第6話 サファイア。
晩餐会に向かうため着替えていたマティアスは、ばあやがいつもと違う琥珀のピンを取り出してつけようとしているのを見て声をかけた。いつもなら、僕はサファイアをつけている。婚約者…だった、フランの色だから。
「え?ばあや?いつものピンでいいよ」
「いいえ」
そう言いながらばあやが僕のタイに琥珀のピンをさしている。
「本日のお客様はスウェン国の王女殿下でございますでしょう?琥珀はかの国の特産品ですし、王女殿下の瞳の色でもありますからね。…って、フラン様が」
そう言ってピンをつけ終わったばあやが僕を見て笑う。
「ようございましたね。部下としてでもフラン様が殿下のもとに戻ってこられて」
「……」
見透かされたようなばあやの笑みに、ほんの少し顔が熱くなる。
「ああ」
「おや~妙に素直でございますね?おほほほほっ。まあ手遅れでしたけどね」
「……」
片付けながらばあやがつぶやいた一言に、地味に傷つく。
僕が何をしたって言うんだ?
マリエット嬢を口説いたのだってフランが攻略法を練ったし、その前もその前も…僕は嫌だと言っていたのに、父上と共謀して僕をコマのように使ったのは…あいつじゃないか?対象のご令嬢方を事前にリサーチして、花だの贈り物だのドレスだのを手配したのだってあいつだ。
なのに…僕を裏切りやがった。
「お幸せに」ってなんだよ??
…僕はあのセリフを思い出して、むかむかしてきた。
高いところに登らされて、はしごを外された。そんな絶望を感じたことさえ、あいつはわかっていない。あの夜…ピンク色のボールのようなご令嬢の肩を抱いて、僕がどんなに途方に暮れたことか…あいつは弁明もしないし。僕が出した手紙は突き返された。
父上はそれごと面白がっていたし…。じゃあ、フランをゆくゆく宰相にでもするか、とか言い出すし。はあ…。はあ?だよ。
フランに言いたいことは山のようにある。事務官でも…側にいてくれるのは心強いけど。
上着を羽織って、顔をしゃんと王子様仕様に戻すと、マティアスはため息を一つついて、晩餐会会場に向かった。




