第6話 因縁の相手
これは試合前日の出来事。真琴や翼、光、晶、飛鳥達女性警察官達が射撃訓練している時の事である。真琴達は射的にことごとく外していたのを見かけた亮輔が
「この下手くそ共が!警官止めちまえ!」
と言い放つ。翼達4人が
「うるさいわね!余計なお世話よ!」
と言い返すと、亮輔が翼から拳銃を奪い
「おい!俺が今犯人だったらどーする?」
と拳銃を突きつけると、真琴が
「あんたには関係ないでしょ!」
と拳銃を奪い返そうとするが、亮輔は拳銃を射的に向け見事にど真ん中にピシャリと6発寸分の狂いもなく撃って見せた。そして
「おい!犯人は動くんだぞ!止まって動かねーもんに当たらねーでどーすんだ?オメーらが外した場所は一般人の人質だと思え!拳銃持って仕事するってのはそーいう事なんだよ!オメーら揃いも揃って人質撃ったって事になるんだぞ!関係ねー訳ねーだろーが!緊張感と自覚持て!」
と怒鳴りつけると一同下を向き泣いてしまった。真琴が
「そこまで言うことないじゃない!」
と庇うも
「だったらあんたがこいつらの罪被れよ。女の泣き落としなんてこの世界じゃ通用しねーんだよ!犯人が男だけとは限らねーんだからな!」
と言って去って行った。一様に
「何なの?あいつ!感じ悪い!」
「明日の試合負けろ!」
等と陰口を言っていた。
そしていよいよ亮輔と現日本ミドル級チャンピオンで5年前に真琴に負けた蜂須賀大樹との日本タイトルマッチが行われる。減量を何とか通過し、青ざめた表情の亮輔と、減量を気にせず体重を増やし続け維持してきた蜂須賀の表情は雲泥の差があった。記者会見で蜂須賀は亮輔の目の前で鳥の手羽先を食べてみせる余裕のパフォーマンスに亮輔はピクリともしない。この記者会見場に来ていた真琴を発見した蜂須賀は
「よお、早乙女。いい女になったじゃねーか!この試合終わったら俺と一緒に夜を過ごそーぜ!そこのねーちゃん達も一緒にどーだ?」
と相変わらず気色悪い顔を近づける蜂須賀に
「あたしに負けた相手となんか一緒にいたくもないわ!」
と気丈に振る舞うが、あの時の蜂須賀と今の蜂須賀では体格が思いっきり違う。今ではダイエットをし、スレンダーな美女となった真琴と、当時は今の亮輔同様減量に苦しんでいた蜂須賀。今では適正体重を超えた大柄な男に変貌していた。一緒に来ていた池田や毛利、島津も
「・・・今じゃ美女と野獣だよな。」
「俺達の真琴ちゃんに手出すんじゃねーよ!」
「おい!沢渡!オメーも何か言ってやれ!」
と明らかにヒールにされている蜂須賀だったが、亮輔は
「・・・もういいすか?俺まだ用があるんで。」
と足早に去って行った。宇喜多が
「おい!沢渡!何で言い返さねーんだ?」
と叫ぶも無言で立ち去る亮輔。蜂須賀が
「へっ!どーせあいつは負け犬だ!だから真琴。今晩俺と付き合えよ。」
と真琴に執着してくる蜂須賀に
「気安く名前で呼ばないでよ!あたしにだって選ぶ権利あるんだから!」
と残っていたトレーナーの柴田の影に隠れる。だが柴田に
「何よりお前が情けねーよ。こんな姿になっちまってよ。」
と捨て台詞を吐かれる。真琴は自分の道を進んだのだが、柴田にとっては未だに裏切られたのと同然だったのだ。前日に亮輔にきつい言葉を言われた翼達女性警察官達は
「どーして男ってそんなに野蛮なの?信じられない!」
と怒っているようだが、真琴にとっては言われても仕方ないことだと捕らえていた。亮輔はともかく巌に対しては共に歩んだ夢を引き裂いたようなものだったのだから。
一方亮輔は今日は非番だったのだが、学童に預けている妹の美智を迎えに行っていた。あのアメリカの孤児院からようやく祖国へ連れ出し、今は仲のいい友達と毎日遊び、すくすくと育っている美智だったが
「・・・兄ちゃん。今日はちゃんとお家に帰ってきてね。あたし兄ちゃんいないと生きていけないんだから。」
と元気のない声で話すが
「大丈夫だよ。兄ちゃん今まで一度も負けてねーんだからよ。それより今晩何食べたい?試合が終わったら2人で何か美味いもん食べに行こーぜ!」
と笑って励ます。美智はそれよりも
「兄ちゃんとお家で食べたい。」
と不安気な表情で話す。亮輔は
「わかった。わかった。今日の試合終わったらケーキでも買って2人で食べよう。兄ちゃんと約束だ。」
とあくまでも明るく振る舞う。この様子を遠くから見ていた真琴達強行犯係の一同や翼達女性警察官達は
「そうか。あいつが子供に優しいのはあの娘の影響なんだ・・・」
「あいつはあの娘の為に早く帰ってたんだ・・・」
「あの娘を守るために戦っているんだ・・・あたし達何も知らないで・・・」
と察していた。
そして夜になる。後楽園ホールは超満員。テレビ中継もされており、場内はこの一戦を今か今かと待ちわびていた。この会場には妹の美智を練習生達に預け、遠くで見ててもらっていた。真琴達強行犯係の他にも翼達女性警察官達や上司の前田や署長の松平、そしてその松平が深くお辞儀をしている人物がいた。現警察庁官房審議官の織田哲也、彼こそが定時制高校から警察官採用試験、警察学校からたった2年の交番勤務を経て巡査部長試験を受験させ、現在八潮署の刑事に配属した張本人である。
織田は亮輔の父、浩輔に借りがある。当時SITに在籍していた浩輔に何度も命を助けられたからであり、その息子が警察に入った事を知り、影ながら気にかけていた。そして総合格闘家として二足の草鞋を踏むことを許しているのも、配属されてから無茶な捜査ばかりしている亮輔を庇っているのも彼であり、そんな亮輔を見て
「・・・どんどん親父に似てきたなあ。あいつも相当無茶ばっかしてたからなあ。あいつがアメリカで消息を絶ってから・・・見せてもらうぞ!お前の息子の成長した姿を!」
とこの一戦をそれぞれの思いで待っていた。




