第13話 決戦当日の死神
あの記者会見が開かれたクリスマスの夜以来亮輔は美智と口を聞いてもらえず困っていた。八潮署の一同も亮輔を白い目で見ていた。真琴は複雑な思いに囚われていた。亮輔の意外とも言える行動と、厳に言われた厳しい現実。昔だったら自力で乗り越えられた物を今は世界のタイトルを争う当時の自分以上の強者に挟まれ、奪い合われ胸が締め付けられそうだった。
年末の警察は特に忙しい。それは真琴も、試合を大晦日に控える亮輔も例外ではない。2人も八潮署員も目が回る程働いていた。特に亮輔は未だ減量から脱却出来ずに苦しんでいたが
(もうすぐあいつらを殺せる!ぜってーぶっ殺す!)
と減量苦に加え睡眠不足も重なり、体調維持にも気を配らなければならなかった。前田や松平署長に
「試合があるから休んでもいいんだぞ?」
と言われているが、責任感の強い亮輔は
「仕事なんで。」
と軽く交わし休暇を断り続けていた。
そして大晦日になり、亮輔は松平の計らいで今日は午前中までの勤務となった亮輔だったが、ここで事件が起こる。真琴や池田達と大井町付近で検問を行っていると、1台の乗用車が真琴めがけて物凄いスピードで突っ込んで来る。少し離れた所にいた亮輔が真琴を突き飛ばし車に跳ねられ大井町駅前まで勢いよく吹っ飛んで行った。出血はないが亮輔は倒れたまま動かない。毛利が車の中にいた人物を目撃すると
「あいつ!スカイラークの親父!まさか沢渡を狙ったのか?」
大井町駅前の改札付近に倒れている亮輔に池田が声をかける。
「おい!沢渡!大丈夫か?誰か救急車だ!」
と言ってる間に亮輔がムクッと起き上がり
「うるせーな。大丈夫だよ。受け身取ったからよ。」
と平然と立ち上がり
「俺、午後から有給もらってるんでこれで失礼します。」
と歩いて帰って行った。近くで見ていた光が
「・・・嘘だ!あいつ背中に思いっきりぶつかった筈よ!」
と話し、翼も
「あいつ後頭部を強打したのを見たわ!」
と話す。島津が
「やべー!あいつあの身体で戦うつもりだ!止めにいかなきゃ!」
と厳に連絡すると
「亮輔なら今一緒にいるよ。大丈夫だって言ってるぞ。」
と話した為にさっきの事故の事を話そうとすると、亮輔が厳のスマホを横取りし
「は?ふざけんな!俺は出るぞ!何があってもな!」
それでも島津が説得する。
「お前今さっき車に轢かれたばかりなんだぞ!戦えるわけねーだろ!」
と叱り飛ばす。亮輔は
「だから何なんだよ?事故の処理なら試合が終わってからにしてくれないっすか?こっちは被害届けなんて出す気ねーから。」
と淡々と話すと池田が代わり
「馬鹿野郎!お前死ぬぞ?そこまでして戦う必要ねーだろ!」
と説得するが、亮輔に逆ギレされ
「戦うに決まってんだろ!俺は今日という日のために今まで戦ってきたんだ!2人共ぜってーぶっ殺す!」
そしてスピーカーにしていた一同に
「チクんじゃねーぞ。チクったらオメーら全員殺しに行くからな!」
と物凄い迫力で怒りをぶちまけ電話を切る。
一方ブライアンは
「ちっ!外しやがったか!だがあいつは今日必ず棄権する。もしリングに上がってもダミアンに倒される。そしてあのエロい身体の大和撫子は俺達のモノだ!」
と車の中で話していた。だが、ブライアンはこの会話を八潮署員達に聴かれているのを知らない。実は亮輔が車に跳ねられ、毛利がブライアンの顔を確認した瞬間、ブライアンの車に盗聴機を投げつけていた事を。その会話はそのまま八潮署内に残っていた丹羽がキャッチし録音し、宇喜多の交通機動隊が白バイを飛ばし車を追跡した。八潮署員全員で亮輔とは別の戦いを繰り広げていた。
夕方になり、車が見つかり運転手は逮捕したが、ブライアンは乗っていなかった。既に日本武道館へ行きダミアンのセコンドに付くため傍らにいた。そのダミアンに
「奴はさっき俺が痛め付けてやった。もしここに来たとしても奴は瀕死だ。お前に勝てるわけがねー。終わったらトーキョーの夜に繰り出すぞ。そしてあの可愛い顔した大和撫子もお前の女だ。」
と不敵に笑う。
一方巌は亮輔に
「さっきの話は何だったんだ?」
と聞かれると
「何でもないです。それより試合まだですか?」
と話すも様子がおかしい。既に戦い終わったような疲労感と、身体の痙攣に気付く厳だったが、ここで再び池田から連絡が入る。その間に亮輔のスラム時代のライバルで親友のダニーが仲間を連れて激励にやって来た。ダニー達が
「亮輔。いよいよだな。ぜってー勝てよ!」
「お前は俺達スキッド・ロウの代表なんだからな!」
「ダミアンなんか大したことねー。親父のスネかじってるガキだ!」
と話してる間に厳が池田から事故の顛末を聞かされ
「亮輔。残念だが今日の試合は棄権しよう。今すぐ病院へ行・・・」
と話してる間に厳のみぞおちに強烈なボディブローを浴びせ失神させる。亮輔が
「・・・これで1時間くらいオッサンは眠ったままだ。ダニー。皆。すまねーが今日のセコンドはお前らが入ってくれ。それと、今日の試合にタオルを持ち込まないでくれ。もしリングにタオル投げる奴がいたらお前らがぶっ潰してくれ。俺からの一生の頼みだ。聞いてくれねーか?」
するとダニーが
「今のお前みたら普通じゃねーのはわかってるよ。だけど俺もお前も俺達もそんなモンに負けねーってとこちゃんと見せろよ。」
と言ってタッチを交わす。厳は控え室の隅で失神したままだ。それから30分後
「沢渡選手、出番です。」
と呼ばれ、ダニー達旧友と共にリングに向かって歩いて行った。
観客は超満員。遠くで美智が練習生達と共に見守っているのを確認した亮輔は
(あいつは狙われなくて良かった。)
と胸を撫で下ろす。丁度入場と同時に八潮署の一同や、官房審議官の織田もやって来たが、松平署長が織田に亮輔が数時間前にブライアン・スカイラークの乗っていた車に跳ねられた事を聞かされた。織田は顔が真っ青になるが、入場してくる亮輔をもう誰も止められない。織田は来場している八潮署の一同に美智を探すよう指示する。真琴は罪悪感に苛まれながらもセコンドに厳がいない事に気付き控え室へ走った。この大事な1戦に厳がいないのはどう考えてもおかしい。今日という日を1番待ち望んでいたのは厳だとはっきり理解していた。
遠くで亮輔の入場を観ていた美智。だが
(クリスマスのあれ以来兄ちゃんと口利いてなかったな・・・)
と思っていると、真琴と同じ事に気付く。
「あれ?おじちゃんがいない?」
程なく八潮署の晶と飛鳥が発見し
「見つかった!美っちゃん!お兄ちゃんが大変なの!直ぐ来て!」
と一緒に観ていた練習生達に顛末を話すと
「マジ?」
「ヤベーだろ?」
「沢渡の奴、何で?」
「あれ?柴田さんがいねー!」
「ぜってーおかしい!早く止めねーと!」
と慌ただしくなる。美智を晶と飛鳥に預けて練習生達は控え室へ急ぐとそこには真琴が失神した厳を介抱していた。
その頃、場内は既にリングアナウンサー両者のコールを行っていた。もう誰も止められない所まで来てしまった。高々と両腕を上げるダミアンと、大量の汗をかき、下にうつむきフラフラで両腕をダランと下げる亮輔。控え室で厳が気が付いた頃、試合のゴングはもう鳴らされてしまった。




