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SQUARE  作者: 大井 平和
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第15話 阿修羅と化した男

 自ら白目を剥いたまま明らかに気を失い、本能で未だにブライアンを殴るのを止めない亮輔に、観客を逃がし残された一部の人物だけがリング赤コーナーサイドにポツンと残されていた。厳から


「止めろ亮輔!そいつはもう戦えねー!お前の勝ちだ!」


池田も左肩から血を吹き出し、白目を剥いたまま殴り続ける亮輔を見て


「・・・こいつ、もう正気じゃねー、つーか気を失いながら本能でなぶり殺しにかかってやがる!」


織田が側にあったマイクを束ねて


「止めねーか沢渡!2人共もう死んだ!戦いは終わったんだ!」


そして厳が真琴に向かって


「やっぱりお前がいるとろくな事にならねー!どーしてくれるんだ?お前のせいであいつはこんな重傷を負いながら戦った上に今も銃で撃たれたんだぞ!」


八潮署員、機動隊、SAT 、官房審議官やジムの練習生、この日に試合する筈だった他の格闘家達とセコンド達、そして妹の美智が何も出来ずにいる中、観客が逃げ、スポットライトがポツンと寂しく光る日本武道館の中央で一心不乱に


「フシッ!シッ!シッ!シッ!シッ!シュッ!」


と荒い鼻息を鳴らしながら野獣のように


「うがあぁあぁあ!がああっ!があぁあぁあっ!うおらあぁあぁあぁあ!シッ!シュッ!シッ!」


と檻から出た野獣のように吠えまくり、とっくに死体に化けてしまったブライアンを血だらけで無数に見える両腕と拳で殴り続ける亮輔に美智が勇気を持って抱きつき


「兄ちゃん!もお止めて!クリスマスの事謝るから!あたしを1人にしないでー!わーん!わん!わん!あん!」


このたった1人の妹の言葉にようやく正気を取り戻し、亮輔の拳が止まった。辺りはもう亮輔の恐怖に怯え、観客は皆一目散に逃げていき、残っていたのは亮輔に関わる人物数名だけがポツンと残された。亮輔の阿修羅の形相で一瞬にしてほぼ空っぽとなってしまった日本武道館。両親を殺した憎きスカイラーク親子は亮輔に跨がられたまま無惨な姿で絶命していた。顔面がまるでのっぺらぼうにでもなったかの如く見事に目も鼻も口も輪郭や頭蓋骨まで粉々になっていた。それを確認した亮輔はその場に倒れ込み、気絶した。既に到着していた救急車のストレッチャーに乗って運ばれていった。口には人工呼吸器が嵌められ、泣きじゃくる美智とトレーナーの厳だけ乗せて救急車は近くの病院へ走り去って行った。こうして悪夢のような大晦日が幕を閉じた。


 初日の出が昇っても亮輔の意識は回復しなかった。美智の友達が皆お年玉をもらっている頃、美智は全く眠らずに亮輔の回復を待ち続けた。厳に


「美っちゃん。少しでも休もう。」


と言われても


「嫌だ!兄ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌あ!」


と悲痛の泣き声を上げて毎日泣いていた。厳はこの時後悔していた。亮輔はともかく、この普通の女の子にとてつもなく重たい物を背負わせてしまった事を。そして決断する。


「亮輔が回復したら俺は身を引こう。美智には女の幸せがある。それが亮輔と過ごす時間なら俺はいない方がいい。修羅はもう懲りごりだ。俺は阿修羅を生み出してしまったんだ。」


と深く反省していた。


そして3日後、真琴達八潮署の同僚達が見舞いに訪れた。一番後ろに真琴が隠れていた。厳が


「まだ意識が戻らない。美っちゃんは寝ないで付きっきりだ。俺はもうどうしたらいいかわからない。」


と吐露する。真琴が美智の隣に来て抱き締めると


「お姉ちゃーん!」


と真琴の胸の中で大声で泣いた。すると、亮輔の右手がピクッと動いた。池田が


「沢渡?」


と反応すると、右手がまた動き出す。


「兄ちゃん?」


「沢渡君?!」


と美智と真琴が同時に呼ぶ。厳が


「亮輔!」


と叫ぶと、亮輔が人工呼吸器を右手で外し


「うるせーよオメーら。さっきからギャーギャー騒ぎやがって。」


と目を覚ます。美智が


「兄ちゃーん!」


と亮輔に抱きつきワンワン泣くと、亮輔が


「・・・な!勝つって言ったろ?美智!兄ちゃんはずっとお前と一緒だ!」


と言って美智を抱き締めた。そして


「みんないろいろ悪かったな。格闘家はもう引退する。美智にもう2度とこんな悲しい顔されたくねーからな。」


「ダニー達はもう帰ったのか?あいつらにちゃんと礼言わねーとな。どんな事があっても俺を信じて味方になってくれた最高のダチのおかげで勝てたんだ。こんな俺にもダチがいて良かったよ。」


この一言に真琴は


(あたしは心配する事しか出来なかった。やっぱりあたしは女なんだ。彼らのように応援出来なかった。強い沢渡君を信じて上げられなかった。)


と自分の心が女である事に少しショックを受ける。この後厳と真琴は亮輔の元にそれぞれ身を引こうと決心しており、真琴が前田に辞表を出そうとすると、それを厳が奪い破り捨てる。そして


「いなくなるのは俺だけで十分だ。お前は2人の側にいてやれ。少なくとも美っちゃんにはお前が必要だ。」


と言い残し去って行った。これっきり厳はもう2度と真琴や亮輔、美智に会う事はなかった。


その後、試合のマッチコミッショナーが見舞いに訪れ、亮輔に永久追放処分が下されたが、亮輔はスッキリしていた。もう憎きスカイラークはこの世から自分の手で始末したからである。だが、亮輔にはもう1つの目標がある。日本最強の警察官になる事であり、亮輔はそちらの方が気掛かりだった。


 後日、官房審議官の織田が見舞いに訪れた。亮輔はクビを覚悟していたが


「査問会議でお前の懲戒免職は免れた。ブライアンが拳銃所持してたのもあったが、まさかこんな所にこれを持っていたとはな。」


亮輔のトランクスの後ろの裏地に2つの警察手帳が入ってあった。1つは自分の、もう1つは亡き父の忘れ形見としてお守り代わりに隠し持っていた。亮輔は試合後にブライアンを逮捕しようとしていたという上層部の判断だった。だが、試合直前にブライアンの車に跳ねられ、尚且つ拳銃を所持していた犯人への正当防衛として止むを得ず行った事という判決が下ったのだ。そして織田は


「仲間に感謝しろよ。お前がクビにならなかったのは、八潮署員がお前が車に轢かれた後にブライアンのアシを短時間で見つけたおかげだ。」


と言って去って行った。亮輔は見舞いに来ていた真琴達に初めて頭を下げた。


 憎きスカイラーク親子と共に厳が去って行った。2つの点が残されたと思ったが、美智という新たに点に成長した女の子が現れ再び3つの点が結びつこうとしていたが、4つ目の点が現れ、四角いリングを形成するのはいつになるのだろうか?


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