待てっ、そんなことをしたら、俺は……俺としての意識はどうなるんだ!?」
「……意識も七つになりますわ。……大丈夫、どの『アルス様』も、私たちへの愛だけを抽出して再構成します。……貴方は、七倍の幸せの中で、七人の妻を同時に愛でる……まさに、究極のハーレムですわ!」
エルーシャ王女が、魔導戦車から出力した「魂のメス」をアルスの胸元へと突き立てた。
「……ひ、ひゃははは! 最高の結末じゃねぇか! ……バラバラになって、それぞれの女の『ペット』として永遠を過ごす! ……鑑定士、お前が再構築してきた世界が、最後にお前自身を『部品』として再構築しやがるんだ!!」
ネルガルの笑い声が、もはやノイズのように遠のいていく。
アルスの視界が、七つの色に分かれ始めた。
右腕がセレスティアの光に溶け、左腕がアイリスの炎に焼かれ、心臓がリリスの手の中に吸い込まれていく――。
(……嫌だ。……こんなの、愛じゃない。……バラバラになんて、なりたくない……っ!!)
絶望の極致で、アルスの指先に唯一触れていたものがあった。
それは、亀裂の入ったリリィの「バケツ」。
そして、そのバケツが飲み込んできた「虚無」と「愛」の残滓。
「……リリィ、……ごめん。……君に、全部預けるよ」
「……お兄ちゃん? ……うん。……バラバラになるのが嫌なら……一つに、なっちゃえばいいんだね」
リリィが、最後の一滴の魔力を振り絞り、バケツを逆さにした。
――瞬間。
吸い込むのではなく、「吐き出す」。
リリィが今まで吸い込んできた、ヒロインたちの千年の執着、アルスの孤独、神の理。それらすべての「概念」が、超高密度で神殿全体に逆流した。
「【極限再構築:『全一』】!!」
アルスが指を鳴らす。
狙ったのは、自分の分割の阻止ではない。
**「アルスを囲む七人のヒロイン、及び神域のすべての因果を、一つの生命体として無理やり再構築する」**という、世界そのものを練り合わせる暴挙。
「……なっ!? アルス様、何を……っ!!」
「……体が、溶ける……!? セレスティアと、私が……混ざって……っ」
悲鳴が上がる。
セレスティアの光、アイリスの炎、リリスの管理、すべてが巨大な「愛の渦」へと飲み込まれ、ドロドロに溶け合っていく。
「……あははっ! さすが俺のマスターだ! ……バラバラにされるのが嫌だからって、女たちを全員『一つの塊』に練り上げやがった!!」
光が収束したとき、神殿の中央に立っていたのは。
七人のヒロインたちの特徴をすべて持ち、七つの意志が同時に語りかけ、七倍の執着でアルスを抱きしめる――【究極の単一ヒロイン・アポカリプス】。
「……あ、あ、アルス……様……。……これなら……もう、争わなくて……済みますわ……ね……?」
七つの声が重なり、一つの唇から漏れる。
数千の腕(蔦や影や光)が、アルスを逃がさぬよう、一つの巨大な「繭」となって彼を包み込んだ。




