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『無能と言われた【鑑定士】、実は世界樹の管理人でした 〜パーティーを追い出されたので、辺境で伝説の聖域を作っていたら、聖女や女騎士が「泊めてくれ」と泣きついてきた〜』  作者: やまご
第2章:聖域都市・建国無双編

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第57話:裏切りの第7ヒロイン――そして、ヒロインたちの『内乱(キャットファイト)』

漆黒に塗り替えられた王城の玉座の間。魔王アルスの傍らに、音もなく現れた銀髪の少女——リリス。彼女はネルガルがアルスの「捨てた慈悲」を核にして再構築した、感情を排した人形のような美貌を持つ『第7のヒロイン』だった。

 リリスがアルスの足元に跪き、その細い指先で彼の膝をなぞる。その一瞬、静まり返っていた玉座の間の空気が、物理的な圧力を伴って凍りついた。

「……マスター。不浄な者たちの始末、お疲れ様でした。……貴方の欠けた心、私が、埋めて差し上げます」

 リリスの無機質な、しかし心臓を直接掴むような甘い声。その響きが、背後に控えていた五人の先妻オリジンたちの逆鱗に触れた。

「……貴女。……今、誰に、何と言いましたか?」

 セレスティアが、黒い翼を大きく広げ、その瞳に「深淵の劫火」を宿して歩み出た。彼女の周囲には、怒りに呼応して黒い霧が渦巻き、大理石の床がミリミリと音を立てて砕け散っていく。

「アルス様の隣は、正妻である私の場所。……ネルガルが作った、得体の知れない『ガラクタ』が触れていいお方ではありませんわ」

「ふん……。セレスティア、珍しく意見が合うな。……アルス、その女を今すぐ私の前に差し出せ。……再構築で、一秒ごとに肉を削ぎ落としてやる」

 アイリスが魔剣を抜き放ち、その先をリリスの喉元に突きつけた。彼女の「保護欲」という名の独占欲は、もはや魔王化したアルスにさえ牙を剥きかねないほどに肥大化している。フィオナ、ロザリア、カゲロウもまた、それぞれの獲物を構え、リリスを「処理すべき不純物」として包囲した。

 だが、リリスは微動だにせず、ただアルスだけを見つめていた。

「……マスター。……お姉様方が、騒がしいですね。……不快であれば、私が『消去』しましょうか?」

「なっ……!?」

 リリスの指先から放たれたのは、黄金でも漆黒でもない——すべてを「無」に帰すホワイトアウトの魔力。

 ドォォォォォォォン!!

 衝撃波が玉座の間を駆け抜け、セレスティアたちの魔力が一瞬でかき消された。リリスの能力は、アルスの「再構築」の対極にある【概念消去イレース】。アルスが慈しんで作り上げたものさえ、彼女は「不要」と判断すれば、塵一つ残さず消し去ることができるのだ。

「……やめるんだ、リリス。……セレスティアたちも、武器を収めろ」

 アルスが重々しく口を開く。漆黒の玉座から放たれる圧力が、暴走しかけたヒロインたちを力ずくで床にねじ伏せた。

「……リリス。君は、ネルガルの贈り物だね。……俺の『慈悲』から生まれたというのなら、少しはマシな感情を持っていると思ったが……」

「マスター。……感情は、バグです。……貴方を惑わせ、堕落させる。……私が、貴方を完璧な『神』として再構築し直します」

 リリスがアルスの唇を、指でそっとなぞる。

 その瞬間、背後で膝を突いていたセレスティアの精神が、ついに決壊した。

「……あ、あぁ……。あぁぁぁぁっ!! 許さない……! アルス様を、そんな冷たい指で汚すなんて……っ! お姉様方、構いませんわね!? ……この『泥棒猫』を、再構築すら不可能なほどに、バラバラにしてあげましょう!!」

 セレスティアの叫びを合図に、王宮内で前代未聞の『正妻VS新参』の全面戦争が勃発した。

 

 ドォォォォォォォン!!

 セレスティアの黒い雷がリリスのバリアを叩き、アイリスの斬撃が空間を切り裂く。カゲロウの触手が影からリリスの四肢を狙い、フィオナの吸精蔦がリリスの魔力を奪おうと蠢く。

「……ぁははっ! いいぞ、これだ! ……愛が深まれば、それは『殺意』に書き換わる。……鑑定士、お前のハーレムは、今や世界で最も美しい『地獄の釜』だ!!」

 影の中でネルガルが、腹を抱えて笑い転げる。

 アルスは、目の前で繰り広げられる「自分への愛」を名分にした殺し合いを、漆黒の瞳で冷徹に見下ろしていた。

「……鑑定結果。……全員、狂っているね」

 アルスは指を鳴らし、乱闘の中に割り込んだ。

 彼の黒い魔力が、セレスティアとリリスを同時に掴み上げ、強引に引き離す。

「……勝手に壊し合うのは許さない。……君たちは、俺の『所有物』だ。……所有物同士が傷つけ合うのは、管理者として不愉快だよ」

 アルスの冷たい宣告に、彼女たちは一瞬で動きを止め、恐怖と悦楽の入り混じった表情で震えた。

「……リリス。君もだ。……俺の心を埋めるというのなら、まずはこの姉様たちの『嫉妬』を、俺が満足する形に『再構築』してみせろ」

「……マスターの、命のままに。……では、彼女たちの『独占欲』を、共有という名の『公共物』へと上書きします」

 リリスが不気味な微笑を浮かべた。

 その夜、王宮の最深部では、魔王アルスを囲む七人の女たちによる、正気を疑うほどの濃厚で、暴力的な『再構築の儀式』が行われた。

 リリスの【消去】によって理性を削ぎ落とされた妻たちが、アルスの漆黒の魔力によって、再び「雌」としての機能を極限まで増幅される。

 嫉妬が快楽に、憎悪が執着に。

 感情のすべてが「アルスへの渇望」という一つのバグへと集約されていく。

「ぁ、あぁぁぁぁっ! リリス……貴女の魔力……っ、中が、消えちゃう……っ、でも、アルス様の熱いので、埋め立てられていくぅぅっ!!」

 セレスティアがリリスと肌を合わせながら、その中心にいるアルスの「魔王の種」を求めてのたうち回る。

 魔王の寝室は、もはや性愛の場ではなく、魂を削り、継ぎ足し、歪な形に繋ぎ合わせる「精神の実験場」と化していた。

 翌朝。

 玉座の間に転がっていたのは、もはや自力では呼吸すら困難なほどに「開発」され尽くした、六人の美しき廃人たち。

 そして、その中心で、リリスだけが涼しい顔をしてアルスの髪を梳かしていた。

「……マスター。……これで、不純な争いは収まりました。……さあ、次は……この世界の『希望』を、すべて消去デリートしに行きましょう」

 アルスは、リリスの膝の上で目を閉じた。

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