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『無能と言われた【鑑定士】、実は世界樹の管理人でした 〜パーティーを追い出されたので、辺境で伝説の聖域を作っていたら、聖女や女騎士が「泊めてくれ」と泣きついてきた〜』  作者: やまご
第2章:聖域都市・建国無双編

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第61話:聖女の再会、あるいは「逃げられない呪い」

雨が泥道を叩き、不快な冷たさが首筋を伝う。

 アルスの腕を掴むセレスティアの指先は、細く、白く、以前(魔王時代)よりもずっと幼いはずだった。だが、そこから伝わる力は、物理的な筋力を超えた「執念」そのもの。

「……あ、アルス様。お会いできて、嬉しいですわ。……本当に、本当に」

 セレスティアが顔を近づける。その瞳のハイライトは、かつての清らかな聖女のものではない。千年の時をアルスの傍らで狂い続けた、あの「黒い翼」の残滓が、深淵のような暗闇となって渦巻いている。

「セレスティア……君、まさか……覚えているのか?」

「何を、ですの? ……アルス様が私を捨てて、この世界ごと消し去ろうとしたこと? ……それとも、私たちが一つになって、永遠の眠りについたはずのあの夜のこと?」

 彼女はクスクスと笑い、アルスの首筋に鼻を寄せた。

 吸い込まれるような、狂おしい執着の香。

「……バグだ。……記憶の封印が、不完全だったのか……っ!?」

 アルスは恐怖に身を震わせ、強引にその手を振り払った。

 今の自分は、魔力も権能も封印した「ただの鑑定士」だ。対するセレスティアは、この時代ですでに高位の聖女。力で抗えるはずがない。

「【鑑定】……っ!」

 アルスが、咄嗟にセレスティアを視界に捉える。

 かつての豪華なウィンドウではなく、ノイズ混じりの古い画面が浮かび上がる。

『個体名:セレスティア(聖女)』

『状態:極度の興奮、執着。……【前世の記憶】がシステムのバグにより浸食中』

『警告:彼女の「愛」の数値が、現在の世界の許容量を超えています。……このままだと、周囲の空間が物理的に崩壊します』

「……アルス様。どこへ行くのですか? ……もう、馬車はありませんわ。……アーサー様たちも、今はまだ『生きて』いますけれど……邪魔なら、私が今すぐ消して差し上げましょうか?」

 セレスティアが、懐から一本の銀のナイフを取り出した。

 それは、第2部で彼女がアルスの肩を突き刺した、あの「慈愛の監禁」の象徴。逆行してもなお、彼女はその『道具』を魂に刻みつけて連れてきたのだ。

「やめろ、セレスティア! 誰も殺すな! ……俺は、ただ……普通に生きたいだけなんだ!」

 アルスは逃げ出した。

 泥を跳ね上げ、辺境の街『ノア』の細い路地へと駆け込む。

 心臓が破裂しそうなほどに脈打ち、肺が灼けるように痛む。……あぁ、これだ。魔王だった頃には決して味わえなかった、死の恐怖と生の実感。

 だが、路地の角を曲がった瞬間。

 そこには、巨大な猪を片手で軽々と持ち上げ、街の衛兵たちを睨みつける一人の少女がいた。

「……おい。……今、そこを走っていった黒髪の男。……どこへ行った」

 赤髪をポニーテールに結び、ボロボロの皮鎧を纏った女戦士。

 アイリスだった。

 彼女もまた、かつての「アルスの番犬」としての鋭い視線を路地の奥へと向けていた。

「……アイリス、まで……っ!?」

 アルスは壁に背を預け、息を殺した。

 逆行して、平和な日常を「再構築」するはずだった。

 だが、現実は——**「前世の愛に狂ったヒロインたちが、獲物を探して街を徘徊する」**という、世界で最も過酷なサバイバルゲームの舞台へと変貌していた。

「……アルス様。……逃げても、無駄ですわ。……貴方の『匂い』は、この世界のどこにいても、私には『鑑定』できてしまうのですから」

 路地の入り口から、セレスティアの楽しげな足音が聞こえてくる。

 アルスの胸の奥で、封印したはずの「魔王の力」が、疼くように脈打った。

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