4話 サプライズ
魔法がある現代って、凄そうじゃないですか?
冒険者になって半年、二カ月前にやっとヒビキ共々収益化が通ったので、人並みの暮らしが出来るようになった
僕のチャンネル登録者数も二十万人を超えて、そこそこ知名度が上がって来たので、この機を逃すものか!と、めっちゃ頑張ってる!!!
ダンジョン配信にその前準備、発見した未確定物質の鑑定に新発見の申告、フォロライフの収録に歌とダンスのレッスン、戦闘訓練に専用武器の打ち合わせや新規ダンジョンに潜る申請、等々
マネージャーさんに負担掛けてるけど、事務仕事やスケジュール管理に各所との調整とかをやって貰って、なんとか回している
昔の冒険者は一人で全部やってたのかと思うと、恐ろしくなるよ……絶対に毎日配信とか出来ないからね、改めてフォロライフには足を向けて眠れないと思った
僕がやってるのって、自分でやらなきゃ意味がないものだけなのに、毎日ヘトヘトになるんだもん
今度マネージャーさんにご飯奢ろう、なんて考えながら女子寮に帰ると、ヒビキが僕の部屋で上機嫌にノートパソコンとにらめっこしていた
胡坐をかいて横には二リットルのペットボトルの紅茶が置いてある、いつもの事なんだけど、まるで自分の部屋のように寛いでるね
揺れる尻尾を眺めて癒されながらも、何やってるんだろ?と思いつつ
ヒビキが持ち込んだ紅茶を自分のコップに注いでから、声を掛けた
「ヒビキただいまー、どしたの?なんかめっちゃ嬉しそうだけど」
「おぅお帰りー……いやな、貯金も貯まって来たから、旅行に行こうと思って、良さげな所を探してるんですけど、中々決まらなくてなー」
「ふーん、そうなんだー……何処行くの?」
モニターを覗き込むと、リゾートホテルや旅館がズラリと並んでいた
一泊数万円する所ばかりだ、ヒビキはチャンネル登録者数が四十万人を超えていて、スパチャも大量に投げられているから、活動費で大半が飛ぶ僕と違い選び放題なんだろう
二ヶ月前までの極貧生活が嘘みたい……もっとも、庶民感覚が抜けないから、ヒビキ共々豪遊なんてしてないんだけど
だって、なんか怒られそうで怖くない?
配信で貰ったお金は、僕の配信を楽しんでくれたお礼じゃん、それを活動費以外で使うなんて、小心者の僕には無理だよ
……でもいいなー、ほんの少しだけど、旅行に行けるヒビキが羨ましい
あっ、ここ屋内プールに温泉もあるじゃん!
僕も行ってみたいなー、と覗き込んでたら、ヒビキがガックリと肩を落とした
「それがなー……スケジュールの合う日が無くて、マネちゃんに調整してもらっても、二泊三日が限界で近場しか選べなかったんですよー」
「まさかファロメン(フォロライフの冒険者メンバーの略)と行くの?羨ましい、お土産奮発してよね!」
ヒビキとはよく一緒に居るけど、干渉し合う仲じゃない、特にヒビキは誰とでも仲良くなれるからね、コラボも多いんだよね
だからこれも、ヒビキが誰かと立てた企画なんだと思って言ったんだけど……さも不思議そうな顔で言い返された
「いや、行くのはおめーと二人でだぞ、お土産は自分で買って来い」
「ちょっと待って、僕聞いてないんだけど!」
「そりゃ、言ってないからなー」
「言いなさいよ!だいたい僕が忙しいの知ってるよね!」
「だからだよ…………おめぇーは頑張り過ぎだからな、ちょっとは休まねーと身体壊すぞ」
思わず「うっ」って声が出た
最近はスケジュールを詰め込み過ぎているから、マネージャーさんは勿論、フォロメンやリスナーさんからも休めって言われてたんだ
「…………でも突然言われても、戦闘訓練やレッスンとかの予約を入れてるし」
「そこは大丈夫だ、こなたそのマネちゃんに、調整してもらったからな」
「ちょっ、マネージャーさん!」
数日前から妙にニヤニヤしてると思ってたら、これが原因か!
まったくもう……お土産は期待しときなさいよ!
「本当は同期や先輩も誘ったんだがな、みんなから「新婚旅行を楽しんで来て」と言われてよー」
「新婚旅行じゃありません!」
「そうそう、こなたそのマネちゃん、お土産はマカデミアナッツがいいって言ってたぞ」
「ハワイでもねーよ!」
マネージャーさんのお土産は、中学生男子が買うような剣にドラゴンが巻き付いたキーホルダーにする、今決めた!
「そんな訳でこなたそ、おめぇーも選ぶの手伝えよ、移動がかったるいから、なるべく近場でな」
突然過ぎてため息をつきたくなるような状況なんだけど、だんだんと顔がニヤけて戻らなくなる
しょうがないなーと言いながら、ノートパソコンの前に座り、ヒビキと肩と顔を寄せ合い、色んなワードで検索していく
あっ、マップを表示させたら、ひときわ大きい施設が目に入った
「近場のリゾートなら……ディ○ニーラ○ドとか」
「やですよっ!癒やされるかも知れませんけど、余計疲れそうじゃないですか!」
「あーあ、今のヒビキの発言で、ディ○ニーラ○ド案件ないなったな」
「ハッ!嘘です、ディ○ニー最高ー!ディ○ニーラ○ドしか勝たん!」
「……」
「……」
「「あははははははは」」
「ははは……はぁー(呼吸を整える)……候補の一つでいいかな?」
「いいですよ……でも出来れば、一日中ゴロゴロ出来る所に行きたいです」
「なら、ルームサービスがある所だね」
「分かってますねー、後は静かなのも必須」
「必須、必須!そう考えると、和室がいいよねー、くつろげそうだし」
「和室いいですねー、畳の上でゴロゴロして、ボケーっとしたい」
「じゃあ、和室とルームサービスで検索してっと」
他愛もない会話なのに、とっても心地良い
旅行は計画を立てている時が一番楽しいって言うけど、そうなのかも知れない
ノートパソコンを二人で覗き込み、「ヒビキ頭邪魔」「うっせー、それより凄いの見つけたから、こなたそメモっとけ!」なんて言い合って、じゃれ合いながらも候補を絞っていく
あっという間に夜はふけていくけど、楽しい時間は終わらない
その日僕の部屋は、遅くまで電気が消える事はなかった
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関東某県にある、某ジ○リ映画のモデルになったと言われている、大きくて歴史を感じるのに綺麗なホテル
一階はめっちゃ広いエントランスなんだけど、その広さのまま天井まで吹き抜けになっていて、まるでホテルの中身を四角く切り抜いたみたいだ
各階の廊下はその四角の外周に張り巡らされているんだけど、一階から見上げると、四方を巨大な本棚で囲まれてるよう気分になる
金色に近いオレンジ色の内装と相まって、とってもオリエンタルな雰囲気だ
余りにも素敵で、僕もヒビキも玄関から入った瞬間に、「ほわ〜」と言っちゃうくらい魅入っちゃった
こんな事なら着古したTシャツに花柄ズボンなんて着て来るんじゃなかった、ヒビキも上下ジャージだし、場違い感がハンパないよ
不安になった僕はヒビキのスソを掴むと、それに気付いたヒビキが、手汗まみれの手でその手を握って来た
……その後の事は余り覚えてない、ガッチガチに緊張しながらチェックインしたと思うんだけど、我に返ったのは、部屋に入った後だったんだもん
予約してたのは、畳が敷いてある和室とフローリングのテラス席、そしてベッドルームの三つが繋がってるような部屋だ
はっきり言って、ネットで見た写真より百倍凄いんだけど……それに引き換え、僕たちの格好は貧乏くさい
美的センスが無いと言われている僕でも、これはヤバいと思って、手を繋いだままのヒビキに声を掛ける
「ねぇヒビキ、とりあえず浴衣に着替えてお風呂行かない?」
「お、おう……そうだな、お風呂回を放送しないアニメは、クソ雑魚ですからね」
「配信しようとすんな!」
「冗談ですよ、ほらさっさと荷物置いて行くぞ」
そう言いながらも手を離さないヒビキに苦笑しつつ、僕たちは着替えてから大浴場へ向かったのだ
見せられないけど、大浴場も凄かった、屋上にあったんだけど、魔法で色んな演出をしてたんだよ!
ちょっとだけ紹介すると、灯籠を浮かべて光源にしていたり、幻影で作られた半透明な小動物や可愛い妖怪が、ちょこんと座ってたり空中を漂ってたりして、日常を忘れそうな演出に溢れてたんだ
露天風呂なんか、上を向いたら大きな満月が輝いていたからね!大きさもそうだけど時間的にもこれも幻影だろうけど、天頂の満月を「綺麗だなー」と眺めていたら、淡く光る空飛ぶクジラが現れて、月を横切ったんだよ!
もう最高っ!て感動してのに、隣に居たヒビキが、満月とクジラを見ながら最低な事を言った
「完成度たけーな、オイ」
「せっかくの雰囲気が台無しだよ!」
それネオアームストロングなんとかってやつでしょ!
前にヒビキに言わされた時に、リスナーさんから教えてもらったよ!下ネタは分からないけど、ニュアンスで下ネタだとは分かるんだからね!
……まぁ、そんな事もありつつお風呂を満喫して部屋に戻ったんだけど、ご飯も凄かった!
初めて実物見たけど、魔法料理まで普通に出て来たからね
ここには熟練の魔法料理人さんが居るんだろうね、伊勢エビは殻をポテチ並みに硬質変化されていて、サクサク丸ごと食べれるし、ステーキは炎に包まれてたんだけど、その炎がお肉とソースを濃縮した炎で、燃えたまま食べても熱くない上に、めっちゃ濃厚な肉の味がしたんだ!
デザートなんて、風魔法に包まれた粒が入っていたんだけど、食べたら口の中で香りが爆発したからね!
一口食べる度に、ヒビキ共々サイコー!って悲鳴あげてた
でもさ、これだけ凄いと流石に申し訳ないんだよね
だからさ、食後のお茶を飲んでるヒビキに、僕は断られるのを承知で尋ねたんだ
「ねぇヒビキ、やっぱりホテル代は僕も払うよ、いくらなんでも高すぎるから」
「こなたそ、奢るって言われたら何も言わずに奢られるのが、私たちのルールだろ」
案の定、ぶっきらぼうに拒否された
ルールって言うか暗黙の了解なんだけどね、奢られた方は感謝だけして、次に奢り返すのが定番化してるんだ
だから今回も、ヒビキが「誘ったんだから、私が払ってやるよ」って言った時は、普通に「ゴチになりまーす」と返事したんだけど……正直舐めてたよ、料金を調べるのはやらしいと思ってしなかったけど、絶対にヤバいって
「そうは言うけどさ、ここって一泊十万以上するよね?」
「値段なんか関係ねーだろ、それよりそろそろ時間だから、こなたそ用意しろ」
「は?用意って何のさ?」
「マネちゃんがホテルでの撮影許可を取ってくれたからな、配信するんだよ」
「え、配信って…………ヒビキの馬鹿!ご飯食べる前に言いなさいよ、せっかくの撮れ高だったのに!」
もうほとんど残ってない、余ったのはヒビキが晩酌のつまみにするって言ってたから、大皿に移しちゃったよ
流石にこれを映しちゃうのはマズいよね?SNS用に写真撮っといたから、配信ではこれを出すか?
なんてあたふたしてたら、ヒビキは苦笑しながら配信用のチョーカーカメラを差し出した
「こなたそ慌てなくていいぞ、今回の主題は他にあるからな」
「他にって何?魔法料理よりハエるのがある訳ないでしょ!」
最近食べてるディスカウントストアのお弁当じゃないんだよ!
魔法料理なんてテレビか動画でしか見たことなかったのに、何で言ってくれなかったのさ!下手したら、僕たちの一ヶ月分の食費より高かったんだから!
なんて憤る僕をよそに、ヒビキは苦笑しながら「あるんだよなー、これが」と言って、配信をスタートした
「みなさんこんばんわー、さあ始まってしまいました、旅行配信、何故か一部の人からは新婚旅行と呼ばれてますけど、ホテルの許可が降りたので、こなたそと配信やって行こうと思います……ほら、こなたそ、挨拶しろ」
「こんこなたー……みんなごめん!ご飯見てもらいたかったけど、我慢出来なくて食べちゃった」
「ん?こなたそ何言ってるんですか、食べ終わった後に、私が配信あるの教えたんですけど」
「違うからね!魔法料理が出てきたんだけど、僕が我慢出来なくて食べ始めたんだよ!」
●まーた庇い合ってるよ、尊いな
●てぇてぇの波動を感じる
●魔法料理より、二人の旅行配信が見れた事の方が嬉しい
●二人の幸せな顔で、ご飯三杯はいける
【¥10,000 ご飯食べれて偉い】
「スパチャありがとー、でもご飯食べただけで投げるのは止めてよ下さい(笑)」
「えっと、一応料理の写真撮っといたから、これ張るね」
「こなたそ、それは必要ない」
「必要ないって……え、これって案件じゃないの?でも撮影の許可をくれたんだよね?ならさ、少しでもこのホテルの良い所を紹介したいんだけど」
「いらねーんだよなー、そんな紹介」
「要らないって……なら、なんで配信始めたのさ?」
それ以外に配信を始める理由なんてないでしょ?
そう思ったのに、ヒビキは悪戯が成功した子供のような笑顔で、僕に聞いて来た
「こなたそ、今回の旅行どうだ?楽しんでるか?」
「え、うん、めっちゃ楽しんでるけど」
「お世辞はいらねーからな」
「あのねーヒビキ、僕がヒビキにお世辞なんて言うと思ってるの?これガチだけど、一緒に計画を立ててる時から、僕は本気で楽しんでたからね!」
●断言天使かわゆす
【¥8888 これはミッション・コンプリート】
●龍王様の笑顔が眩しい
●砂糖が口から止まらない
「良かった……なら、大成功ですね」
「大成功って、何が?」
嬉しそうに言うから変なことじゃないだろうけど、身構えてしまった
そんな僕の疑問をヒビキは、チョーカーカメラを操作する事で、解消してくれた
チャット欄の枠を僕の前まで移動させると、20インチモニターくらいまで広げた
映し出されるのは、動画サイトに投稿されている、リスナーさんが見ているライブ映像
アバターを着込んだ僕とヒビキがバストアップで映っているんだけど、問題はそこではない
配信では、その日のテーマをタイトルにして画面に載せてるんだけど……そこには大きな文字でこう書かれていたんだ
『#サプライズ企画!こなたそへの誕生プレゼント!!』
それを見た瞬間、頭の中が真っ白になった
だって、一週間後に誕生日なんだけど、僕は何の企画も用意出来なかったんだから
フォロライフでは、基本自分の企画は自費でやらなきゃならない、でも、僕は収益化が遅れたせいで、期日的に誕生日企画をやる余裕がなかったんだ
そう、今年はひっそりとやってお茶を濁そうと思ってたのに……このゲキかわドラゴンは、それを許してはくれなかったみたいだ
「本当はこなたその誕生日にやりたかったんですけど、それだとバレちゃいますからねー」
「そんな事の為に、わざわざ旅行に連れて来てくれたの?」
「そんな事って言いますけど、おめーは誕生日企画が出来なかったと、落ち込んでたじゃないですかー」
「それは……」
確かに言ったけど、冗談半分に笑いながら言っただけじゃん
……やだなー、落ち込んでたのバレてたのかー
「と言う訳で、ひと足早いこなたそへの誕プレでしたー!」
「ヒビキ……」
はしゃぐヒビキを他所に、僕は顔を伏せてしまった
フォロライフの冒険者なのに、まともな誕生日企画も出来ないと落ち込んでたのに、それを慰めてくれるとは、思ってもみなかったから
うつむき黙る僕に、ヒビキは心配そうな声を出した
「どしたこなたそ、もしかして……嬉しくなかったか?」
そんな不安そうな顔で聞かないでよ!嬉しくない訳ないでしょ!
「馬鹿っ!」
「うおっ、いきなり抱き付くなよ、危ないでしょ」
ヒビキが龍人で良かった、普通の人だったら、このハグで骨を折ってたと思うから……力いっぱい抱き締められるヒビキで、本当に良かった
「ありがとヒビキ、最高のサプライズだよ」
「お、おう…………えっと、リスナーのみなさん、こなたそが感極まってるんですけど、こんな時、どうすりゃいいんですか?」
●抱き締めたらいいんじゃね?
【¥10,000 ご祝儀】
【¥5,000 やっぱり新婚旅行だった】
●ぐずるこなたん可愛い
●てぇてぇ
【¥10,000 先ず、ベッドへ運びます】
【¥50,000 今が投げ時】
【¥30,000 てぇてぇ】
【¥50,000 こんな幸せなサプライズ見たことない】
胸から顔を離して、潤んだ目でヒビキを睨み付ける
鼻と鼻が当たりそうな距離だけど、気にしない
「グスッ……来月にあるヒビキの誕生日は覚悟しといてね」
「怖いですねー、私は何されるんでしょうか」
全然怖がってない笑顔に向けて、僕は鼻をくっ付けて言ってやる
「決まってるでしょ…………今日のお返しに、目一杯幸せな気持ちにさせてあげるんだよ」
●てぇてぇ
●てぇてぇ
【¥10,000 てぇてぇ】
【¥30,000 末永く爆発しろください】
●心が妊娠しました、認知してよね
【¥50,000 てぇてぇ】
「甘いなこなたそ……私はもう、最高に幸せなんだよなー」
そんなとびっきりの笑顔なんかに、僕は騙されないからね!
それが最高だと思っているなら、限界なんか超えてやる
だって、僕をこんなに幸せな気持ちにしたんだからね、ヒビキにだって同じ気持ちを味わせてやるんだから!
こんな温泉に行きたい!




