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5、侵入②




 後ろめたいことを実行に移すのは夜と決まっている。

 この時も例に漏れず、日が沈むのを待って動き始めた。



「神殿の奥に資料室と倉庫がある。そこへ忍び込む」


「分かった」


「良いか、忍び込むんだぞ」


「分かったってば!」



 全然わかってない。

 俺はカレンの口を手で覆う。



「頼むから静かにしてくれ」



 物凄く不安だ。

 カレンが隠密行動に向いているとは思えない。

 ヨシザワもカレンほど声は大きくないが運動能力も高くない。

 そしてクロ。宿屋に一匹で置いていくわけにもいかず、カバンに入れて背負う羽目になった。

 一人で侵入したほうがよほど気楽だがそういうわけにもいかない。



「大丈夫だって。静かにしてればいいんでしょ」



 カレンは口を尖らせながらそう呟いた。

 裏口の扉のノブを飴細工のように捻じ曲げ、力のみで鍵を開けてみせる。

 つくづく便利な力だ。こればかりは俺にはできない芸当だ。

 おかげで神殿の中へすんなり侵入できた。

 こんな場所に深夜忍び込もうとする物好きは多くない。よって警備もそれほど厳重ではないようだ。

 とはいえ、当然まったくの無防備というはずもない。


 資料室兼倉庫。

 そこに通じる大扉の前に見張りがもう一人。

 動く様子はない。



「首を手刀でトンってしたら気絶させられないかな」


「馬鹿な事するな。首が千切れ飛ぶぞ」


「他に道はないんですか?」


「ダメだ。地下に通じる通路はここしかない」



 なにか前に進む方法はないかと思考を巡らせる。

 それが良くなかったのかもしれない。前ばかり見ていて背後がおろそかになった。

 靴音が響く。近付いてくる。



「警備の人!? もう一人いたんだ」



 進めば扉の前の警備に見つかる。戻ればこちらへやってくる警備に見つかる。

 挟み撃ちだ。逃げ場はない。

 ここで見つかればもう神殿に忍び込むのは不可能。

 扉は目の前にあるのに。

 靴音は近付いてくる。そこまで来ている。

 背中でなにかが動く。黒い影が暗闇の中を駆け、飛び出して行く。

 扉の前の警備が悲鳴を上げた。



「来るな!」



 不穏な気配に靴音が止まる。



「どうした?」


「犬……いや、魔獣!?」



 クロが跳ぶ。ガラスを突き破り、闇の中を駆け出す。



「外だ。応援を呼んでくれ!」


「な、なんでこんなところに魔獣が」



 靴音が遠ざかっていく。

 扉の前の警備は窓を開け、クロを追って外へ走り出す。

 こうして神殿に静寂が戻った。

 ヨシザワが振り向いた。もう警備はいないのに、声を潜めて言う。



「お役に立てましたか?」


「……やるな」



 大扉には当然鍵がかかっている。

 が、そんなものに大した効果はない。

 カレンが金属製の錠前をねじ切り、こちらにドヤ顔を向けた。



「お役に立ててるでしょ?」


「分かった分かった」



 階段を下り、地下の倉庫へと進んでいく。

 それほど頻繁に人が入っているわけではないのだろう。

 埃っぽい部屋だ。地下にあるせいもあってか、ひんやりした空気が満ちている。

 のんびりしている暇はない。

 それほど広くない部屋に箱がみっちり積まれている。これを一つ一つ調べて行かなければならない。

 仰々しい箱を解き、カレンが顔を顰めた。



「ガラクタばっかりじゃん。なにこれ」


「“聖遺物”だ」



 歴代の勇者たちが残して行った異世界の品。

 とはいってもどれも二百年以上前のものなのでボロボロだ。俺の目にはそれがなんなのかもよく分からない。

 しかし彼女たちはそうでもないようだ。

 朽ちかけた本を手に取り、カレンが声を漏らす。



「見て、数Ⅰの教科書。うちの学校で使ってるのと同じだ」


「二百年以上前の勇者たちなのに……私たちと同じ時代から召喚されてきたのかな? 高校生の集団失踪事件なんて聞いたことないけど」



 出てくるのは未知の言語で書かれた教科書や劣化した小物類など。

 どれも歴史的価値は高いのだろうが俺たちの求めているものとは違う。

 なにかないかと血眼になって箱の中をひっくり返していく。



「……えっ」


「どうした」



 なにか見つかったのか。

 期待を込めてヨシザワを見るが、彼女の顔色が良くないのは暗闇の中でも分かった。



「クロがそろそろ限界です。そろそろここを離れないと」


「くそっ……ここまで来たのに」


「ねぇギル君、これ」



 カレンが手に黒い板を持っている。確か「スマホ」と呼ばれる機械だ。

 先代の勇者が持っていたものか。画面にヒビが入っている。

 ということは。



「中に写真とかメモとか残ってるかも」


「良いぞ。中を見てくれ」


「ダメなの。やってみたけど電源つかない」



 少なくとも二百年以上前の代物だ。劣化していて当然。

 が、カレンは手の中の小さな板をジッと見つめている。闇を映した画面の中に何かを見出そうとしているようだった。



「もしかしたら充電がなくなってるだけかも。バッテリーがあれば、もしかしたら」


「本当か!」



 それならばまだチャンスはある。

 スマホの充電器はミツイが作ってくれているはずだ。

 重要な手がかりが見つかるかもしれない。



「でもこれ……なんか……」



 カレンが首を傾げる。なにか違和感があるようだが、じっくり聞いている余裕はない。



「早くしないと見張りの人が戻ってきちゃいますよ!」



 どうやら時間切れだ。

 黒い板切れを手に、俺たちは神殿を駆けだした。



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― 新着の感想 ―
[一言] なるへそ… そりゃー勇者が本物なら尚更真実は告げられないな
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