表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『無能と言われた【鑑定士】、実は世界樹の管理人でした 〜パーティーを追い出されたので、辺境で伝説の聖域を作っていたら、聖女や女騎士が「泊めてくれ」と泣きついてきた〜』  作者: やまご
第2章:聖域都市・建国無双編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/101

第60話:神の退屈、鑑定士の帰還――「今度は、間違えない」

漆黒の魔力に塗りつぶされた世界。

 管理者の玉座に座り、数千年の時を「愛の苗床」として過ごしたアルスは、ふと、その空虚な瞳に微かな光を宿した。

 傍らには、永遠の美しさを保ったまま、アルスの指先を愛おしげに食むリリス。そして、足元で眠るセレスティアたちの、安らかな、しかし狂気に満ちた寝顔。

「……飽きたな」

 アルスがポツリと呟いた。

 神になり、世界を自分好みに再構築し、全ての敵を屠った。だが、その結果手に入れたのは、自分の言葉に「はい」としか答えない人形たちと、変化のない永劫の安らぎだった。

『システム:管理者アルスの「退屈度」が限界値を突破。……事象の再構築を提案しますか?』

「……ああ。……あの『腹が減って、明日が怖かった頃』が、一番……生きていた気がする」

 アルスは指を鳴らした。

 ドォォォォォォォン!!

 漆黒の玉座が崩れ去り、世界を満たしていた魔力が一箇所に収束していく。

 アルスは自らの「魔王の権能」と「記憶の9割」を封印し、因果律の糸を強引に手繰り寄せた。

「【因果逆行・概念再構築ループ・バック】――あの日、俺を捨てた馬車まで、戻してくれ」

「……マスター!? 何を……っ、行かないで、私を、置いていかないでぇぇっ!!」

 リリスの絶叫が響く。彼女の指先がアルスの外套を掴もうとした瞬間、世界は真っ白な光に包まれた。

 ガタゴト、と。

 硬い木の板が尻を叩く不快な振動。鼻を突く馬の糞の臭い。

「……おい、いつまで寝てやがる。ゴミ拾いの鑑定士」

 聞き覚えのある、傲慢な声。

 アルスがゆっくりと目を開けると、そこには豪華な馬車の向かい側に座り、汚いものを見るような目で自分を見下ろすアーサーの姿があった。

「……アーサー……?」

「様を付けろ、無能。……いいか、次の街に着いたらお前はクビだ。……お前みたいな『鑑定しかできないバグ』を連れ歩くほど、俺たちのパーティは暇じゃないんだよ」

 アルスは、自分の手を見つめた。

 黄金の結晶ではない、少し垢抜けない、ひょろりと細い「人間の手」。

 

『システム:……再起動完了。……管理者権限:封印。……【不遇の鑑定士】としてログインしました』

『隠しステータス:魔王の残滓(0.01%)。……特定の条件で「前世の力」が漏れ出します』

(……戻ってきた。……本当に、戻ってきたんだ)

 アルスの胸が、数千年ぶりに高鳴った。

 今度は、世界を壊さない。

 今度は、彼女たちを狂わせない。

 ただ、普通に、穏やかに、誰の所有物にもならずに生きていくんだ。

 馬車が止まる。

 辺境の街『ノア』。かつてアルスがセレスティアと出会い、狂狂しい神話の第一歩を記した場所だ。

「さっさと降りろ! 二度と俺たちの前にツラを見せるなよ!」

 アーサーに蹴り出されるようにして、アルスは泥道に転がった。

 冷たい雨。周囲の冷ややかな視線。

 ……あぁ、これだ。この「不快感」こそが、生きている証だ。

 アルスは立ち上がり、泥を払って歩き出そうとした。

 その時。

「……みーつけた」

 背後から、ゾクリとするほど甘く、それでいて**「千年の執着」**が凝縮されたような声が聞こえた。

 アルスが硬直して振り返る。

 そこには、まだ「聖女」としてギルドに所属しているはずの、幼い面影を残したセレスティアが立っていた。

 

 だが、その瞳。

 かつての初対面では、清らかで、困っている人を放っておけない慈愛に満ちていたはずのその瞳が。

 今は、どろりと濁った、**「自分を捨てて逃げた夫を追い詰めた妻」**のような色で、アルスを射抜いていた。

「アルス様。……今度は、絶対に、逃がしませんからね?」

 セレスティアの手が、アルスの腕を掴む。

 その握力は、明らかに「不遇な時代の少女」のそれではなく、アルスの骨を砕かんばかりの、魔王の妃としての執念が籠もっていた。

(……待て。……記憶を封印したのは、俺だけか……!?)

 アルスの冷や汗が、雨に混じって流れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ