第4話 点から線へ
その日の勤務が終わり、帰ろうとする強行犯係の一同に刑事課長の前田が
「今から沢渡の歓迎会に飲みに行こうじゃないか。」
と誘い、酒好きの池田が
「おっ、いいですね。」
と盛り上がっている中、亮輔は
「大事な用事があるんで結構です。」
と断る。一同
「何だあいつ?」
と亮輔の事を快く思っていない。その日の昼食も
「奢ってやるから一緒に飯食いに行こう。」
と誘っても無表情で
「いりません。」
と一言。真琴が
「沢渡君。お茶どーぞ。」
とお茶を差し出すと真琴の手を払い湯飲みを払いのける。
「まるでガキだな。」
と一同呆れていたが、真琴は皆が昼食に行っている間に亮輔がこそこそ何かをしているのを目撃する。それは、署の倉庫で亮輔が何かを口にしている。それは乾燥した干し椎茸であり、口の中に含んで唾液と絡ませ吐いて元に戻すという事を1袋行っていた。真琴は
(もしかしてあれって減量の・・・)
と昔を思い出す。仕事が進むにつれて亮輔の顔色が悪くなるのを見た前田が
「ちゃんと飯食ってんのか?具合悪そうだぞ?」
と心配するも
「大丈夫です。あんたらより動けますから。」
と生意気な口を叩き先程の事件の始末書を黙々と書いている。
夜になり、強行犯係が青物横丁の酒場から出て来ると、黒いフードを被った男が反対車線の歩道を走って通り過ぎる。勘のいい毛利が
「・・・!今の沢渡じゃねーか?」
と気付き、一同尾行する。そこから1Km先の建物にフードの男が入るのを確認した一同は中を覗くと、びっしょりと濡れたサウナスーツを脱いだ亮輔が急いで着替えを済ませ
「亮輔!リングに上がれ!」
とトレーナーらしき人物に促され、グローブを嵌めて素足になりリングに上がる。
ゴングと共にトレーナーとミット打ちを始める亮輔を食い入るように観る強行犯係の一同。
「あいつ・・・格闘技やってたのか・・・」
と丹羽がジムの表に貼ってあったポスターを目にする。
「沢渡君って来週タイトルマッチ?スゲー。」
そのポスターには亮輔と現日本チャンピオンの写真が載っていた。それに気付いた真琴は
「え?この人ってまだやってたの?それに階級上げてる。」
その日本チャンピオンは5年前に真琴が倒した蜂須賀大樹だった。当時はライト級。今は何とミドル級である。6階級制覇を目論む蜂須賀に驚く真琴であったが、リングの方で聞き覚えのある声で亮輔を怒鳴り散らしている。
「脇が空いてるぞ!もっと締めろ!」
「息を止めろ!相手がへばるまで叩き続けろ!」
「ここで左のハイキックだ!返しを忘れるな!」
「もっとカウンターのスピードを上げろ!間違ったらお前がダウンだ!」
「膝も上手く使え!お前の得意技だろ!」
3分が過ぎゴングが鳴る。亮輔はトレーナーと話していると、そのトレーナーに真琴はびっくりする。
「巌さん?」
5年振りの再会に真琴は思わずジムの中へ入り、今は亮輔のトレーナーを務める柴田巌の元へ走って行く真琴。
「柴田さん。帰ってきてたんですね。」
と感動の涙を流す真琴だったが
「誰だお前。ここはお前が入っていい場所じゃねー。」
と突き放す巌。巌にとっては裏切られた相手である。更に亮輔も
「柴田のおっさんから聞いてるよ。この四角いリングは修羅の場だ!リング降りて女になった奴の上がっていい場所じゃねー。」
そして2人に
「練習の邪魔だ。消えろ。」
と言ってゴングが鳴ると2人はミット撃ちを再開した。この態度にキレた池田が
「おい!こいつはあんたを待ってたんだぞ!そんな言い方はねーだろ!」
と食ってかかると、亮輔が
「わかった。相手してやるよ。丁度スパーリングパートナーに困ってたんだ。リングに上がって来い!死んでも知らねーぞ!」
と凄まじい殺気を放ちながら手招きする。巌が
「止めとけ。試合近いんだぞ?遊んでる暇はねー。とっとと失せろ。」
と一同に撤退させようとするも
「こういう何でもやる奴が練習になるんじゃないっすか?丁度俺とガタイが近い連中揃ってるし、すぐ終わりますよ。おい!誰かヘッドギアだけ用意しろ!」
「俺はこの通りルールに乗っ取ってやりますけど、おたくらは自由にやって構いませんから。何なら全員まとめてかかってきてもいいですよ。めんどくせーから。」
と完全に舐めた態度を取る亮輔に全員がキレた。
「あー、武器持ってもいいですよ。そんくらいハンデがねーとつまらねーからな。」
と再び舐めてかかる亮輔に先ず毛利が挑む。元アメリカのレンジャー部隊に所属していた毛利だったが、開始5秒で亮輔の左ストレートをみぞおちに食らい撃沈する。
「武器持っていいって言ったろ?あんたは武器に頼りすぎてっから丸腰になると腰が退けてんだよ!」
と言い放つ。次のラウンドは島津が相手をする。元柔道の金メダリストが相手となればと思ったが、亮輔のチャランボでマットに沈む。
「あんたは掴むとこがなけりゃ何も出来ねーのか?ほら、最後に酔拳使い。今度はあんたの番だ。署内じゃ卑怯者で通ってるらしいな。何使ってもいいんだぜ?」
と池田に挑発する。池田はジムの中にあったダンベルを両手で持ち出すと、亮輔はニヤリと笑う。
「いいじゃねーか!今度の相手もテメーと似たよーな事するって話だからな!来いよ。ちょっとだけ本気でやってやっからよ。」
と武器の使用を許すと巌が
「おい!すぐ終わらせろよ!」
と亮輔に告げると
「10秒で終わるよ。来い!」
と言い放ち、ゴングが鳴ると池田はダンベルの片方を亮輔の顔面目がけて投げるも軽く交わされるが、もう一つのダンベルを亮輔の足下に落とすが、既に亮輔のハイキックが池田のこめかみを叩きダウンさせる。
「・・・余興は終わりだ。続きやるぞ。おい!お前ら、片付けとけ。」
と倒れる3人を運び出す練習生達。ここで真琴が
「まだ残ってるわ!今度はあたしが・・・」
と名乗り出ようとする真琴に巌が
「ここはもうお前が上がっていい場所じゃねー。消えろ。」
そして亮輔も
「オメーはもう女なんだろ?俺は女相手に一戦交える気はねー。男の戦いの邪魔すんじゃねー!」
と怒鳴り散らす。真琴は何も出来ず、何もさせてもらえず、ジムの隅っこで倒された3人を涙を流しながら介抱するしかなかった。
そして練習が終わると亮輔が
「あと頼む。」
と柴田に鍵を渡し、大量のストーブを炊いたジムの一室に閉じこもり、柴田が鍵をかける。
「明日の勤務時間には出すからとっとと帰れ。」
と真琴達を帰した。今まさに、真琴と巌と亮輔、3人の点が線で結ばれそうな時、真琴と2人の男の線が絆でがっちり結ばれ、真琴が点として取り残されていくような感覚に陥った。




