第18話 あれから更に5年後
真琴は八潮署を離れ警視庁に出向した4年後、両国署の刑事課に配属され、強行犯係の係長を勤めていた。上司には八潮署で一緒だった池田が課長を勤めていた。亮輔と美智とはあれ以来全く会えもせず、連絡もない。完全に疎遠となり5年の月日が経っていた。
そんなとある夏の出来事であった。東京水辺ライン両国発着所の水上バス乗り場でテロ事件が勃発すると、真琴率いる両国署を拠点に対策本部が設置され、真琴達も駆り出された。その現場で運命的な再会を果たす。犯行グループの1人が乗客の少女1人を盾に猟銃を突き付けていた。真琴達は手が出せず、何も出来ずにいたが・・・
その時、ヘリコプターのけたたましい音と共に全身真っ黒な制服を着た一団が地上と上空から突如現れ、その中の3人が人質を取った犯人をものの5秒で制圧し、静かに言い放った。
「おい。降参しろ。俺達の部隊はこの国で唯一テメーら犯罪者を蜂の巣にする権限を持っている。」
「3秒やる。大人しく他の奴ら全員の居場所教えろ。」
その男達は、犯人の目の前で全員武装解除し、犯人の足下にライフルやサブマシンガンを放り投げ、犯人が一瞬目を小銃の山に逸らした瞬間、1人目が左脚で猟銃を犯人の腕ごと上へ思い切り蹴っ飛ばした一瞬の隙に少女を右腕で優しく受け止め、後方にいる2人目の男に渡した直後、三角絞めでマウントを取り、左手でホルスターに閉まっていた拳銃を犯人の口の中に前歯を勢いよく折りながら銃口を突っ込んでいた。そして3人目の男が犯人の猟銃をアスファルトにガン!と踏んづけて埋め込み、素早く手錠をかけ確保した。2人目の男が遠くで泣いて見ていた母親に気付き、少女を渡すと
「ママー!」
と少女は母親と互いに泣きながら抱き合った。それを確認した3人目の男は、側にいた警察官達に
「被害者の保護だ!早くしろ!」
と指示を出し、真琴がパトカーに乗せるが、犯人と対峙した1人目の男に、側にいた池田が気付き、思わず
「えっ?おい!お前さわた・・・」
この逮捕術は鮮明に覚えていた。天王洲アイルでの事件であの新米刑事がやっていたのを3人の連係で更に進化させていた。だがその男はボソッと
「背中の看板読めねーのか?俺達はSATだ。大声で名前を呼ぶな。チクったら俺もあんたもあんたの上司もクビ飛ぶぞ!」
と忠告すると、隊長の鬼塚から
「次のミッションに取りかかる。被疑者の身柄を捜査一課に引き渡し、被害者及び近隣住民の安全確保を確認後、直ちに移動!」
と指示が飛ぶと、その3人の男達は小声で
「了解。」
とボソッと話し、先程放り投げたライフルやサブマシンガンを即座に拾い、颯爽と去って行った。近隣住民から
「今の何?」
「SATって書いてあったぞ?」
「あれが噂のSAT?!」
「・・・スゲー。強すぎる。」
と周囲がザワつき始めたその頃、池田が真琴を見つけ出し
「今の奴ら見たか?」
と聞くと
「え?ええ、まあ。」
と呆気に捕らわれていた。池田が
「さっき蹴りかました奴覚えてねーか?俺も顔見てびっくりしたんだけどよ?あの沢渡だったぞ。任務上口止めされてるんだろーな。俺が大声で名前呼ぼうとしたら凄い目つきで怒られちまったよ。ははは。」
と真琴に報告すると
「・・・沢渡君?!あの沢渡君がこの街に帰ってきてたなんて・・・」
真琴はこの5年間、亮輔に会いたくてしょうがなかった。真琴は亮輔を思い続け、いつしか亮輔に片思いしていることに気付いたのだが、巌の時のように突き放されるのと、あの事件の時のように自分が足手まといになるのではという危惧と、もう遠い存在になってしまったのではという心配で、もし次に再会したとしても、なんと声をかければいいか悩んでいた。
それから数時間後の夜には、東京水辺ライン両国発着所を含む水上バスを狙ったテロ組織の犯人達が一斉検挙され、事件は無事収束した。この事件で大活躍したSATだったが、日本の厳しい法律によって機密保持に乗っ取り行動しているため、表から既に姿を消していたが、真琴と池田が勤務している両国署に、隊長の鬼塚と、先程確保した3人組が制服に着替え事後報告にやって来た。正体がバレないよう4人ともサングラスをして目を隠していた。
両国署に構えていた特別捜査本部に彼らはやって来た。制服に着替えてはいるが、署員達から
「あの人達がSATでしょ?かっこいい。」
「凄かったよな。たったの5秒で確保だぞ。」
「馬鹿!チクったらお前も上司もクビ飛ばされるぞ!口に出すな!」
と騒がしくなっている。3人は事後報告書を管理官に提出すると足早に去って行った。
一方その頃、SAT隊長の鬼塚が、SATを目撃した一般人1人1人に秘密保持の為に説明を長い時間をかけて行った後、署長室で署長や官僚達と話している。その席には、かつて亮輔や真琴が勤務していた元八潮署長で、警視に昇格した現警視庁警備部・第一機動隊長の松平がいた事を知った池田が真琴を誘い、遠くから聞き耳を立てていた。
「まあ、隊員について詳しく話す事は出来ませんが、あの3人は我が部隊で特に最強な3人です。頼もしい連中が入隊してくれて助かってますよ。」
と話している。真琴は
(沢渡君はもう新しい仲間と上手くやってるみたいね・・・もうあたしは蚊帳の外、本当に遠い存在になっちゃったんだ・・・)
と落胆していると、SAT隊長の鬼塚に2人は見つかってしまう。その鬼塚が2人に
「ほお、あの時の2人か?」
と真琴と池田を見て察している。よく見ればこの鬼塚は、あのスカイラーク親子殺傷事件の際に亮輔に銃を向け、逆に銃口を握られブライアンの首元に当て
「撃てよ!」
と挑発されていた人物だった。真琴と池田に
「SAT隊長の鬼塚桃太郎だ。あの時は世話になった。先のミッションで察したと思うが、あの3人、沢渡、相主、滝嶋。あいつら3人が日本の警察最強トリオだ。あの最強の男が味方になって心強いよ。」
鬼塚が誰にも口外しないという誓約書をを2人に渡して書かせている間に
「元総合格闘家の沢渡、元世界陸上のメダリストでグレイシー柔術使いでもある俊足の相主、高校総体の体操選手からメキシコに渡ってルチャのリングに上がったクレー射撃もこなす滝嶋。SATの猿、犬、雉って言えば海外でも有名だよ。」
真琴と池田は
「・・・あいつそんな凄い連中と毎日仕事しているのか。」
と言葉を失った。
後日、勤務を終えた池田は、元気の無い真琴を連れて飲みに誘った。夏の夕暮れに、両国駅近郊の飲み屋へ行こうとする2人だったが、踏切の遥か向こう側で花束を2つ持った見慣れた青年を発見した。その青年は私服姿の亮輔だった。踏切の音が鳴り、遠くにいる亮輔は信号を待っているようだった。もうすぐ電車が通過する為に踏切が降りてきてしまう。ここで池田が真琴に
「早く行けよ!真琴!今行かなきゃ一生後悔するぞ!」
と言って踏切の向こう側へ真琴を走らせる。無事踏切を渡った真琴と、電車が通過し前が見えなくなった池田だったが、電車が通り過ぎると、真琴は無事亮輔の元へ辿り着き、手を繋ぎながら夕陽がが沈みかけた中2人で何処かへ去って行った。池田は
「・・・全く、世話が焼けるカップルだぜ。」
と言いながら近くのパチスロ店へ入っていった。




