第12話 天秤にかけられた大和撫子
そして半年後、遂にスカイラーク親子が来日した。決戦の舞台は大晦日の日本武道館であるが、亮輔はいつものように減量苦に陥り、極限まで神経を尖らせていた。真琴は
「大丈夫?」
と優しい言葉をかけるが、亮輔は
「うるせーんだよ!俺に話しかけんな!」
と突っぱねる。心の中で
(あと1試合で全部終わるんだ!父ちゃん、母ちゃん。ぜってー勝って仇を取ってやる!そうなれば警察官に専念出来て美智を守れるんだ!俺はこの日の為に厳しいトレーニングをしてきたんだ!親子まとめてぶっ殺してやる!)
と自分自身に言い聞かせていた。
そしてクリスマスになり記者会見が開かれる。亮輔、厳の横に座ろうとするスカイラーク親子だったが、その前にダミアンが同僚達と一緒にいた真琴にちょっかいをかける。
「ほお、これが大和撫子かあ。どうだ?これが終わったらトーキョーの夜に繰り出さねーか?」
といつかの蜂須賀のように真琴を誘うと、ブライアンが
「お前ならこいつのいい花嫁になれるんじゃねーか?お嬢ちゃん。息子のワイフになれよ。」
と真琴の顎を触り、失礼な言葉を投げる。すると、一緒にいた八潮署の一同を始めその場にいた日本の取材陣達もぶちギレそうになるが、亮輔が制止する。
「止めとけ。オメーら。馬鹿が移る。」
と1人冷静な亮輔。ダミアンに
「どーした?雑魚が!半べそかいてんじゃねーか?俺様は欲しいモンは何でも力で手に入れたからな!」
と高笑いすると、亮輔がニヤリと笑い
「隣に座ってるパパにもらったもんだけだろ?」
とハッキリ言うと、一同笑いに包まれる。そして
「オメーはパパにダッチワイフでも買って貰え。その女はオメーに抱かれる程安い女じゃねー。」
と言い返すと、真琴は
(えっ?沢渡君・・・)
と一瞬身体が熱くなり、胸が締め付けられる。普段から真琴を突き放している亮輔の口から考えられない言葉が発せられ、八潮署の一同が驚く。するとダミアンとブライアンから
「よし!そこまで上等な女なら、次のタイトルマッチはこの娘をかけて勝負しよーじゃねーか!」
「どっちにしても我が息子が勝つがな!お姉ちゃん!今の内にアメリカへ行く準備をしておけ!向こうに行ったら俺も可愛がらせてもらうからよ!」
と亮輔の事等眼中にない2人に亮輔が
「別に俺に取ってはどーでもいい女だけどよ?まあ、いい。その勝負受けてやるよ。」
このやり取りに場内がざわつく。1人の女をかけて世界チャンピオンも奪い合う、まさに鼻で笑われる臭い芝居のようなやり取りに真琴は天秤にかけられてしまった。真琴は
「沢渡君?あたしの事嫌いじゃなかったの?」
と呆気に囚われ、更に光や晶から
「ちょっと!沢渡!何勝手に真琴を人質にするような事してんのよ!」
「無責任にも程があるわ!真琴に謝りなさいよ!」
と罵声を浴びせられるが、ダミアンとブライアンに
「それじゃお嬢ちゃん達もどーだ?俺とこれから遊ぼうぜ?忘れられねー夜にしてやるよ。」
「俺はこっちの彼女がいいな。あとこっちの彼女も。」
と翼と飛鳥も巻き込もうとするも、池田や毛利、島津に
「俺達は日本の警察官だ。試合前に逮捕したっていいんだぞ!」
と言い放つと、ダミアンとブライアンが大笑いする。
「ダーッハハハハハハ!なんだオメーら!日本のポリスメンか?そんなモン俺様達にとっちゃ蟻んこ程度みてーなモンだぞ!」
この言葉に亮輔は心の中で引っ掛かっていた。確かにこいつらの国の警察官はそうだろうと。死体に変わり果てた両親に特に捜査もせずに棺桶に入れて終わらせた事を忘れていなかった。だが、亮輔は特に反論もせずに
「おい!賞品ならこの女だけにしとけ。他の奴らには手を出すな。じゃあ俺は用があるから帰るぞ。」
と真琴を差し出し、蜂須賀の時と同じように会見場から出ようとすると、八潮署の一同に
「おい!そりゃねーだろ?お前も俺達も舐められてんだぞ!」
「お前それでも男か?」
「真琴が可哀想過ぎるよ!」
「あいつらに背を向けてそれでいいのか?」
と散々に言われる亮輔だったが、その瞳には既に真っ白な光を放つ凄まじい殺気が込められており、一同固まってしまう。厳が
「あいつはもうバトルモードに入ってんだ。触れると怪我じゃ済まねーぞ!」
と警告すると、真琴に対し
「女になったお前が悪い。お前は亮輔にもスカイラーク親子にもモノとして見られてるんだ。逃れたいなら男に戻ってテメーでやり返すんだな。どっちにしても2人はこれからあの時のお前以上のモンをかけて戦おうとしてるんだ。今すぐクリスマスプレゼントの箱の中にでも避難してろ。その箱を開けた方のモノにされるだけだ。」
と突き放す。八潮署の一同は
「ふざけんな!何なんだテメーら!」
と言い返すと厳が
「だから修羅のモンだって言ってんだろ?この世界じゃ強い奴が偉いんだ!勝てば何でも手に入って負けりゃ全てを奪われるんだ!遊びじゃねーんだよ!亮輔もダミアンも互いにリングの上で殺し合おうとしてるんだ!それに関わろうとするからそうなるんだ。もう手遅れだがな!」
と厳しい現実を言って去って行った。
亮輔は、学童に預けている美智を迎えに行き、帰りにクリスマスケーキを買って帰った。亮輔の部屋には美智のクリスマスプレゼントも隠してある。美智にはとっくにバレているが、美智はその優しい兄の気持ちがわかっており何も言わずに受け取っていた。今年のプレゼントは美智と街を歩いていた時に欲しがっていた少々高いペンダント。亮輔は美智が眠ったら枕元に置こうと思っている。
家に帰り、クリスマスケーキとローストチキンを並べ、2人きりのクリスマスを祝うが亮輔は食べずに美智に
「兄ちゃんの分も食べろよ。美智はこれから大きくなるんだからな。」
とせっかくのご馳走を丸ごと美智に譲ると
「そんなのつまんない。1人で食べてもしょうがないよ。」
と食べようとしない。亮輔はまだ当日の軽量の為に食べられないのだが
「この試合にさえ勝てば兄ちゃんはもう辞める。だから今年まで食べてくれないか?」
と説得すると、美智が
「・・・お姉ちゃんがいればなあ。」
と呟きながらケーキとローストチキンを食べる。その頃ニュースでさっきの記者会見が写し出され、美智が見てしまうと
「兄ちゃん!あんな約束したの?酷い!」
と突き放されてしまう。亮輔は
「俺が負けるわけねーだろ?俺はこの日の為に・・・」
と話していると再び美智に
「酷いよ!お姉ちゃんが可哀想!兄ちゃん!大嫌い!」
と泣きながら部屋に閉じ籠ってしまった。
その夜、美智に部屋に鍵をかけられた亮輔は仕方なくクリスマスプレゼントを美智の部屋のドアの前に置いて眠りについた。




