5、侵入①
どんな事が起きても、時間さえ経てば朝は来るものだ。
結局、宿屋に泊まる必要はなくなった。
一晩中憲兵に事情の説明をしていたからだ。
カレンとヨシザワは憲兵宿舎の部屋を借りて休ませたが、眠れるはずもない。
朝焼けの差し込む無機質な食堂の片隅。
聴取を終えて戻った俺に、ヨシザワは虚ろな視線を向けた。
「シノハラ君は最初からこうするために私たちを集めていたんでしょうか」
直接惨状を見ていないヨシザワでさえこの憔悴ぶりだ。
友人の亡骸を見てしまったカレンは、今一体どんな状態だろう。まだ部屋から出てきていないようだが。
宿屋の中は酷いものだった。
シノハラは仲間たちのスキルを全部奪ったらしい。
「彼らの亡骸は丁重に埋葬するよう頼んでおいた。それが慰めになるかは分からないが」
「待って」
カレンだ。眠っていないのだろう。目が赤い。泣いていたのかもしれない。
しかしその目は光を失ってはいなかった。
「考えてたの。“勇者が生き返る”って話」
「あんなの真に受けちゃダメだよ」
ヨシザワが怪訝な顔で異を唱える。
「前も“この世界はゲームだ”なんて嘘ついてたんだし」
「それは他のみんなを納得させるためでしょ」
「死んだ人が生き返るなんて話を信じるの?」
「信じられないことならこの世界に来てから嫌になるくらい見てきたじゃん」
一晩中考えていたのだろう。
カレンの言葉は淀みなく滑らかだ。
「瞬間移動したり、傷を治せたり、信じられない力が出たり。そんなのが普通にあるんだから、人を生き返らせるスキルがあったっておかしくないと思わない?」
友人の死から目を逸らしたいのだろう。
なにか方法があると信じないと、きっと正気ではいられないのだ。
カレンが言っていることは無茶苦茶だ。
が、勇者なんて存在そのものが無茶苦茶なのだ。
なにがあってもおかしくはない、かもしれない。
「いってみるか」
*****
全国津々浦々に存在する教会。
その総本山たる大神殿が位置するのがこの街、ヒエロンだ。
住人のほぼ全員が聖職者という、他に類を見ない街だ。
すれ違う神父に無遠慮な視線を投げながらカレンが呟く。
「やっぱり勇者って教会で生き返るの……?」
「なんでそうなるんだ?」
勇者の情報は一般には秘匿されている。その全てを保管、管理しているのが教会だ。
俺は勇者についてもっとよく知る必要がある。でなければシノハラの裏をかくことはできない。
「ここになら俺たちの知らない勇者の情報がきっとある。問題は教えてくれるかだが」
既に手紙は送ってある。
この街には他に見て回るようなところもない。
まっすぐ大神殿へと向かう。
ありえない事態だ。俺一人ではまず間違いなく門前払いされていたところだろう。
「これから神父様のありがたいお話と勇者に関する有益な情報を聞かせていただく。失礼のないようにな」
彼らの秘密主義ぶりには目を見張るものがある。
そして凄まじく排他的。
だがこちらには勇者がいる。無碍にはできまい。
そういう算段だったのだがあてが外れた。
「……ギルベルトさん。まさか今ので終わりってことじゃないですよね」
「ごめんちょっとだけ寝てた。なんか分かった?」
なにがちょっとだけ、だ。
神父の話の、ほぼ最初から最後までカレンが寝ていたことに俺は気づいていた。
普通なら叩き起こしているところだが、今回は別だ。
振り向き、先ほどまで俺たちがいた神殿を見上げる。
「俺も寝ていれば良かったよ」
結論から言えば、この神殿で得られたことは一つもなかった。
神父が説いたのは教科書に載っているような勇者とこの世界の歴史。
過去数度に渡り勇者は召喚され、彼らはこの世界に様々な影響を与えてきた。
君たちも偉大なる先人たちのように世界のため尽くしなさい、と。
それだけだ。
こちらの質問には一切答えない。
二百年前に勇者が内輪もめで世界を滅ぼしかけたという公然の秘密すら口に出さそうとしなかった。
「意地悪して教えてくれないってこと!?」
「なにか言えない理由があるのかも」
どちらでも構わない。
とにかく情報が必要だ。しかし向こうに情報を渡す気はないらしい。
なら取るべき方法は一つしかない。
俺は歩き出した。
「待ってよ、どこ行くの?」
「神殿に忍び込む」
「……え?」
「渡さないなら奪うか盗むしかないだろ」




