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7、魔王①



 暗闇の中から次々魔物が押し寄せる。

 どこから湧いているのか。いや、恐らく魔王が生み出しているのだ。

 つまりこの魔物たちの流れに逆らって先へ進まないといけない。

 飛び掛かってきた魔獣をひらりと避ける。時にはナイフで叩き落とす。



「ギル君、大丈夫!?」


「良い! 俺に構うな、走れ!」



 魔物の攻撃をかわしながら俺たちは駆けていく。

 こればかりはカレンに頼ってばかりもいられない。

 これ以上洞窟を揺らしたら今度こそ崩落を起こして生き埋めになりかねないからだ。

 それにこんな大量の魔物、一体一体相手にしていてはキリがない。


 立ち塞がる魔物を蹴り飛ばし、さらに進む。

 しかし押し寄せてくるのは魔獣だけではない。

 それは一瞬の事だった。俺も、カレンも動くことができなかった。

 カレンの力はすさまじい。が、動けなければその力を使うことも敵わない。



「ギ――」



 こちらに手を伸ばしたまま、カレンの体がゼリー状の液体に飲みこまれる。

 スライムだ。それもかなり大きい。本来の生息地は水場のはずだが、そんなのはお構いなしだ。

 牙も爪もないが肉食。その体の中に獲物を閉じ込め、数日かけてゆっくりと消化する。

 今まさにカレンがされているように。



「カレン!」



 カレンがその粘液の体の中でもがいている。しかし彼女の力をもってしても液状の体を引き裂くことは難しい。

 俺は地面を蹴った。

 ナイフを構え、スライムに切りかかろうとした瞬間、凄まじい風と浮遊感が襲う。

 気付くと脚が地面を離れていた。スライムの中でもがくカレンがみるみる遠ざかっていく。

 すぐ真上から響く咆哮に思わず耳を塞ぐ。魔物たちが恐れ戦いて散っていく。

 さすがは上位種の魔物。魔獣たちもドラゴンは恐ろしいらしい。



「逃げましょうギルベルトさん」



 ドラゴンの背から、ヨシザワがこちらを見下ろしていた。

 ドラゴンの爪が俺の服を引っかけて飛んでいる。器用なことができるものだ。



「この魔物の群れはお前が操っているのか?」


「ち、違います! 二人に死んでほしくない」


「じゃあ今すぐあの魔物を止めてくれ。そうすれば俺も助かるし、世界も救われる」


「……ごめんなさい。元の世界には戻りたくないんです」



 風の音に紛れて消えてしまいそうな声だった。

 ドラゴンを操り、風を切って飛びながら、ヨシザワは肩を落として背中を丸める。



「力が無ければなにもできません。元の世界で暮らしていたら、カレンちゃんも私なんかと仲良くしてくれなかったと思います」


「そんなことはない。きっかけさえあれば、力なんかなくとも君たちは仲良くなっていたと思う」



 力がなければなにもできないなんて聞き捨てならない。

 俺に彼女たちのような力はないが、それでも逃げたりはしない。

 ナイフで爪に引っかかったシャツを裂く。



「ギルベルトさん!」



 悲鳴がどんどん遠ざかっていく。

 それほど上昇していなかったのが幸いだった。軽い衝撃。すぐに立ち上がり、駆け出す。

 自分の方向感覚を頼りに、暗くだだっ広い空間を行く。



「どこだ、カレン!」



 返事はなかった。

 聞こえるのはただ、獣の唸り声と何かが這いずるような気配と、そして水が跳ねるような音。

 俺はさらにスピードを速める。

 見つけた。

 まるで巨大な水滴だ。中心に囚われたカレンはぐったりして動かない。

 やはり怪力だけではゲル状の体を持つスライムの拘束を解けなかったのだろう。

 俺はナイフを構える。そしてスライムの中に飛び込んだ。


 中は恐ろしいほどに静かだ。眼を見開いても、視界がぼやけて良く見えない。それでも探すしかない。

 生温かい、ゲル状の体の中でカレンを抱き寄せ、視線を動かす。

 そして見つけた。ゲルの中に浮かぶ、クラゲのようなふわふわした透明の球体。

 ナイフを構え、それを引き裂く。瞬間、風船を割ったようにしずく型をしたゲルが崩壊した。



「スライムを倒すにはコツがある」



 ゲホゲホとせき込み、ゲルを吐き出すカレンの背中をさすりながら言う。



「中に浮いてるフワフワしたのが、ヤツらの核だ。次にスライムに食われることがあれば――」


「もう二度とスライムには食べられない!」


「そうだな」



 うんざりした様子のカレンを宥めながら、俺は立ち上がった。

 しかしカレンは動かない。

 視線を固定したまま、ゆっくりとそれを指差す。



「ねぇ、あれ」



 闇の中で何かが蠢いた。

 目を凝らすと、不定形の輪郭が浮かび上がる。

 スライムなんかよりよほど酷いものがそこにはいた。


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