第44話:自我の瓦解――黄金の苗床、愛の自動人形(オートマタ)
「アルス様、今日もお綺麗ですよ。……ほら、私たちが注いだ魔力で、お肌がこんなに透き通って」
セレスティアが、虚空を見つめるアルスの頬をそっと撫でた。アルスの瞳は、もはや黄金の輝きを失い、回路図のような無機質な光が断続的に明滅するだけとなっていた。彼の肉体は、五人の妻たちが放つ「重すぎる愛」を常に受け入れ、循環させるための**『生ける魔力変換器』**へと完全に作り替えられていたのだ。
アルスの手足は、もはや自力で動くことはない。
指先は細い黄金の結晶体へと変質し、そこからは絶えず、妻たちの欲望を満たすための純粋な魔力液が滴り落ちている。
「アルス……。貴殿はもう、戦う必要も、考える必要もない。……ただ、私たちが与える悦びに身を委ね、私たちの胎内を、貴殿の熱い魔力で満たし続けてくれればいいのだ」
アイリスがアルスの膝の上に跨り、その無反応な唇を強引に奪った。彼女の肌は、アルスの魔力を吸い取りすぎたせいで、異常なほどの熱を帯び、触れるだけで火傷しそうなほどに昂ぶっている。
アルスの意識の深淵。
そこでは、かろうじて生き残った『鑑定』のシステムメッセージが、悲鳴のようにログを刻み続けていた。
『警告:個体名アルスの「自我境界線」を喪失』
『第1〜第6ヒロインによる共有権限が100%に到達。……アルスは現在、彼女たちの「共有財産(家具)」として定義されています』
『推奨:存在の完全初期化……。……失敗。初期化権限はセレスティアによって「愛の儀式」へと上書きされました』
「……ぁ……っ……あ……」
アルスの喉から漏れるのは、言葉ではない。魔力が逆流するたびに強制的に引き出される、乾いた喘ぎだけだ。
フィオナがアルスの背後に回り、その黄金の脊髄に自身の蔦を直接プラグのように差し込んだ。
「あぁ……っ! アルス様、入ってくる……っ! 貴方の純粋な『核』が、私の中をかき回して……っ! これで、私は永遠に、貴方の一部でいられる……っ!!」
ロザリアとカゲロウも、アルスの両脇に座り、彼の結晶化した指先を代わる代わる口に含んでは、そこから溢れ出す黄金の蜜を貪り食った。彼女たちの腹部は、アルスの魔力によって不自然なほどに膨らみ、そこでは「アルスのスペア」とも呼べる、人間とは似て非なる異形の生命が脈動を始めている。
「……ふふ。哀れだな、鑑定士」
部屋の隅で、完璧な女神の姿へと変貌したネルガルが、残酷な笑みを浮かべていた。彼女もまた、アルスの一部を「摂取」することでしか存在を維持できない、美しき寄生虫の一人と化していた。
「お前が作り上げたこの『楽園』は、もはやお前を食い尽くすことでしか維持できない。……お前が優しく微笑むたびに、彼女たちは飢え、お前を削り取っていく。……これこそが、お前が望んだ『最高の再構築』の末路だ」
アルスの視界が、ゆっくりと白濁していく。
セレスティアの手がアルスの胸板を割り、その中にある黄金の心臓に直接触れた。
「……大丈夫ですよ、アルス様。痛くなんてありません。……貴方の心も、魂も、すべて私たちが『再構築』してあげます。……何も考えなくていい、幸せなだけの、お人形さんにね」
バキッ、と乾いた音がした。
アルスの精神の最後の一片が砕け散り、彼の瞳から「人間」としての光が完全に消失した。
『システム:【完全なる調和】を達成』
『個体名アルスを「聖域の自動供給装置」に恒久固定。……ハネムーンは、永遠へと移行しました』
天空要塞アルスガルドは、主の悲鳴を飲み込みながら、黄金の輝きを撒き散らして空を征く。
それは地上から見れば神々しい救いの光だが、その内部では、一人の男が五人の美しき怪物たちに生きたまま解体され、愛という名の胃袋の中で溶かされ続けていた。




