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4、大人の勇者④


 サントルという街を訪れるのは初めてだった。

 小さくてそれほど有名ではないが、活気ある繁華街といった印象だ。

 人通りはそれなりに多い。しかもどちらかといえば若者の多いようだ。



「シノハラ君たち、本当にいるのかな」


「絶対いるよ。見つけたら石投げてやろ」


「なんで分かるんだ?」



 ミツイもシノハラが絶対にこの街にいるという確証はないようだった。

 そもそも転移スキル持ちの彼らが一つの場所にとどまっているとは限らない。

 しかしカレンは自信があるらしい。



「ここ、ちょっと日本に似てる気がする」



 平和で賑やかな街を見回し、カレンはある店を指し示した。

 テラス席のある洒落た店。いかにも女性が好みそうだ。



「あの店とか絶対ハナちゃん好きだもん。見てほら、漫画みたいにデッカイ肉。会えたら一緒に行きたいな……」



 カレンが振り向く。

 ヨシザワと俺を見比べて、笑顔を見せた。



「もちろんみんなも一緒にね!」


「そうだな」



 俺は頷いて見せたが、もちろんそんな簡単な話じゃない。

 反省し、更生するには大きすぎる罪。周りはもちろん、本人たちもそれを飲みこめるだろうか。

 しかし少なくともこの街では大人しくしているようだ。

 街は平和そのもの。この辺りには魔物も少ないらしく、街を漂う雰囲気もどことなくのんびりしている。



「じゃあ手分けしてヤツらを探すぞ」


「ええっ、こっから別行動?」


「効率的だろう。問題あるか?」


「大ありだよ。せっかく楽しい街に来たのにデートできないなんて!」



 思わず顔を顰める。

 緊張感がないのはその力ゆえか、あるいは平和ボケしているのか。



「でもギルベルトさん。シノハラ君たちをみつけても一人じゃどうして良いか」


「……確かにな」



 もしもカレンがシノハラたちを見つけたらなんの考えもなく突っ込んでいくだろう。

 こんなところで勇者たちが真正面から衝突したら街が吹っ飛んでしまいかねない。

 結局、初日は三人で街を回ることになった。


 屋台で串焼きを買い、大通りを歩きながら食べ、人の多そうなランドマークをあれこれ回ってシノハラたちを探す。

 なるほど。確かに良い街だ。街並みも綺麗で食べ物がおいしい。

 大通りにはバラエティに富んだ店が軒を連ねている。



「ねぇサユリ、お土産買わない?」


「今買うと持って歩かなきゃいけないから後での方が良いんじゃない?」



 店の前であれこれ物色する二人。

 不意にヨシザワが振り向いた。



「どうしたんですか、難しい顔して」


「いや……なんか……まぁ良いんだけど……」



 これ、ほぼ観光だな。

 そんな言葉を飲みこんで、一日が終わった。

 シノハラたちの行方は分からなかったが、二人ともあまり気にしていないようだった。



「明日の昼はレストラン入ろうよ。あのエビの店」


「でも結構並んでたよ?」



 完全に目的が観光になってしまっている。



「明日からはもっとちゃんとシノハラたちを探すぞ! 今日はもう終わりだ。休む」



 二人にそう宣言をしたものの、簡単に朝は迎えられなさそうだった。

 宿屋問題だ。

 通りがかりの人間を捕まえて宿屋の場所を聞いたのだが、返ってきたのは想定外の言葉だった。

 平たく言えば今日、泊まれる場所が無い。



「どういうこと!? こんなにぎやかな街なのに宿屋の一つもないの!?」


「いや、あるんですけど満席なんですよ」



 地元民らしき男が困ったように肩をすくめる。

 珍しいケースだ。団体の客でも来ているのか。

 残念だが、それならばもう仕方がない。



「今日は馬車で寝よう」



 俺の言葉にカレンは露骨に落ち込んだようだった。



「せっかくベッドで眠れると思ったのに……」


「明日は宿を取ろう。予約だけ今日しておいても良い」


「言いにくいんですが、それも無理だと思いますよ」



 その男は本当に言いにくそうにしていた。

 聞いてみて、なるほどと思った。そりゃあ言いにくかったろう。



「その宿屋、向こう二ヶ月貸し切りになってるんですって」


「宿を二ヶ月貸し切り!?」


「凄いお金持ちが来てるのかな……」



 カレンが悲鳴に近い声を上げ、ヨシザワはあっけにとられたように呟いた。

 しかしそんな簡単な話ではない。


 普通の人間が二ヶ月も宿屋を丸ごと一軒を借りたりはしない。

 こんなバカげた金の使い方をするのは、多分唸るような金を持った子供だ。



「行ってみよう」



 男に教えられた通り街を行き、宿屋につくころにはすっかり日も暮れていた。

 厚い雲の向こうに月が隠れ、建物のシルエットだけがぼんやりとそびえたっている。

 こじんまりとした、二階建ての小さな宿屋だ。

 窓から光が漏れることもなく、人の話し声も聞こえてこない。



「誰もいないんでしょうか」


「ちょうどいい。中の様子を探ろう」


「え!? 本当に言ってる? 全然違う人だったらどうすんの」



 非難がましく言うカレンを無視し、敷地内に足を踏み入れる。

 防犯設備などもなく、侵入は拍子抜けするほど簡単だった。

 さすがに正面から侵入するのはどうかと塀をよじ登ったが、そんなことをする必要もなかったかもしれない。

 あてが外れたかと思ったが、不意に異変に気付いた。



「なんか、変な匂いがするような」


「ゴミ出ししてないんじゃないの?」



 そんなんじゃない。

 俺はこの匂いを知っている。

 宿屋の窓を目前に脚を止める。

 振り向き、呑気なことを言う二人を見る。



「ここで待ってろ」


「は? なんで?」


「いいから」


「理由言ってくれないと気になるじゃん!」



 なにか察したのか。

 カレンが思いのほか食い下がる。

 応戦に夢中になってしまったのが良くなかった。注意散漫になってしまったことは否めない。

 とはいえ最大限警戒できていたとしてなにか変わっていたとは思えないが。



「行かない方が良い」



 闇に紛れ、いつの間にか忍び寄っていたのか。

 あるいはたった今、煙のように現れたのか。

 振り向いたその先。半日探し回って見つけられたなかった少年が幽霊のように立っていた。



「それを見てしまったら、楽しく過ごせなくなる」



 半ば反射的に剣に手を伸ばす。

 が、それを抜き切るよりも先にカレンが素早く振りかぶった。

 宣言通り。石を投げたのだ。

 凄まじい速度と威力を伴った石は、シノハラの腕をかすめて彼の腕に血を滲ませた。



「どの面下げて来たのよ!」


「カレンはいつも乱暴だな」



 苦笑しながら傷口に手を当てる。

 見覚えのある暖かい光。傷がみるみる治っていく。

 カレンが呆然と呟く。



「それハナちゃんのスキルでしょ? なんでアンタが使えるの?」



 ミツイ先生の話は本当だった。

 炎を操る、というのはヤツの持っているスキルの一つでしかない。

 ヤツの本当の能力は他の勇者のスキルを奪うこと。


 そこで一つ疑問を抱いた。

 スキルを奪うというのは具体的にどうするのか。

 奪われた者はどうなるのか。



「カレンちゃん、やめた方が良いよ。なんだか凄く嫌な感じがする」



 なにか感じ取ったのか。ヨシザワがカレンを制止する。

 カレンもまたなにか感じ取ったのだろう。

 しかし彼女は歩みを止めなかった。

 窓を覗き込む。

 その時、ちょうど雲の切れ間から月明かりが差し込んだのはきっと神様の嫌がらせだ。


 カレンが膝から崩れ落ちた。押さえた口元から悲鳴が漏れる。



「ハナちゃん……!」



 ああ、やはりそうだ。

 この臭い。忘れることはない。慣れることもない。

 死臭だ。



「なんで? なんでこんなことするの?」



 まただ。

 仲間すら殺しておいて、シノハラは酷く傷付いた顔をする。

 それを隠すように彼はカレンに背を向けた。

 きっと他の仲間のスキルも奪ったのだろう。

 転移スキルだ。

 彼はまた一瞬で俺たちの前から姿を消した。


 去り際、こんな言葉を残して。



「気にしなくて良い。どうせ生き返るんだから」



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― 新着の感想 ―
[一言] 10代のシノハラ君の倫理観がここまで壊れるとは余程辛いことがあったんですねぇ
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