第11話 挑戦状をはねのける雲雀
あのタイトルマッチから半年の月日が流れ、亮輔はジムのベンチで1枚の写真を見ながら激しい憎悪を燃やしていた。
「・・・ダミアン・スカイラーク!ブライアンスカイラーク!」
ブライアン・スカイラークは、アメリカ裏社会のボスであり、マフィアでもある国際指名手配犯である一方、亮輔と美智の両親を殺害した張本人である。亮輔は、10年前のあの日ブライアン率いるギャング達がアメリカの自宅に不法侵入し、寝ていた亮輔の父親を拳銃で蜂の巣にし、母親を後ろから銃で頭部を撃って殺害した。LAの警察は動いていたが、特別な捜査を行わず、遺体を片付けて帰って行った。亮輔が警察官になってから、その警察は両親が白人じゃない事を理由に大した事件として捜査の手を抜いていた事がわかった。だからこそ亮輔は警察官となり、ブライアンと当時の警察官を懲らしめようとしているのだ。
その息子、ダミアン・スカイラークは、こないだの蜂須賀大樹以上の外道で、戦績はたったの5戦5勝。録画を観る限り明らかに蜂須賀の方が格上で、噂では八百長試合を繰り返し、親父のブライアンの闇取引のおかげでチャンピオンになっているという小者であるが、このダミアンに何度も挑戦を打診しているものの、毎回突っぱねられている始末だ。亮輔はこの2人の親子写真を握りしめ
(この外道共が!)
と怒りを滲ませていた。柴田が話すにダミアンは
「勝てそうな相手じゃないと試合を組まない。」
「あいつの目当ては地位と名声とファイトマネーだけだ。」
「今までも勝ち試合だった相手の対戦相手が何故か負けを宣告されているか暗殺されている。」
「必ず裏があるはずだ。気持ちはわかるが慎重にいこう。」
「迂闊に誘いに乗ったら奴らの思うつぼだ。」
と説明されていた。それでも亮輔は
「敵地でも何でもいい。よーするにあいつをぶっ殺せば俺の勝ちだ!」
と頑として聞かない。そして
「あいつら2人まとめて始末するイメージは完璧に出来上がっている。」
「昔の仲間達が俺に奴らの情報を与えてくれている。やるなら早いほうがいい。」
と決意を固めていた。
八潮警察署に行くと、真琴が
「沢渡くーん。電話だよ。」
と受話器を取ると、相手はスラム時代のライバルだったダニー・マッカーシーだった。彼は亮輔達が日本へ発った後私立探偵となり、現地の弁護士や検事と共にスカイラーク親子の動向を探っては亮輔に報告していた。そんなダニーが
「噂は本当だったぞ。あいつの対戦相手は試合中にピストルで撃たれたり毒を盛られたりしてやがった。」
「それだけじゃねー。奴らは武器や麻薬の密売にも関与している。どーする?親父だけならこっちで始末出来るぞ?」
この知らせを聞いた亮輔は
「2人共俺にやらせろ。お前らはどーにかしてこの日本に来るよう奴らを煽ってくれねーか?」
とダニーに頼む。すると
「わかったよ。どっちにしても奴ら汚ねー手を使うからな。気をつけろよ。」
と電話を切った。
電話を受けた真琴は池田に
「相手はあいつの女か?」
と尋ねると、真琴が
「わからないけど英語で喋ってましたよ。」
と答える。丹羽に
「そういえばあいつ、アメリカ帰りの帰国子女だったな。」
と話していると、亮輔は丹羽の胸ぐらを掴み
「好きでそーなったんじゃねー!俺と美智はあの国で!あいつらのせいであそこに捨てられたんだ!テメーに何がわかるんだ?あー!」
と丹羽の首を絞める。毛利と島津が
「止めろ!沢渡!」
と止めに入るが、亮輔は今にも苦悶の表情で周囲を睨み、丹羽の襟首を放し走り去っていった。そんな亮輔の後を真琴は思わず亮輔を追いかけていった。前田が
「お前ら、いくらなんでもそれは禁句だぞ。」
と釘を刺す。
廊下を歩いていた翼と晶にぶつかり走って行く亮輔。
「ちょっと!何すんのよ!」
「聞いてるの?謝りなさいよ!」
と怒鳴られるが、後から走ってきた真琴に
「ごめんなさいね。許してあげて。」
と謝罪し再び追いかけていく。
八潮警察署の屋上に座り込み、またあの親子の写真を眺める亮輔に真琴は
「皆悪気があったわけじゃないのよ?許してあげて。」
となだめるが
「テメーにゃ関係ねーだろーが!これは俺の問題なんだ!」
と怒鳴り散らす。真琴がその写真を見て
「その人達って誰?」
と問いかけると、亮輔は再び
「テメーにゃ関係ねーっつってんだろ!」
と真琴の襟首を掴むと、真琴の制服のボタンが2個外れてしまい、豊満な胸と下着を晒されてしまい、真琴は思わず
「あっ!・・・・」
と声を出してしまい、豊満な谷間を両手で隠しながら赤面すると、亮輔は別の怒りを押さえながら真琴の襟首から手を放し、再び去って行った。亮輔はそんなことはお構いなしに
(あの親子・・・名前通りおふざけが過ぎるぜ!)
と思いながら写真を掌でぐしゃっと握り潰していた。
一週間後、帰りにジムに寄ると、柴田が
「決まったぞ!世界タイトルマッチ!スカイラークが日本に来るってよ!」
という吉報が届くと
「よーやく奴らぶっ殺せるぜ!」
と怒りながらも嬉しい引きつった表情を浮かべた亮輔。アメリカでダニー達スラム時代の仲間がスカイラーク親子に対し
「雲雀じゃなくてただのチキン野郎共。」
「雑魚にしか勝てねー雑魚共。」
「ピストル持たなきゃ戦えねークズ親子。」
「日本のカミカゼをびびっている全米の恥さらし。」
と世界中のメディアに煽っていたのに上手く乗ったようだ。柴田は
「あと1試合でお前は世界チャンピオンだ!絶対勝てよ!お前の家族の為にもな!」
と激励する。亮輔は
「・・・この10年。よーやく雲雀が巣から顔出しやがった!親父とお袋の仇は俺が取る!」
と静かに燃えていた。
一方八潮警察署内では、ブライアン・スカイラークについて一同調べていた。真琴が見た写真を頼りに丹羽が軽く検索すると、アメリカでの罪状がびっしりと暴かれていたが、地元警察に全て揉み消されていた。署員は全員
「沢渡を再び修羅に行かせる訳にはいかない。」
と松平署長を筆頭に亮輔をこっちの平和な世の中で安全に暮らせるよう願っていた。強行犯係は特に
「あいつの暗い過去を掘り起こしてしまった。」
という罪悪感の中、ブライアン・スカイラークをこの国でどう逮捕し、裁くのかを入念に話し合っていた。真琴は心の中で
「沢渡君。必ず戻って来てね。」
と願いながら仕事に取りかかっていた。




