第52話:禁断の契約――「魔王」の胎動と、淫らな捕食者たち
カチリ、と。
地下室の重厚な魔法封印が完了し、外界からの音は完全に遮断された。
アルスの目の前には、服を脱ぎ捨て、再構築された「雌」としての本能を剥き出しにした五人の美女たちが、獲物を囲む獣のように這い寄ってきている。
「アルス様……。もう、誰も邪魔はしませんわ。……ここには、貴方と、私たちしかいないのです」
セレスティアが、アルスの震える手を取り、自らの豊かな胸に押し当てた。彼女の心音は異常なほど速く、アルスの流した黄金の血を吸った影響で、その肌にはうっすらと黒い紋様が浮かび上がっている。
「……セレスティア、正気に戻ってくれ。……こんなのは、本当の幸せじゃない!」
「いいえ。……これが、私の、私たちの『正解』ですわ。……貴方を失う恐怖から解放される唯一の方法は、貴方を壊して、私たちの血肉に変えること……っ」
アイリスがアルスの背後に回り、その首筋を愛おしげに、しかし獲物の急所を確認するように噛んだ。フィオナの蔦がアルスの四肢を寝台に固定し、ロザリアの冷たい吐息が耳元で「愛している」と呪いのように繰り返される。
「……くくっ。いい眺めだ。……鑑定士、お前の『慈悲』が、彼女たちをここまで美しく壊したのだぞ」
影の中から、ネルガルが【暴食の心臓】を弄びながら歩み寄ってきた。その瞳には、深淵の主としての冷酷さと、アルスの破滅を愉しむ嗜虐性が混ざり合っている。
「……ネルガル。……君の契約、受けよう。……このまま『愛の供物』として溶かされるくらいなら……っ」
「決まりだな。……ならば、お前の『心』の半分――『他人を信じるという愚かな機能』を私が貰い受けよう」
ネルガルが【暴食の心臓】をアルスの胸に押し当てた。
ドォォォォォォォォン!!
地下室が、黒い雷鳴に包まれる。
アルスの体内を、かつての清浄な黄金とは真逆の、ドロドロとした漆黒の魔力が駆け巡った。
『警告:個体名アルスの「属性」が反転。……【深淵の鑑定士】へと再構築中』
『特殊スキル:【強制服従】が解放されました』
「ぁ、あぁ……あぁぁぁぁっ!!」
アルスの瞳が、深い漆黒、そして中心に黄金の瞳孔を持つ「魔王」の眼へと変わった。
彼を拘束していたフィオナの蔦が、黒い炎に焼かれて瞬時に灰となる。
「……みんな。……言ったはずだよ。……『やめろ』って」
アルスが冷徹な声で呟くと、部屋の空気が絶対零度まで凍りついた。
「ひぅっ……!? アルス様……その、瞳は……っ」
セレスティアが恐怖に身を竦める。だが、次の瞬間、彼女の表情は恐怖を突き抜け、濡れた瞳で恍惚とした悦びに染まった。
「……あぁ。……それです。……その、冷たい、私たちを虫ケラのように見下ろす視線……っ! ……もっと、もっと私を……踏み躙ってください、アルス様ぁっ!!」
皮肉にも、アルスが「魔王」としての暴威を振るうほど、彼女たちの狂った依存心はさらに加速していった。彼女たちはアルスの足元に跪き、自らの首を差し出し、略奪されることを切望し始めたのだ。
「……フン。想定外か? 鑑定士。……女たちの執着は、恐怖さえも『快楽』に変える。……お前が闇に堕ちようとも、彼女たちはその影に食らいつき、決して離れはしない」
ネルガルが愉快そうに肩を揺らす。
アルスは漆黒の魔力を指先に纏わせ、自分を求めて喘ぐ彼女たちを見下ろした。
「……いいよ。……なら、君たちの望み通りにしてあげる。……この『監禁室』を、君たちが二度と立ち上がれないほどの、悦楽の地獄に変えてやるよ」
第2部、中盤。
「神」であることをやめ、「魔王」として君臨することを選んだアルス。
救済なき、終わりのない『再構築(調教)』が、暗い地下室で幕を開ける。




